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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第6章 世界を超えた再会
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第60話 本当の両親

 もう一度交換する?!

 つまり元に戻すということよね。

 理論的にはそうかも知れないけど。


「何処が簡単なのよ。当時の技術があってこそできたことよ。しかもその殆どは軍事機密で外部への流出もなく、完全に失われた技術なのよ」

「そうだな。守人はそう言い続けている。しかし失われてなどいない」

「彼女が知ってるとでも?」

「いや、この世界に残ってるのさ」

「この世界?!」

「そうだ。イーブリン様のお父様が当時の資料を研究し、突き止めたんだ。そして純粋な魔法が禁忌とされている理由もな」

「大罪……禁忌……まさかっ!」


 あり得ないわ。

 だって、あくまで魔法は物理限界を突破するための補助役。

 それ以外の利用方法は、発見されていないのよ。

 この世界のような魔法は、お伽噺の中だけ。

 現実には存在しないわ。

 だから、そんなことは、絶対に、無い……よね……父さん。


「お前も知ってのとおり、あのお二方は魔術師だ。禁忌とされた魔法を、魔術を習得された」

「それは民衆を惑わす甘言じゃないの?」


 魔法が使えれば、物理限界なんて無いと同義だ。


「事実だ。父さんがここに居ることが、その証拠だ」


 そう言われると、否定ができない。

 でも時子さんという前例がある。

 父さんも異世界召喚された可能性が、ゼロじゃない。


「そして世に広めようとされて罰せられ、お父様は処刑され、イーブリン様はこの世界に転移なされた」

「なんですって!」


 私の知ってる歴史では、2人供処刑されたはずよ。

 だから父さんのいうイーブリンが本人の筈がないわ。


「世界を救うため、着々と下準備をなされているのだ。例え世界中の人々から大罪人と呼ばれていようが、な。中々できることじゃないぞ。だから父さんはお手伝いをさせてもらっているんだ」


 ダメだ、父さんは完全に洗脳されてる。

 私が助けないと。


「父さんになにができるっていうの?」

「いろいろできるさ。今、イーブリン様は動けない状態にあられる。父さんは情報を集めたり、身の回りの世話をしたり、魔法陣を描いたり――」

「魔法陣を描く?! なんでそんなことができるの? そんなことできるのは……やっぱり、そういうことなのね。父さんも……」


 この世界の魔力に当てられたってことかしら。


「ああ、父さんも魔術師になった。子供の頃から興味があったから、いろいろ調べたさ。その度に親には怒られてた。母さんだけだよ、理解してくれたのは」

「母さんは知ってるの?!」

「当たり前だ。だから父さんは魔術師になれた。その過程で歴史の真実ってものを知ってしまってな」


 歴史の真実……

 私が知ってる……私が習った歴史は誤りだと?

 権力者に都合の悪いことは隠蔽されてしまったとでも?


「守人にバレそうになって、ここに転移してきたんだ。その手伝いをしてくださったのが、イーブリン様だったのさ」

「私や母さんを捨てて逃げてきたっていうの」

「逃げたのではない。世界を救うために転移してきたんだ。母さんも理解してくれた」

「嘘だ! 父さんが居なくなってから、母さんは笑わなくなったわ。話が本当なら、そんなことになるはずがないっ」

「そうか……笑わなくなってしまったのか。それは悪いことをしたな」

「そう思うなら今すぐ帰ってきてよ」


 帰ってきてくれれば、母さんもまた笑ってくれるはずよ。


「それはできない」

「なんでさっ」

「それも母さんとの約束だ。絶対に世界を救ってみせる。那夜(なよ)の未来を守ってみせる。それまでは帰れないってな」

「そんなの……どうだっ……いいじゃない。ひぐっ……お願い……顔を見せる……だけでもいいの……母さんに……会いに行って……あげて……ううっ」

「できない」

「なんでよぉ!」


 なんだかんだと理由を付けて……

 いつも泣かされるのは女ばかりだ。

 男なんて……ううっ。


「すまない」

「私に謝るな! 母さんに謝りに行けっ」

「すまない」


 父さんが居なくなり、女手1つで私を育ててくれた。

 これから親孝行していこうと思ったのに、孫の顔も早く見せてやりたかったのに、私も居なくなってしまった。

 今、母さんは1人のはずだ。

 父さんの話が本当なら、再婚もせず、1人待ち続けているだろう。

 だって、私がいくら再婚を勧めても、断り続けてたんだから。

 〝父さんに悪いわ〟って言って。

 母さんは、父さんが生きてるって知ってたんだ。

 必ず夢を叶えて戻ってきてくれるって、信じてるんだ。

 そんな母さんに、ひと目会うことくらいいいじゃない。


「だから那夜(なよ)、お前も父さんを手伝ってくれないか?」

「えっ?」


 なに、突然。


「そうすれば、父さんも早く母さんのところへ帰れるぞ」


 ああ、そっか。

 私が手伝えば、母さんの笑顔が取り戻せるかもしれないんだ。


「本当に?」

「ああ。その為に父さんはここに来たんだ」

「ここに……」


 迷うことはない。

 母さんのため、父さんを手伝うのは娘として当たり前のことよ。

 〝母さんはどうするのよ?〟

 母さん……トレイシーさんか。

 〝父さんを連れて帰るんじゃなかったのよ?〟

 父さん……デニスさんね。

 2人には感謝してるわ。

 でも、私は……

 〝あなたはもう那夜(なよ)じゃないのよ!〟


「ごめん、父さん。私にはもう――」

「デニスとトレイシーのことか?」

「なんで知ってるの?」

「今のお前のことは、デニスに聞いた」


 そうか。

 だから私を見て分かったんだ。

 姿も形も声もなにもかも違うのに。


「父さんを知ってるの?」

「〝父さん〟……か。ふっ。ああ、知ってるさ。彼とは外で一度会ってる」

「外で……」


 そんな偶然ってある?

 それもあの魔女が仕掛けた罠なんじゃないのかしら。


「デニスは知ってたぞ」

「なにを」

那夜(なよ)の本当の両親のことを」

「私は正真正銘、2人の子供よ」

「そういう意味ではない。分かるだろ。トレイシーも薄々感づいてるらしいぞ」

「母さんも?!」

「デニスはそう思ってると話していた」


 そうだったんだ。

 だから母さんは……

 〝違うのよ。きっと原因はあれなのよ〟

 うるさい!

 〝うちの帰る場所のよ、1つしかないのよ〟

 そんなの分かってる。

 もう、あの場所には帰れない。

もう分かっているでしょうが、エイルは転生者です

次回は「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」です

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