第60話 本当の両親
もう一度交換する?!
つまり元に戻すということよね。
理論的にはそうかも知れないけど。
「何処が簡単なのよ。当時の技術があってこそできたことよ。しかもその殆どは軍事機密で外部への流出もなく、完全に失われた技術なのよ」
「そうだな。守人はそう言い続けている。しかし失われてなどいない」
「彼女が知ってるとでも?」
「いや、この世界に残ってるのさ」
「この世界?!」
「そうだ。イーブリン様のお父様が当時の資料を研究し、突き止めたんだ。そして純粋な魔法が禁忌とされている理由もな」
「大罪……禁忌……まさかっ!」
あり得ないわ。
だって、あくまで魔法は物理限界を突破するための補助役。
それ以外の利用方法は、発見されていないのよ。
この世界のような魔法は、お伽噺の中だけ。
現実には存在しないわ。
だから、そんなことは、絶対に、無い……よね……父さん。
「お前も知ってのとおり、あのお二方は魔術師だ。禁忌とされた魔法を、魔術を習得された」
「それは民衆を惑わす甘言じゃないの?」
魔法が使えれば、物理限界なんて無いと同義だ。
「事実だ。父さんがここに居ることが、その証拠だ」
そう言われると、否定ができない。
でも時子さんという前例がある。
父さんも異世界召喚された可能性が、ゼロじゃない。
「そして世に広めようとされて罰せられ、お父様は処刑され、イーブリン様はこの世界に転移なされた」
「なんですって!」
私の知ってる歴史では、2人供処刑されたはずよ。
だから父さんのいうイーブリンが本人の筈がないわ。
「世界を救うため、着々と下準備をなされているのだ。例え世界中の人々から大罪人と呼ばれていようが、な。中々できることじゃないぞ。だから父さんはお手伝いをさせてもらっているんだ」
ダメだ、父さんは完全に洗脳されてる。
私が助けないと。
「父さんになにができるっていうの?」
「いろいろできるさ。今、イーブリン様は動けない状態にあられる。父さんは情報を集めたり、身の回りの世話をしたり、魔法陣を描いたり――」
「魔法陣を描く?! なんでそんなことができるの? そんなことできるのは……やっぱり、そういうことなのね。父さんも……」
この世界の魔力に当てられたってことかしら。
「ああ、父さんも魔術師になった。子供の頃から興味があったから、いろいろ調べたさ。その度に親には怒られてた。母さんだけだよ、理解してくれたのは」
「母さんは知ってるの?!」
「当たり前だ。だから父さんは魔術師になれた。その過程で歴史の真実ってものを知ってしまってな」
歴史の真実……
私が知ってる……私が習った歴史は誤りだと?
権力者に都合の悪いことは隠蔽されてしまったとでも?
「守人にバレそうになって、ここに転移してきたんだ。その手伝いをしてくださったのが、イーブリン様だったのさ」
「私や母さんを捨てて逃げてきたっていうの」
「逃げたのではない。世界を救うために転移してきたんだ。母さんも理解してくれた」
「嘘だ! 父さんが居なくなってから、母さんは笑わなくなったわ。話が本当なら、そんなことになるはずがないっ」
「そうか……笑わなくなってしまったのか。それは悪いことをしたな」
「そう思うなら今すぐ帰ってきてよ」
帰ってきてくれれば、母さんもまた笑ってくれるはずよ。
「それはできない」
「なんでさっ」
「それも母さんとの約束だ。絶対に世界を救ってみせる。那夜の未来を守ってみせる。それまでは帰れないってな」
「そんなの……どうだっ……いいじゃない。ひぐっ……お願い……顔を見せる……だけでもいいの……母さんに……会いに行って……あげて……ううっ」
「できない」
「なんでよぉ!」
なんだかんだと理由を付けて……
いつも泣かされるのは女ばかりだ。
男なんて……ううっ。
「すまない」
「私に謝るな! 母さんに謝りに行けっ」
「すまない」
父さんが居なくなり、女手1つで私を育ててくれた。
これから親孝行していこうと思ったのに、孫の顔も早く見せてやりたかったのに、私も居なくなってしまった。
今、母さんは1人のはずだ。
父さんの話が本当なら、再婚もせず、1人待ち続けているだろう。
だって、私がいくら再婚を勧めても、断り続けてたんだから。
〝父さんに悪いわ〟って言って。
母さんは、父さんが生きてるって知ってたんだ。
必ず夢を叶えて戻ってきてくれるって、信じてるんだ。
そんな母さんに、ひと目会うことくらいいいじゃない。
「だから那夜、お前も父さんを手伝ってくれないか?」
「えっ?」
なに、突然。
「そうすれば、父さんも早く母さんのところへ帰れるぞ」
ああ、そっか。
私が手伝えば、母さんの笑顔が取り戻せるかもしれないんだ。
「本当に?」
「ああ。その為に父さんはここに来たんだ」
「ここに……」
迷うことはない。
母さんのため、父さんを手伝うのは娘として当たり前のことよ。
〝母さんはどうするのよ?〟
母さん……トレイシーさんか。
〝父さんを連れて帰るんじゃなかったのよ?〟
父さん……デニスさんね。
2人には感謝してるわ。
でも、私は……
〝あなたはもう那夜じゃないのよ!〟
「ごめん、父さん。私にはもう――」
「デニスとトレイシーのことか?」
「なんで知ってるの?」
「今のお前のことは、デニスに聞いた」
そうか。
だから私を見て分かったんだ。
姿も形も声もなにもかも違うのに。
「父さんを知ってるの?」
「〝父さん〟……か。ふっ。ああ、知ってるさ。彼とは外で一度会ってる」
「外で……」
そんな偶然ってある?
それもあの魔女が仕掛けた罠なんじゃないのかしら。
「デニスは知ってたぞ」
「なにを」
「那夜の本当の両親のことを」
「私は正真正銘、2人の子供よ」
「そういう意味ではない。分かるだろ。トレイシーも薄々感づいてるらしいぞ」
「母さんも?!」
「デニスはそう思ってると話していた」
そうだったんだ。
だから母さんは……
〝違うのよ。きっと原因はあれなのよ〟
うるさい!
〝うちの帰る場所のよ、1つしかないのよ〟
そんなの分かってる。
もう、あの場所には帰れない。
もう分かっているでしょうが、エイルは転生者です
次回は「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」です




