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第6話 心の中の住人

 エイルを先頭に、外階段を上っていく。

 この階段を上るのも、随分と久しぶりだな。


「ただいまなのよ!」

「ただいま帰りましたー!」

「ただいま」

「おじゃま致しますのでございます」

「ナームコ、さっきトレイシーさんも言ってただろ。〝おじゃまします〟じゃなくて、〝ただいま〟だ」

「そうなのでございますか? よろしいのでございましょうか……」

「なに言ってるんですか。モナカさんの妹さんなんですから、悪いわけないじゃないですか」


 うっ……

 その認識だけは変えてほしい。


「そ、その……ただいまなのでございます」

「はい、おかえりなさい」


 柄にもなく照れているように感じる。

 いきなり慣れろというのも酷か。

 それを考えても、随分と借りてきた猫みたいじゃないか。


「どうした、らしくないぞ」

「わたくしは、こういった経験がないのだ」

「経験がない?」

「ああ、両親はいつもわたくしが寝てから帰ってきたからな。誰かに迎えられるといったことがない」

「お兄さんは迎えてくれなかったのか?」

「お兄様とは、時々会える程度だったのだ」

「そんなんでよく毛穴の位置まで分かったな」

「細かいことを気にする男は、モテないのではないのか?」

「エイルのマネをするなっ!」

「っはっは」


 しかしそうか。

 兄妹バラバラで育ったってことか。

 理由を聞いたら、教えてくれるだろうか。

 そして一番最後に時子が玄関を通る。


「た……ただい、ま」


 うつむいたまま、恐る恐るといった感じだ。


「はい、おかえりなさい」


 いつもと変わらない、帰ってきたという安心感が得られる声。

 時子も感じたのか、一瞬だけ顔が緩んだように見えた。

 トレイシーさんは全員が入っても、開けたままの玄関をずっと見ている。


「どうかしましたか?」

「タイムちゃんはどうしたんですか?」


 そっか。

 タイムを待ってくれていたのか。


「タイムはちゃんとここに居ますよ」


 そう言いながら、胸ポケットに入っている携帯(スマホ)をポンポンと叩いた。


「えっ?! 本当なんですか?」


 えっ、なにをそんなに驚いているんだ?


「はい、本当です」

「そ、そうなんですか。辛かったでしょう?」


 わぷっ、なんで急に抱き締められたんだ?!


「いえ、辛くはないですけど、ちょっと寂しいですね」

「モナカさんは強いですね。オバさんはダメね。涙もろくなっちゃって」


 ええっ、泣くほど寂しいの?

 まあ食卓の賑やかしが居ないのは寂しいけど、トレイシーさんにとってはそこまでなのか。


「母さん、タイムちゃんのよ、まだ死んでないのよ」


 ……は?

 え、そういう解釈なの?


「あら、そうなの?」

「そうなのよ」

「あらやだ、オバさんったら、モナカさんがタイムちゃんはここ(心の中)に居ますなんて言うもんだから、勘違いしちゃったわ」


 あれぇ?

 そういうことになっているの?!


「モナカが悪いのよ」


 俺が悪いのかよっ。


「えっと……その、紛らわしくてすみません」

「いいのよ、オバさんが悪いんだから。それで、タイムちゃんは元気なのね?」

『トレイシーさん、タイムは元気ですよ』

「ホント。それはよかったわ」


 あれ、トレイシーさんにも聞こえるのか?!

 よく見ると、いつの間にかあのイヤホンをしているじゃないか。

 いつの間に付けたんだ。

 そういえば、ナームコとも普通に会話していたな。

 てことは、エイルが抱き付かれたときに付けたってことか。


「えーと、何処に居るのかしら」

『ごめんなさい。声だけなの』

「そうなの? 身体は大丈夫?」

『マスターが生きている限り大丈夫だよ』


 久しぶりに食べる、トレイシーさんのご飯。

 大勢で食卓を囲んで、ノンビリと味わう。

 やっぱり美味しいな。

 俺にとっては、すっかりお袋の味になっている気がする。


「母さん、明日のよ、ナームコを連れて中央省に行ってくるのよ」

「明日は早いんじゃないか?」


 時子はこんな状態だし、無理だと思うぞ。


「モナカは時子と一緒に留守番なのよ」

「なんでだよ」

「嫌なのでございますわ。わたくしは兄様と離れたくはないのでございます」

「モナカも離れたくないのよ?」

「そんなわけあるかっ」

「兄様?!」

「中央のよ、うちとナームコだけで行くのよ」

「え、ボクも留守番ですか?」

「アニカはモナカの世話を頼むのよ」

「そういうことですか。分かりました」

「おいっ」


 お前はそれで納得するな。


「母さんは時子の世話を頼むのよ」

「分かったわ」

「勝手に話を進めるなっ!」

「決定事項なのよ。反論は許さないのよ」

「お前っ、そんなわがまま、とおると思っているのかっ」

「そんなに言うのよ、付いてきてもいいのよ。時子と手を繋いでなのよ」

「う……」


 時子を見ると目が合ったが、すぐに逸らされてしまう。

 いつものように隣には座ってくれているものの、極力椅子を離されてしまっている。

 どうでもいいことだが、ナームコが俺の隣に図々しくも座ってご飯を美味そうに食べている。


「あら、そういえば今日は繋いでませんね。どうしたんですか?」

「そのー、ちょっとありまして。ははっ」

「ダメですよ。ちゃんと仲直りしないと」

「いえ、喧嘩とか、そういうのではないんです」

「そうなんですか?」

「あまり気にしないであげてください」


 食事を終え、シャワーを浴びて寝るのだが……


「時子はモナカと同室なのよ」


 とまあ、鶴の一声で部屋割りは簡単に決まった。

お袋の味

ああっ、ツイフェミ民に見られたら、性差別だとか言われてしまうw

次回は就寝です

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