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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第6章 世界を超えた再会
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第57話 倫理観の違い

 どのくらい経っただろうか。

 私は再び目を覚ますことができた。


「私……生きてる?」


 辺りを見回すと、ベッドに寝かされていた。

 もしかして、仮眠室に運ばれてる?


「エイルさん! 気がついたんですね」


 そう呼びかけてきたのは、あの警備ロボだった。

 まだ居たの?!

 って、もしかして。


「あなた……タイムちゃん?」

「そうですよ、見て分から……ないですよね。ごめんなさい、怖がらせちゃいましたね」


 驚いた。

 まさかこの短時間で制御系を掌握して動かしてるっていうの?!

 学習早すぎない?


「凄いわね」

「なにがですか?」

「だって、警備ロボの制御系を把握して動いてるんでしょ」

「ああ、そのことですか。それが1回転んじゃって、あはははは」


 あははははって、その程度なの?!


「転んだことは、マスターには内緒ですよ」


 気にするとこ、そこなのね。


「言わないわよ」

「でも、不思議な感じです。身体を動かすのって、こんなに気持ちがいいんですね」

「そうなの?」

「はい」


 身体を動かす……か。

 今まではずっとホログラムみたいな存在だった。

 でも今はきちんと身体がある。

 そして恐らく、私を助けるために……


「タイムちゃんが撃ったの?」

「はい、ギリギリ間に合ってよかったです」


 そう……

 タイムちゃんは躊躇(ちゅうちょ)無く警備ロボを殺せるのね。

 私は洗脳みたいなことはできるけど、殺すのは無理。

 折角手に入れた身体なのに、最初にやったことは殺人だなんて……

 私が不甲斐ないばかりに、悪いことをしたわ。

 トラウマになってなければいいけど。


「でもよく動かせる機体が残ってたわね」

「あー、ごめんなさい。説得に失敗したので、乗っ取らせてもらいました」

「……乗っ取った?」


 え、どういうこと?


「聞いてくださいよー、酷いんですよ。タイムがいくら話をしましょうって言っても、聞く耳を持ってくれないんですよ。説得しようとしても、聞いてくれないんじゃ無理じゃないですか」

「ちょっと待って。乗っ取ったって、どういうこと?」

「え? ですから、プログラムを削除して――」

「削除したの?!」

「……なにを驚いてるんですか?」

「あなた、自分がしたことを分かってるの?」

「え? ですから、プログラムを削除して、タイムが使えるように――」

「違う! そうじゃない!」

「え?」


 え、どういうこと……

 ちょっと、理解が追いつかないわ。

 〝プログラムを削除〟ですって?!

 つまり、A.I.を削除したってことよね。

 存在をこの世界から完全に消したってことよね。

 なんでそんな恐ろしいことが簡単にできるの?


「エイルさん? 顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」


 大丈夫じゃないのはあなたの方よ。

 なんで2人も殺しておいて、平然としていられるの?


「いや……」

「エイルさん?」

「近づかないでっ!」

「えっ」

「どうして殺したの?」

「殺した? えっと、なんの話ですか?」

「あなたが殺した警備ロボのことよ」

「警備ロボ? ああ。だって、タイムが撃たなきゃエイルさんが死んでたじゃないですか」

「だからって、なにも殺すことないじゃないっ!」

「え、〝殺す〟……? 確かに壊しましたけど……ああそっか、そうですよね」


 よかった。

 少しは話が通じそうね。


「ごめんなさい。折角の検体を壊してしまって」


 え、検体?


「なにを言ってるの?」

「でも、あの場合は破壊するしかないと思いますよ。それに、パーツ取りくらいはできるんじゃ――」

「私はそんな話はしてないっ!」

「ど、どうしたんですか? そんなに声を荒げて。いくら中に居るヤツは全部壊したとはいえ、他に脅威がないとは限らないんですからね」

「え……全部?」

「はい、全部です。ですから、ロローさんもナームコさんも無事ですよ」

「全部って……え? どういう……」

「ですから、稼働していた警備ロボット全部です」


 理解が追いつかない。

 意味が分からない。


「嘘。だって、45人以上の警備ロボが生きて――」

「150体ですよ」

「え?」

「最初に言ったじゃないですか。全部で150体居るって」

「たっ、建物の中は45人じゃ……」

「5千年前、燃料が切れる前にドックに戻ってたんですよ。150体全部」

「それじゃ……まさか」

「はい。150体全部、行動不能にしてあります。あ、1体はタイムが使ってるから、149体か。無傷なヤツもありますから、安心してください」


 150人、全員殺したってこと?

 な、なんでこんな平然としてられるの……


「システムが独立してるっていっても、ロボット同士は繋がってましたからね。止めるのは簡単でしたよ」


 どうしてこんなに意気揚々と話せるのかしら。


「なら、なんで撃ったの」

「あのときはまだシステムを掌握し切れてませんでしたし、なにより時間がありませんでした。ですから撃つしかなかったんですよ。でも、掌握してからは楽に止められました」

「楽にって……」


 殺すことに躊躇(ためら)いが全く無かったっていうの……


「ただ、一部の機体は通信機能に支障があったみたいで、止められなかったんですよね」

「そ、その人たちは、どうした……の?」

「撃って壊しました」

「そんなっ、簡単に……殺しただなんて……うっ」

「最初は話し合いをしようと思いましたよ。でもやっぱり話なんて聞いてもらえなかったんです。あ、ちゃんと当時の言語で話しましたよ。なのに問答無用で撃ってきたんです。だから正当防衛です。あ、ほら、ここ見てください。弾が擦った跡がありますよ」

「やっ、こっちに来ないでっ」

「どうしたんですか? エイルさんだってハッキングして同じことしてたじゃないですか」

「私は恒星間条約に(のっと)って、それ以上のことはしてないわっ!」

「恒星間条約? なんですか、それ」

「世界で決めた約束事よ。その中の1つ。知能を持つものには人権を与えるというものがあるわ。機械にだって、適応されているのよ」

「え、機械にですか?」

「あなただって、A.I.なのよ。だから私、ちゃんとあなたの人権を尊重してたわよね」

「あ……そっか。エイルさんはタイムのこと、そうやって接してたんですね。ちょっと、悲しいです」


 なによ、自分のことは悲しいって感じられるくらい高度なのに、なんでそれを他人に向けられないのよ。

 まさか、モナカくん以外は……


「いやっ!」

「あっ、エイルさん! 何処に行くん――」

こういうものの差って、絶対に無くならないよね

次回は真打ち登場です

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