第51話 エイルが貰った能力
何度か抜き差ししてみると、なんとか認識されたみたい。
接点部分が酸化皮膜で覆われてたのかな。
それが削れたから反応したってとこかしら。
よかったぁー、一瞬壊したかと思った。
なんにしても、使えるようになったのなら話が早い。
ふふっ、物理キーボードなんて、十何年振りだろう。
ああ、やっぱりいいわぁ。
『なにやってるんですか?』
『ふへ?!』
いけないいけない。
思わず頬ずりしてしまったわ。
でも……うへへ。
『エイルさん! ヨダレヨダレ!』
『うへ?』
いけないいけない。
思わず興奮してしまったわ。
さて! 気を取り直してっと。
ふむ、配列は今も昔も変わらないのね。
なら大丈夫かな。
まずはちゃんと使えるか、試してみましょう。
まずはエディタを立ち上げてっと。
『エイルさん、コマンドリスト――』
『あ、要らないわよ。分かるから』
『分かるって……5千年前のOSが分かるんですか?!』
『当時ありとあらゆる機械制御系に組み込まれていたテロンOSでしょ。一般への普及には失敗したみたいだけど。確かに使われなくなって久しいけど、でも私には関係ないことよ。この子の声を聞けば分かるもの』
『声……ですか?』
『タイムちゃんには聞こえないの?』
『聞こえませんね』
『そう。ならよく聞いてて。私とこの子の会話を』
『会話ですか?』
『さ、良い子だからいろいろ教えてちょうだい』
っと、その前にちゃんと使えるかしら。
いくら声が聞こえても、私の声は入力しないと届かないからね。
……うん、大丈夫みたい。
さて、それじゃあ楽しい座談会といきますか。
まずはご挨拶から。
『こんにちは』
勿論、〝こんにちは〟という文字列を入力したわけじゃない。
機械語でそう言っただけだ。
『だれ?!』
あ、ちゃんと反応してくれたわ。
この子はA.I.が無いのか。
でもこの程度の返事は知ってた。
『私はエイルっていうの。あなたは?』
『いや、怖い』
中々しぶといわね。
こうするとこういう返しなんだ。
えーと……ふむ、つまりこういうことか。
じゃあ言い方を少し変えてみましょう。
『こんにちは』
『あの……こ、こんにちは』
『よくできました』
うん、いい感じね。
『じゃあまずは、服を脱いでみようか』
『ダメ! 恥ずかしい』
んー、そこは嫌なのね。
ならまずは羞恥心を取り除きましょう。
大丈夫よ、痛くしないから。
『え……な、なに……するの?』
『力を抜いて。お姉さんに委ねてごらん』
なるほど、所詮は5千年前ね。
大して強固でもないわ。
よし、上着のボタンが外せたわ。
『ふわ……なんか、エッチです』
『なんでよっ!』
『だって、ああ! そんなとこ攻めるんですか?! まって、そこは! ひゃあ』
『なに赤くなってるのよ。そんなんじゃないからねっ』
そういう風に見えるってことは、そういう風に見る人がエッチだからよっ。
全然違うのに、変に意識しちゃうじゃない。
『えっ?! そこを攻めるのはエグいですよ。壊れちゃいません?』
『このくらいじゃ壊れないわよ。もっと奥まで入れるわよ』
『入るんですか?!』
『ちゃんと入るようにできてるの』
『あっ、やあん。んあっ! はあ、はぁ』
『ほら、なんともないでしょ』
『凄い。新しい境地が見えてきそうです』
『なに言ってるの。こんなの古典中の古典よ。新しいっていうのはね』
『いやぁ……今度は、あっ、なにするんですかぁあああっ』
『さすがにそれは! ちょっと見てられないです』
『ダメよ、ちゃんと見てて』
『なになになに?! そこはそういう風にはできてないよ。ああああっ、いやぁ!』
『そんなことして、人権は守られてるんですか?』
『安心して。憲法では自国民にしか適用されないから、異国の機械に人権なんて無いわ』
『エイルさん!』
『っはは。冗談よ、じょ・う・だ・ん。本気にしないで』
『もう。エイルさんの冗談は冗談に聞こえないんですからね』
『ふふっ、そうね』
『え?』
『なんでもないわ』
タイムちゃんにも、これは超えてもらわないといけないわね。
結局ハッキングなんて、人権を無視した侵害行為なんですから。
味方にはできない方法だけどね。
敵だから許される行為ってヤツよ。
もっとも、この子はA.I.を積んでないから、人権なんて無かったんだけど……やっぱりこうなるのか。
『はぁ、はぁ、はぁ』
『完全に放心してますよ』
私が弄ると、自然とA.I.が発生するのよね。
擬人化が人化するのは何故??
これもアレの影響かしら。
半分も平文にしてないんだけど……いいのかなぁ。
とにかく、これでサーバーは私の傀儡だわ。
『エイルさん、このシステム、自我が芽生えてませんか?』
『あー、まだ話してなかったっけ。そういう力を貰ったのよ』
A.I.までは貰ってなかったはずなんだけど。
オマケなのかな。
『貰ったんですか?』
『ええ。だから時子さんの携帯も、いずれは芽生えるかもね』
『ホントですか?!』
『ふふっ』
さて、後はこの子に頼んで防犯システムに介入すれば……
む?
『参ったわね』
『どうしたんですか?』
『警備ロボットは完全自立型のA.I.を積んでるわ』
『じゃあ、侵入は不可能なんですか?』
『えーと、メンテナンスでドックに入ってないと、プログラムの改竄は不可能みたい』
『そうなんですか』
『ごめんね。私は私にできることしかできないの』
『普通はそうですよ』
『あ、予備機がドックに入ってるわ。この子、味方にできないかしら』
えーと、どんな感じかしら。
……むむ?
『どうですか?』
『んー、難しいわね。この子たち、自我を持ってるの』
さっきみたいな無茶は、ちょっとできないわね。
『えっ?!』
『驚くことじゃないわ。タイムちゃんだって、自我を持ってるじゃない』
『あ……はい。そうでした』
あれ?
私変なこと言っちゃった?
あからさまに落ち込んだわね。
え、タイムちゃんって、モナカくんをサポートするためのA.I.……なのよね。
もしかして、その自覚が無くなるくらい高度なA.I.ってこと?!
タイムちゃんの世界のA.I.には、人権が無いって言ってた。
……? おかしい。
タイムちゃんは管理者が付けた存在よね。
どうしてモナカくんの世界について、詳しいのかしら。
今まで考えたことも無かったわ。
ただのA.I.じゃない?
当時の政府がしっかり守ってくれれば、覇権を得られたかも知れないのにね
次回はいよいよ直接対決です




