第50話 それはさすがに借りられない
やった!
なんとか起動することができたわ。
一発起動……とはいかなかったけど、2回目で成功したのは優秀じゃない?
『タイムちゃん』
『えーと、どうやら外に居るのは警備兵のようですね』
『警備兵?!』
『はい。しかもシステムが独立していて、ここからの操作を受け付けません』
『外の様子は?』
『待ってください。今監視カメラが再起動中です』
『警備兵の資料はある?』
『えっとですね……全体で150体います』
『150!』
そんなの、相手にできないわよ。
『あくまで全体でです。その大半は外と倉庫内です』
外ならここには来られないわね。
でも倉庫はヤバそう。
『えっと、外20、倉庫30、建物15の2交代制ですね』
『随分と好待遇じゃない』
『一部人権が認められているようですので』
『そういえばそんなの、歴史の授業で習ったような気がするかも知れないわ』
この頃から既に人権があったのね。
『随分と進んでたんですね』
『え? 遅れてるじゃない』
『そうなんですか? タイムが居た世界の機械に、人権なんてありませんよ』
『そんな原始的なところから来てたの?!』
『あははは、原始的……ですか』
『あれ、数が合わないわね』
『オーバーホールが必要な機体の替わりや、緊急時の増援用ですね』
増援……厄介ね。
単純計算、少なくとも建物内に45人は居るってこと?
倉庫を漁るにしても、そいつらを相手にしなきゃいけないのかしら。
『稼働可能時間は分かる?』
『1回の補充で、1週間は持つみたいです』
『1週間?!』
『えーと、液体燃料を、直接エネルギー変換できるみたいですね。なので無駄が少なく低燃費らしいです』
『液体燃料……下から圧送された燃料のことね』
『そのようです』
つまり、私たちが自分で寝た子を起こしてしまったということか。
こんなオチがあるとは……
『あ、映像来ます』
壁に設置されたモニターに外の様子が映し出された。
幾つかは〝No Image〟と表示されている。
モニター自体が壊れてて映らないものもある。
5千年も経ってれば、映る方が奇跡よ。
肝心の扉前は……一体待機してるわね。
どっか行かないかしら。
ロローさんたちの様子は……設置されてないのか、それとも壊れてるのか、それらしき映像は見当たらない。
『どうやらタイムたちのことを不法侵入者と判断して、排除しようとしてるようです』
『分かるの?』
『データベースだけは共有してるみたいなの。だからそれを覗き見ることくらいなら可能です』
『そっち経由での侵入は?』
『タイムにはちょっと難しいかな』
『なら私がやってみるわ』
さて、5千年前のシステムが相手か。
お手並み拝見っと。
……あ、キーが叩けないんだった。
え、もしかしてこのスタイラスペンで叩かなきゃならないの?!
頭痛くなってきた。
もー、ナームコさんに手袋型のものを作ってもらえばよかったわ。
なんて、嘆いても始まらない。
『エイルさん、物理キーボードが使えるみたいですね』
『本当?!』
『キーボードは……あ、後ろの収納にあるみたいですよ』
後ろ……あ、これかな。
背伸びしないと届かないわね。
収納を開い……んーっ、ふぅ、開いて……あったあった。
キーボードを取り出……取り……うーん、手が……もうちょい……ふんぬー!
はぁ、はぁ、はぁ。
えっと……椅子……は動かない。
台になりそうなものは……あ。
『エイルさん? まさか……』
『まさかそんなっはははははは……はぁ』
さすがに頭蓋骨を使うのは気が引けるわね。
仕方ない、もう一度借りますか。
『はぁ……』
死体の手も借りたいのよ!
ここに猫は居ないんだから。
よし、これでキーボードを引っかけて……
『いたっ! げほっ、ごほっ』
『ほらー、罰が当たったんですよ』
あいたたたた。
もー、落ちてきたキーボードが頭に当たっただけよ。
バチとか祟りとかじゃないわっ。
……ないわよ。
そんなことより、壊れてないでしょうね。
あー結構埃被ってるな。
落とした時に大分落ちたみたいだけど、それでも埃まみれだわ。
大丈夫かしら。
制御パネルの方は、殆ど埃なんて積もってなかったのに。
この差はなんなのかしら。
しまった時には既に埃まみれだったとか?
とにかく、埃を払いましょう。
ウエスを取り出してっと。
これで埃をはたきましょう。
『げほっげほっ』
『大丈夫ですか?』
そりゃはたけば辺りに埃か舞い散るわよね。
少し吸い込んじゃったわ。
『うー、凄い埃だわ』
あ、ちょっとクラクラする。
目も痛い。
シバシバしちゃう。
いいや、どうせ壊れることはないんだから、水で洗い流しちゃいましょう。
水筒の水をダバダバと掛けて、ウエスで擦る。
『あ、エイルさん! そんなことしたら壊れちゃいますよ』
『大丈夫よ』
うーん、やっぱりこびり付いてる汚れは落ちないわね。
ま、いいわ。
ともかく、ちゃんと使えるかしら。
コネクタ部分は……目立った錆は無いけど、怪しいわ。
えーと、差し込み口は……ここね。
『……反応しませんね』
『え、壊れたの?』
『だから言ったじゃないですか』
嘘でしょ!
あれで壊れたっていうの?!
そんなはずは……
5千年経っても働かされる職員、可哀想だね
次回はエイル式ハッキング術です




