第49話 人の手を借りる
カチャッ
!
外から物音が聞こえてきた。
ロローさんにも聞こえたらしく、素早く扉に近づく。
そしてノブを回してわずかに開けた隙間から、手のひらサイズのなにかを廊下に出した。
それは小型のカメラかなにからしく、フロートウィンドウに外の様子が映し出された。
ロローさんの手元だけでなく、私の手元にも出てるのには驚いた。
へー、タイムちゃんみたいなこと、出来るんだ。
暗視機能が付いているらしく、ノイズ混じりでモノクロだが、なにがあるかよく分かる。
視界が音のすると思われる方に近づいていく。
マイクも付いているのか、音も聞こえてきた。
って、なんでその音がイヤホンから聞こえてくるの?!
あ、ロローさんも驚いてるから、タイムちゃんの独断か。
『静かに。ロローさん、勝手に改造してごめんなさい。それと、声に出さなくても会話できるようになったと思います。試してみてください』
『なんですと?!』
『聞こえてるわよ』
なにかやってるとは思ってたけど、そんなことしてたのね。
中央に仕掛けたバックドアから、いろいろいじったんでしょう。
あー、私もそっちをいじってればよかった。
目の前のお宝に目がくらんで、すっかり忘れてたわ。
『わたくしにも聞こえているのでございます』
え、そっちも繋がってるの?!
……モナカくんと繋げられるの、バレなきゃいいけど。
『うーむ、マズいのであります。改造されたのが上にバレたら、処罰ものなのであります。とはいえ、民間人を巻き込んでしまった手前、仕方のないことなのであります。さて、どんな危険があるか分からないし、ここは一旦退くでありますか。しかし、エイル殿がそれを飲むとも思えないのであります。あの娘は中々に強引でありますからな。絶対に撤退など、しないであります』
なんか、凄い言われようね。
『あーロローさん、気をつけてください。意識を変えないと、考えてることが全部ダダ漏れになりますよ』
『なんですと?! あ、いや、その……聞こえていた……でありますか?』
『強引な娘で悪かったわね』
『も、申し訳ないのでありますっ!』
否定はしてくれないんだ。
よぉーく分かったわ。
『そうね、あなたの希望どおり、撤退は無しよ。まずは相手の正体を突き止めるわ』
『りょ、了解であります』
『それから、改造の件は大丈夫よ。そうよね、タイムちゃん』
『勿論です。上の許可は取りました』
『なんですと?!』
偽造した本物の許可だけどね。
それはともかく、なんの音だろう。
恐らく1つじゃない。
複数のなにかが動いてる。
更に映像は先へと進んでいく。
これといった変化はない。
音の発生源に、だんだんと近づいていく。
やはりエンジン音っぽい。
『ナームコさん、ここって下から燃料が送られている場所よね』
『恐らくそうなのでございます』
なんの設備かしら。
扉には〝関係者以外立入禁止〟と書かれている。
あ、この扉だけスライドドアだわ。
自動ドア?
なにが出てくるのかしら。
いえ、まだ動けるものがあるのかしら。
でも実際に動いてるのよね。
ドアの横にあるパネルにアクセスできれば、開けられるんだけどな。
『直接行ってみるわ』
『危ないですよ』
『行かなきゃ分かんないじゃない』
『我が輩が行くであります』
『ロローさんが行っても、なにもできないでしょ。扉、開けられるの?』
『それは……』
『私が行くしかないのよ』
私が席を立とうとしたら、扉が開いた。
ハッとした瞬間、映像が途切れるのと同時に、イヤホンから一瞬だけ大きなノイズが聞こえてきた。
『ごめんなさい。音声カットが遅れました』
『なにが起こったの?』
『恐らく、何者かに撃たれて、破壊されたのであります』
『撃たれた?!』
つまり、敵ってこと?
しかもロローさんの偵察機を破壊したのよね。
しっかりこっちを認識してるということ。
そして破壊できるだけの攻撃力を備えているということ。
ヤバいわね。
『ロローさん、下に戻ってちょうだい』
『下に、でありますか』
『ナームコさんを守って欲しいの』
『エイル殿は戻られないのでありますか』
『私はこの子にいろいろ聞かなきゃならないことがあるから』
『この子?』
『ええ』
『……了解であります』
『気をつけてね』
ロローさんが廊下に出る。
音も無くスッと移動している。
訓練された兵士は違うな。
私には無理だ。
とにかく、ナームコさんのことはロローさんに任せて、私は私でやるべきことをやりましょう。
じゃ、外でなにが起きてるのか、この子に聞いて……あ。
しまった。
この子寝たままじゃない。
あー、起こしてからロローさんに行ってもらえばよかったかも。
と思った瞬間、廊下がパッと光った。
『うっ』
『どうしたの!』
『大丈夫であります。かすり傷であります』
『撃たれたのね』
銃声は聞こえなかった。
電磁加速銃かしら。
『本当に大丈夫?』
『階段の直前で撃たれたのであります。今は射線が通っていないのであります』
なら、一応大丈夫なようね。
というか、扉は閉めておかなきゃマズそうだ。
ノブを回し、静かに扉を閉めて、ノブを戻す。
次の瞬間、外からノブを回されてしまった。
ヤバい!
ここに居ることがバレた!
しかし、ガチャガチャとノブを回すだけで、一向に扉を開けては来ない。
いや、開けようとしているようだが、ガタガタというだけで、開かない。
私は閉めただけ。
オートロックだったのかしら。
『大丈夫。番号は変えてありますから、時間は稼げると思います』
どうやらタイムちゃんがやってくれたみたい。
『ありがとう。助かったわ』
でもこれじゃ外の様子が分からないわね。
それにドアを壊して入ってこられたら、おしまいだわ。
今のところ、そういった様子はないけど。
一体なんなのよ、あいつら。
あんなのが居るなんて、聞いてない!
「ロローさん、そっちはどう?」
「あいつらはなんなのでありますか?!」
「私だって知らないわよ」
まさか生き残ってた人が居たとでもいうの?
それとも子孫?
あるいは独自進化したなにか。
確率は低いけど、魔獣が入り込んだとか。
魔物が発生した可能性も捨てきれない。
いや、冷静に考えろ。
魔獣や魔物がドアノブを回すかしら。
いいえ、ないわ。
今も5千年前も、この世界にドアノブなんて存在しない。
となると、やはり子孫?
「とにかく、ナームコさんを守ってあげて。電源が落ちたら、打てる手が無くなると思ってちょうだい」
「了解であります。エイル殿は大丈夫でありますか」
「タイムちゃんが扉を閉めてくれたから、立て籠もれているわ。さすがに扉をこじ開けるようなことはしてこないみたい。そっちは閉じられないの?」
「ドアノブ……とかいうものが、壊れてしまったのであります」
「直せないの?」
「ハツデンキの維持で手一杯だそうであります」
「分かったわ。なるべく早くなんとかするから、耐えてちょうだい」
「了解であります」
とは言ったものの、どうすればいいのかしら。
私が今できることといえば、この制御室を掌握することね。
なんだ、やることは変わらないじゃない。
まずはコンソールを立ち上げなきゃいけないんだけど……
私1人だと無理なのよね。
まず手が届かない。
後もう少しで届くんだけどな。
折角ナームコさんにタッチペンを、予備も含めて数本作ってもらったのに。
全く、こんなことになるなんて。
どうしたらいいのかしら……あ、そうだ。
さっきの人に手伝ってもらおう。
『エイルさん、なにしてるんですか?』
『ん? この人に手を貸してもらおうと思って』
『手を貸してって……本当に祟られますよ!』
『安心して。私、そういうの信じてないから』
『そういう問題ではありませんっ!』
もー、いいじゃない。
5千年間ずっと制御盤の前に座って寝て休んでたんだから、もう十分でしょ。
少しくらい働いてもらっても、罰は当たらないわよ。
とにかく、この白骨死体の腕の骨を借りて、先端にタッチペンを括り付ける。
……よし! これで届くわ。
『はぁ……』
死体の手も借りたいのよ!
ここに猫は居ないんだから。
後はタイミングを合わせて、同時に押すだけね。
すぅー、はぁー、よし!
3……2……1……0!
貴方は祟りを信じますか
次回は連中の正体が分かります




