第48話 物音
一体なんなのよ、あいつら。
あんなのが居るなんて、聞いてない!
「ロローさん、そっちはどう?」
「あいつらはなんなのでありますか?!」
「私だって知らないわよ。とにかく、ナームコさんを守ってあげて。電源が落ちたら、打てる手が無くなると思ってちょうだい」
「了解であります。エイル殿は大丈夫でありますか」
「タイムちゃんが扉を閉めてくれたから、立て籠もれているわ。さすがに扉をこじ開けるようなことはしてこないみたい。そっちは閉じられないの?」
「ドアノブ……とかいうものが、壊れてしまったのであります」
「直せないの?」
「ハツデンキの維持で手一杯だそうであります」
「分かったわ。なるべく早くなんとかするから、耐えてちょうだい」
「了解であります」
とは言ったものの、どうすればいいのかしら。
まずはコンソールを立ち上げなきゃいけないんだけど……
私1人だと無理なのよね。
まず手が届かない。
後もう少しで届くんだけどな。
折角ナームコさんにタッチペンを、予備も含めて数本作ってもらったのに。
全く、こんなことになるなんて。
どうしたらいいのかしら。
◆◆◆ 数十分前 非常用発電室 ◆◆◆
「それじゃナームコさん、お願いね」
「承ったのでございます」
「それじゃロローさん、いくわよ」
「了解であります」
昨日、1日掛けて燃料を補充してもらったお陰で、半日くらいならなんとかなるくらいには溜まった。
つまり12時間ほどだ。
これを長いとみるか、短いとみるか、微妙だ。
早速始動させてみたのだが、排気ガスフィルターを交換しろと警告が出てしまった。
交換するもなにも、在庫が見当たらないんですけど。
仕方がないので、午前中はナームコさんにフィルターの清掃をしてもらった。
その後も前回は要点検だったものが、軒並み警告表示に変わってしまい、まともに動かず、改修に追われることに。
素人がオーバーホールを行うと、こうなるって見本かしら。
漸くまともに動くようになったのが日が傾きかけてから。
も、疲れたわ。
それでも早く制圧したいという思いに背中を押され、予定どおり発電機を回すことにした。
薄赤い明かりの中、階段を上っていく。
動くものはなにも無い。
足音が建物の中に響き渡る。
物音は他にしない。
そう思ったのだが、4階にまで上がってくると、私たち以外になにか動く音が聞こえてきた。
これは……エンジン?
下の音が聞こえてきているわけではなさそうね。
上から響いてきてる?
ロローさんも聞こえてるみたいね。
上を指さすと、頷いてくれた。
「ナームコさん、上になにか居るみたい。そっちはどう?」
「こちらは特に気配は無いのでございます」
「そこからなにが居るか分からない?」
「発電機を止めてよろしいのでございましたら、確認できると存じるのでございます」
んー、それは微妙ね。
そこまでして確認してもらう必要があるのかしら。
真っ暗な中進むことになるのよね。
ランタンを点けて進めば、ここに居ると喧伝しているようなものだし。
「得策ではないわね。こっちで確認するわ」
「存じたのでございます。恐らく、燃料の圧送先だと存じるのでございます。今も送られているのでございます」
そういえば、そんなことを言っていたわね。
この上にも非常用発電機があるってことかしら。
それだけならいいんだけど。
ゆっくりと階段を上っていく。
なるべく足音を立てないよう、ソロリソロリと上っていく。
すると、ロローさんが自分が先に行くと、指でジェスチャーしてきた。
しかし私はそれを片手で抑止した。
戦力的にはロローさんの方が上なのは分かってる。
しかし相手は恐らく元素で出来たなにか。
ロローさんでは判断しづらいだろう。
階段上まで登り切る。
そこから身分証だけを廊下にさらす。
身分証に付いているカメラで確認をする。
レンズ的なものが付いているわけではない。
小さな魔法陣が浮かび上がり、写し身の魔法が発動する。
それをフロートウィンドウに映しだし、リアルタイムで確認する。
これならば、身を乗り出さずに確認できる。
まずは制御室のある方……動くものはない。
逆側は? ……なにも見当たらない。
ロローさんに手で合図を出し、廊下に出る。
音は制御室の方から聞こえてくる。
ロローさんも同じ意見のようだ。
私は制御室の方を、ロローさんは逆側を見ながら、ゆっくりと進む。
天井、壁、床を注意深く見ながら進む。
途中にある扉も音がしないか確認し、念のため開いて目視確認をする。
なにも無い。
やはり音は制御室の方から聞こえてくる。
そして漸く制御室に辿り着いた。
音の発生源は、まだ先らしい。
この先はまだ一度も確認していない。
しまったな。
昨日のうちに確認しておけばよかった。
倉庫のお宝に目がくらんだ、昨日の自分が恨めしい。
などと嘆いても始まらない。
用があるのは制御室。
この奥なのだから、放置してもいいのかも知れない。
『ごめんなさい。タイムが動ければ簡単なのに』
タイムちゃんのARなら、確かに発見されることもなく近づけるだろう。
でもそれって、モナカくんありきの能力じゃなかったかしら。
『気にしないで。別にタイムちゃんは悪くないから』
制御室の扉を開け、中に入る。
少し緊張感もほぐれ、一息ついた。
「さて、それじゃ始めますか」
漸く声を出すことが出来た。
それでも、あくまで静かに。
この辺が素人とプロの違いだろうか。
ロローさんは言葉を発せず、静かに頷いた。
私が慌てて口を手で塞ぐと、ロローさんは微笑んで〝大丈夫であります〟と言っているようだった。
ここでやることは、あらかじめロローさんに話してある。
タッチペンを渡し、お互いが持ち場に着く。
私は椅子に座り、ロローさんは中腰で制御台に手をつき、モニターに向かってタッチペンを構える。
そして私が指で合図をしてタイミングを合わせる。
3……2……1……
いよいよクライマックス……への導入ですw
次回はロローさんの心の声です




