第47話 必要十分で唯一無二の証拠
「遅いぞ!」
「文句を言うでない。こちらにも都合というものがある」
「お前の都合は、アニカよりも優先されるものなのか?」
「くっ、貴様というヤツは……」
「いいから分かったことをさっさと教えろ」
「貴様が話の腰を折ったのであろうが! 結論から言うと、精霊たちの意思ではない」
「つまり、アニカが精霊に嫌われたわけではないんだな」
「当たり前だ」
だから言っただろ。
そんなわけないって。
「ならなんで姿を見せないんだ? 呼びかけに答えてやらないんだ?」
「ふむ、それなのだがな。イフリータが言うには、それ以上に〝還りたい〟という意思に逆らえなかったらしい」
「逆らえなかった?」
「貴様にも分かり易く言うなら、アニカよりも強い意志で〝還りたい〟と押さえつけられてしまったんだ」
「それってつまり、アニカより意志の強い精霊召喚術師の所為ってことか?」
「否定はしない。だがその可能性はない」
「否定はしないのに可能性が無いって、どういうことだよ」
1行で矛盾してやがる。
「確かにアニカより意志の強いものは大勢おる。だが支配力となれば話は別だ。アニカは意志こそ弱いものの、その支配力はそれをも覆すだけのものがある。無意識に……だ。それがどういう意味か、分かるか?」
「本気になったら誰も敵わない、と?」
「本気にならずとも、だ! にもかかわらず、意思の力だけでアニカを圧倒しているのだ。余程の術者ということだ」
「それだけアニカに強い恨みがあるってことか?」
「かもしれん」
「分からないのかよ」
「精霊自身が分かっておらぬのだ。今も通信越しでさえ影響を受け、イフリータが還ったのだぞ」
「はあ?!」
どんだけ強い意志なんだよ。
「分かっているのは、その意思の発信源はアニカであり、アニカの意思ではないということだけだ」
「発信源がアニカなのに、アニカの意思じゃないって、どういうことだ?」
「恐らく、アニカは中継役にさせられているのだろう」
「中継役……証拠は?」
「アニカがそんなこと想うはずなかろう」
なるほど。
確かにそれは一理ある。
しかしそれだけじゃ、証拠としては弱い。
深層心理では、分からないからな。
が、次の言葉が出てこないぞ。
まさかとは思うが……
「それだけ?!」
「これ以上ない証拠ではないか」
そうかも知れないけどさ。
もっと客観的な証拠は無いのかよ。
「気をつけろ。お前たちの近くにイフリータでさえ感知できぬ妨害者が居るはずだ。迅速にそいつの所在を突き止め、排除しろ」
「分かった。気をつけるよ」
敵対者が近くに居る。
そんなこと、考えもしなかった。
あの御者といい、アニカはあまり好かれてはいない。
才能に嫉妬され、妬まれている。
しかし仮に敵対者が居たとしても、おかしくないか?
アニカは今、完全に無防備だ。
なのに攻撃してくるものが、誰も居ない。
こうやって自滅するのをノンビリ待つつもりか?
だとすればかなり陰湿だぞ。
それとも慎重なのか。
慎重すぎる気もする。
いや待てよ。
敵対者も精霊召喚術師のはずだ。
つまり自分の攻撃手段であるはずの精霊も、還ってしまうってことか。
……それもおかしな話だ。
精霊がアニカを傷つけるはずがない。
フレッドのように傭兵を連れてくるはずだ。
なのにその気配も感じられないってことだよな。
本当にやる気があるのか?
やはり極度の慎重主義者なのか。
なんにしても……だ。
「よかったな。これで嫌われてないって証明されたな」
「そうなのかな」
「そうなんだよ」
「でも、強い恨みを持ってる人が居るってことだよね」
「それは……でもそれは今までと変わらないんだろ」
慰めになってない気もするけど。
変わらないなら、落ち込む必要も無い。
「だったら普段どおりにすればいい。いや、今まで以上に強く想えばいい。精霊が好きな気持ちは、誰にも負けないんだろ。なら負けるな、諦めるな、くじけるな。最後の最後まで想いを貫け。また会えるそのときまで、な」
とは言ったものの、いつ襲われるか分からないからな。
今戦えるのは俺しか居ない。
俺が守ってやらなきゃ。
原因が分かったことだし、エイルに話しておくか。
『エイル、聞こえるか?』
ん?
返事がないな。
『エイル?』
『ごめんマスター、今それどころじゃないの!』
『え? おいタイム!』
どうしたんだ?
まさか映画みたいにお宝を取ったら、大石が転がってきたとかじゃないよな。
今日は発電機を回すって言ってたけど、なにか不具合でも起こったのか?
肝心のタイムはさっきの一言を最後に、出張中の看板を持ったまま反応がない。
大丈夫なのか?
お留守番組も少し動きがありましたね
次回からは、再びエイルたちにスポットが戻ります




