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第46話 分かるようになりたい

 朝、目が覚めると、やっぱり時子は居なくなっていた。

 いつもなら扉は開けっぱなしになっているのに、今日は閉まっている。

 アニカが居るからかな。

 結局俺が起きるまで、アニカはずっとしがみついていた。

 着替えを済ませ、食卓に顔を出す。

 台所ではトレイシーさんと時子が朝御飯を作っている。

 このときの時子の顔は、少しだけ明るく感じる。

 気のせいかも知れない。


「おはようございます」

「モナカさん、アニカさん、おはようございます」

「……おはよ」


 お、今日は返事が返ってきたぞ。

 機嫌がいいのかな。

 でも顔はこっちに向けてくれないや。

 黙々と朝御飯を作ってくれている。

 そして時子とは逆に、アニカがダンマリだ。


「トキコさん、後はやっておきますから。いってらっしゃい」

「……はい、いってきます」

「モナカさんも、いってらっしゃい」

「いってきます」


 この家を出て行く……と言っていた割には、家事は手伝っているんだよな。

 毎日、欠かさず。

 よく分からん。

 逆にアニカは、今日はどうするんだろ。

 いつもはアニカも一緒に、台所に立っていたんだけどな。

 今日は寝ぼすけだ。

 さて、毎朝の日課、フブキの散歩に出掛けようか。

 玄関を開けてもらい、靴を履いて階段を降りる。

 裏手の一犬家(いっけんや)に行くと、フブキが出迎えてくれた。

 リードを付けて、いざ出発!


「……なあアニカ、歩きにくいんだけど」


 アニカはいまだにしがみついていた。

 というか、震えている。


「フブキに近づきすぎだ。離れろよ」


 と言っても、離れようとしない。

 俺と時子は平気だけど、アニカはフブキの影響をモロに受けて、寒いはずだ。

 その証拠に、ガタガタと震えている。

 なのに離れようとしない。

 はぁ……しかたないな。


「時子、リードを持ってくれ」


 アニカが離れてくれないのなら、フブキを少しでも遠ざけるしかない。

 あっ、嫌いになったわけじゃないからな。

 時子は返事をしてくれなかったが、リードを受け取ってくれた。

 フブキも理解しているらしく、なるべく離れて歩いてくれた。

 その甲斐もあって、アニカの震えが小さくなった。

 まだ寒いらしい。

 とはいえ、これ以上離れられない。

 フブキのリードを外せればいいんだろうけど。

 例えどんなにフブキが賢くても、そうしてしまったら罰せられてしまう。

 あくまで散歩のときは……だけど。


 タイムはなにも言わないけど、散歩のときに手を繋いでもらえているから、生きながらえているんだと思う。

 だから、この手は離せない。

 いや、本当はそんなこと関係無しに離したくない。

 時子は分かっているのかいないのか分からないけど、嫌がらずに繋がせてくれている。

 ま、オバさん対策なんだろうけど。

 そのオバさん対策も、今日は意味をなさなかった。

 だって、アニカがしがみついているんだから。

 なんか知らないけど、オバさんはアニカのことまで知っているっぽい。

 おかしい。

 アニカとオバさんなんて、時子以上に接点が無いはずだ。

 ただ、今日は時子がフブキのリードを持っているから近づけないらしい。

 時子は応援されているし、俺は浮気者呼ばわりされるし、アニカは……うーん。

 応援されるでもなし、邪魔者扱いされるでもなし。

 オバさん的にはどうなんだろう。

 三角関係……四角関係? を楽しんでいるのかも知れない。

 それでも時子推しだから時子を応援している、みたいな感じだ。


 散歩から帰り、朝御飯を食べる。

 まさか飯時もしがみついたままなのか?

 と思ったが、さすがに離れてくれた。

 ただいつもの席ではなく、俺の隣に座って食べている。

 アニカ・俺・時子と、3人並んで朝御飯を食べる。

 アニカは昨日の夜より、よく食べている気がする。

 よかった。

 時子は別に俺を避けるでもなく、黙々と食べている。

 外から戻ってきた頃は、可能な限り端に寄って避けていたのにな。

 こういった心境の変化が読み取れないから、ダメなんだと思う。

 分かりたい。

 分かるようになりたい。

 どうすれば分かるようになりますか。

 思い出が無いから、分からない?

 それは単なる言い訳だろうか。


 朝御飯を食べ終え、しかしすることもなくフブキとまったり過ごす……こともできず、3人して部屋の中でボーッとしていた。

 アニカにしがみつかれていては、フブキと(たわむ)れることもできない。

 ああ、フレッドよ、早く連絡をよこしてくれ。

 こんなにもフレッドを待ち望むことは、今後あり得ないだろうというくらい、切望した気がする。

 そんな願いが叶ったのか、フレッドが連絡をよこしてきたのは日が傾いてからだった。

抱き付かれると歩きにくいよね

腕ならともかく

次回はフレッド出てきて4章終了です

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