第40話 部屋数が足りない
『マスター、時子も連れて行かなきゃダメだよ』
『え? ダメか?』
『アニカさん、ダメですか?』
「構わないよ。一緒に行こう」
「きゅ、急にどうした? 兄にデレるなど、珍しいな」
なに狼狽えてるんだよ。
お前に言ったわけじゃないだろ。
「なに言ってるの? 死にたいの?」
アニカも物騒なことを言うな。
あ、そっか。
フレッドはイヤホンをしていないから、タイムの声が聞こえないのか。
「フレッド、精霊じゃないけどアニカが召喚した女の子が居たのを覚えているか?」
「当然だ。俺様がこうして様子を見に来ることが条件で、本家に連れて行かれずに済んでいるのだぞ」
え、そうなの?!
それは感謝しておくところか?
……なんか抵抗があるな。
「じゃあ、外に行っていた間はどうしてたんだ?」
「いくら我が一族でも、中央には逆らえぬからな。保留扱いにしていたのだ」
「なら、帰ってきてから会いに来ていなかったのは?」
「俺は早く会いたかったのだがな。族長様がお許しになられなかったのだ。汚染された者どもと関わってはならぬ、と」
「族長様?」
「御爺様のことだ」
「ならなんで今回は来たんだ?」
「お前はバカなのか? アニカの一大事に、隠居ジジイの戯言なんぞ聞いていられるか」
おい、族長様じゃないのかよ。
アニカのこととなると、他の扱い雑だな。
……俺の回り、そんな奴らばっかじゃね?
トレイシーさんだけだな、みんなに優しいのは。
「その小娘がどうしたというのだ?」
ああそうだった。
肝心なことを忘れていた。
「その子も連れて行くぞ」
「なに? 精霊は居ないというのに、その小娘はまだ居るというのか。姿が見えぬから、自分の世界に還ったのだと思ったぞ」
還れたら苦労しないんだよ。
それに、まだ先輩が見つかっていないから、還れないんだよ。
「隣の部屋に居るよ。連れて行くからな」
「ふむ。ま、いいだろう。許可してやる」
いちいち偉そうだな。
というか、フレッド的に俺はダメで時子はいいのかよ。
アニカの支配下にある人間だからか?
「では行くぞ」
おいおい、無茶言うな。
「今からか? 着く頃には日が沈んでいるぞ」
「む、そうか。ならば明日にするか。アニカよ」
「ヤだよ」
「兄はまだなにも言っておらぬぞ」
「どうせ一緒に寝ようとか言うんでしょ。死んでもヤだね」
「アニカよ、悲しいことを言うでない。血を分けた兄弟ではないか」
「おぞましいこと言わないでよねっ。あぁ鳥肌立っちゃったじゃない! とにかく、兄さんは馬車で寝てよね」
「アニカ?!」
おいおい、いくらなんでも可哀想だろ。
とはいえ、部屋が無いか。
まさかトレイシーさんと一緒の部屋なんて……
いや、トレイシーさんなら良いって言いそうだ。
「アニカ、今日ぐらい我慢してやれよ」
それがトレイシーさんのためだ。
「ヤだよ。ならボクがモナカくんと一緒に寝るから、兄さんは1人で寝てよ」
それってフレッド的には馬車で寝ているのと変わらないだろ。
「そんなこと、俺様が許すはずなかろう!」
「なら、馬車確定だね」
「ぐっ……」
仕方ない。
助け船でも出してやるか。
このままだとあまりにも可哀想だ。
「ならアニカがトレイシーさんと寝ればいいんじゃないか」
「えっ!?」
「フレッド、それなら文句は無いな」
「俺様はアニカと一緒に――」
「なら馬車確定だな」
悩むな悩むな。
悩んだところでアニカは一緒に寝ることに、首を縦には振らないぞ。
世話が焼ける。
「フレッド、耳を貸せ」
「なんだ、気安く貸せぬぞ」
「いいから貸せっ! いいことを教えてやろう。一緒には寝られなくても、少なくともアニカが毎日使っている布団で寝られるぞ」
『マスター、それは……』
『こうでも言わないと2人とも折れないだろ』
「アニカの残り香に包まれて寝ることができるぞ」
「俺がそんなもので満足するとでも?」
こいつ……
「馬車か残り香か、どっちかを選べ。一緒に寝ることは生涯叶わぬと思え」
「ぐぐぐ……」
こいつも頑固だな。
「仕方がないな。貴様の言うことも一理ある。アニカよ、トレイシーなる者と寝屋を共にすることを許可する」
「モナカくん!」
「仕方ないだろ。本来ならこっちが頭を下げなきゃならないんだ。馬車で寝かせるわけにはいかないだろ。そもそもトレイシーさんが許さないよ。〝私と寝ましょう〟とか言いかねないぞ」
冗談とかではなく、あり得るから怖いんだ。
なにしろ勘違いとはいえ、俺と一緒にシャワーに入ったんだからな。
「そうだね。トレイシーさんなら言いそうだね。分かったよ。頼んでくる」
勿論、トレイシーさんは快諾。
夕飯を平らげ、今度はシャワーでも一悶着した末、何故が俺とフレッドで入るというカオスな状態になってしまった。
誰も見たくないだろうから詳細は省くが、漸く俺が魔力ゼロということを信じてくれた。
今回は男×男のシャワーシーンでした
次回は移動します




