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第4話 護送

 俺たちは一旦出張所に戻ることとなった。


「寄り道するなよ」


 いやいや、なにも無い荒野の何処に寄り道をしろと?

 とにかく、タイムの案内で迷うことなく街の結界にたどり着けた。

 結界を入ったところで、一通りの検査を受けさせられた。

 まだ検査するのかよ。

 全員陰性で、一応問題は無かった。


 街中をとおり、お世話になっていた出張所に辿り着く。

 レイモンドさんの件は既に伝わっていたようで、特に聞かれることはなかった。

 隔離室でいろいろ尋問されたからな。

 身分証の記録で裏まで取られた。

 幸いなのが、なにがあったのかと、レイモンドさんに関わることだけだったことだ。

 俺についてや〝ナヨ〟については、なにも聞かれなかった。

 〝ナヨ〟に関しては、全員で口裏を合わせて喋らないことに決めていたしな。

 聞かれもしなかったから、身分証の記録とやらには残っていなかったのかも知れない。

 あるいは、あいつが細工をしたのかも……なんて妄想をしてしまう。

 なにしろレイモンドさんは、お兄さんに殺されたことになっているからな。

 身分証が壊れたからバグった可能性もある。

 さて……どっちかな。

 エイルは後者だと言っていたが……

 俺たちは家に帰ることを許され、というか追い返されるように〝帰れ〟と言われた。

 ただし、〝ナームコは中央省に出向くように〟と、念を押されている。

 トレイシーさんに顔を見せたら、連れて行くか。


 家に帰る。

 つまりはクラスクに戻るわけだが、他の都市で降りたり、何処かに寄り道したりすることは禁止されている。

 移動は許可されたが、制限付きなのだ。

 他人との接触も極力避けるように言われている。

 問題なのがフブキだ。

 来るときは預けて受け取る、という風にしていた。

 だからフブキが一番接触機会が多いともいえる。

 のだが、駅で待ち構えていた駅員に、「お前たちは客車には乗せられない」と言われた。

 つまり、俺たちはフブキと一緒に貨物車へ乗ることになった。

 切符も買わず、裏手の通用口から入れられ、貨物車へと案内された。

 案内人は、貧乏くじを引いたと言わんばかりの顔だった。

 態度もかなり横柄だ。

 分からなくもないが、客商売なんだからそこは形だけでも取り繕おうよ。

 ま、俺たちは客は客でも、招かれざる客なんだろうけどさ。

 貨物車に入れられ、外から鍵を掛けられてしまった。

 これじゃ外に出ようとしても、無理だ。

 貨物車だから、当然のように窓1つ無い。

 天井近くに換気扇はあるから、完全に密封されているわけではなさそうだ。

 だから俺はクラスクまでずっとフブキと遊んでいた。

 今までなら、ここに時子も居たんだけどな。

 あのとき、手を振り払われて以来、手を握るどころか、まともに話すらしていない。

 〝あなたは、誰なの〟……か。

 本当だ。

 俺は誰なんだろうな。

 エイル、俺はやっぱり先輩じゃないじゃないか。

 まあいい。

 今更前世なんてどうでもいい。

 俺は俺、モナカだ。

 それでいい。

 確かに以前の思い出は無くしたけれど、俺には1年もの思い出がある。

 そしてこれからも思い出は増えていく。

 その思い出が、モナカという人間を作っていくはずだ。

 他の誰でもない。

 それでいいじゃないか。

 それに先輩だから時子に好かれるとか、なんか嫌だ。

 先輩ではなく、俺を好きになってほしい。

 その道のりは、長そうだ。


 クラスクの駅に着き、(ようや)く貨物暮らしに終止符を打てた。

 長いようであっという間の監禁旅行。

 後は家に帰るだけ。

 もう、監禁されるようなこともあるまい。

 が、解放されるときに、聞きたくない一言を聞かされてしまった。


「これに乗れ」


 貨物から降りて通用口から外に出ると、待ち構えていたかのように専用バスが居た。

 まさかの貸し切りかよ。


「フブキもか?!」

「その為のバスだ。馬車でないことを感謝するんだな」


 なるほど。

 そのくらいは考慮してくれているのか。

 確かに家までだって人と接触することになる。

 しかしここまでする必要あるのか?

 隔離生活が終わっても、あまり変わらなく感じるぞ。

 検査は陰性だったんだ。

 自由にさせてくれ。


 そのバスの運転も、あの案内人がしている。

 極力接触者を少なくしたいということだろう。

 ……トレイシーさんはどう思っているんだろう。

 旦那さんが経験者だから、受け入れてはくれるだろうけど。

 周りからの誹謗中傷が怖いな。


「なあエイル。俺たちは帰ってもいいんだろうか」

「いきなりなんなのよ」

「俺たちはこれだけ避けられているんだぞ」

「母さんを馬鹿にするのかっ!」

「そうじゃない。その心配はしてないけど、そのことで周りからトレイシーさんが避けられたりするのは嫌なんだ」

「そんなことを心配してるのよ?」

「そんなことじゃない」

「気にしないのよ。父さんが帰ってきたときに経験してるのよ」

「だったら!」

「そんなことでへこたれるほど、母さんは弱くないのよ」


 それは結局、避けられたり嫌がらせを受けていたってことじゃないのかよ。

 それが嫌なんだけどな。

今回はサクッと帰ってきました

次回はお久しぶりのあの人です

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