第38話 意気地無し
「だからアニカも諦めるな。俺が付いてる」
「ボクはモナカくんみたいに強くなれないよ。ボクにとって、精霊は世界そのものなんだ。世界が消滅したのと同じなんだよ。例え嫌われていたとしても、世界が残っていれば、抗えたかもね。でも、もうなにも感じられないんだよ」
俺がなにを言っても無駄かも知れない。
なぜなら、俺は精霊召喚術師ではないからだ。
だからアニカにとって、どんな言葉であっても説得力がないのだろう。
ならその道の人間に頼めばいい。
そして必ず付いてくるお供に頼ればいい。
「フレッドを呼ぼう」
「……兄さんを?」
アニカにはそういう考えがなかったのか、少し驚いた顔をした。
単純に頭から抜けていたのか、それとも存在を忘れていたのか。
どっちにしても、哀れだな。
「フレッドが来れば、イフリータも必ず来る。そうすれば、まだ残ってるって分かるだろ」
「イフリータにだって呼びかけたさ。でも来てくれなかった」
「イフリータはフレッドと契約してるんだろ。ご主人様優先なんだから、たまたま都合が悪かっただけだよ」
「そうかな……」
世界を越えてきた癖に、こういうときくらいフレッドなんか無視して来ればいいのに。
後は、えーと……
「あーそうだ! ニファシー、覚えてるか」
「風の精霊の?」
「そうそう! 会えなくて寂しがってたって、エイルが言ってた。だから、嫌われたわけじゃないさ」
「ホント?」
「ああ。なんなら、エイルに聞いてみろよ」
「ううん、信じるよ」
なんでニファシーのことは信じるんだよ。
鎌鼬が可哀想すぎる。
自業自得なんだけどさ。
「よし、ならフレッドを呼ぼう。あいつアニカが戻ってきたってのに、顔も見せないんだからな。可愛い弟じゃなかったのかよ」
「っははは」
「な、だから時子も諦めるな」
「……」
返事なし……か。
その代わりなのか、また胸をドン……ドン……と叩かれた。
長いこと先輩に会えない上に、あれだけ怖い思いをしたんだ。
情緒不安定になっても、仕方がない。
それに今日は時子の方から触れ合いにきてくれたんだ。
進展ありってことだよな。
会話もいっぱいできた。
まあまだ名前を呼んでもらえないけど、気にしない気にしない。
でも今ってチャンスじゃね?
今ならギュッて抱き締めても許されるんじゃね?
そういう距離だし、そういう雰囲気だし。
い、いいよね……
よし、だ……抱き締めるぞ。
そっと……そっとだ。
気づかれないように腕を回して……
こうギュッと……ギュッと……ううー!
くっ、はぁ……
できるわけないよな。
俺には、頭を撫でるくらいが精一杯だ。
頭を胸に引き寄せて、ゆっくりと優しく撫でる。
「やめてよ……」
それでも、俺は撫でるのを止めない。
「嫌なら、離れろよ」
時子も、口では嫌がっていても、動こうとしない。
ただただ、俺の胸をドン……ドン……と叩くだけ。
そして静かに泣いている。
ずっと我慢してたんだろう。
溜まってたものを、全部出し切っていいからな。
俺が全部受け止めてやる。
だから、我慢するな。
「いいなー」
「なにがだ」
「トキコさんはモナカくんに甘えられていいなーって」
「〝モナカくんに言われたくない〟とか言っていなかったか?」
「う……いぢわる」
「分かった分かった。ほら、こっち来い」
「うん!」
ったく、緊張感のないヤツだな。
「明日も精霊が呼べなかったら、フレットに連絡するからな」
「えー」
「えーじゃない。たまには家族に頼れ。フレッドなら、この星の裏側に居たって、駆けつけてくれるだろ」
「それはそれで嫌だな」
「それだけアニカが可愛いんだよ」
「可愛いだなんて……もう、モナカくんのバカ」
「なんでだよ」
「でも、モナカくんに言われるのは、嫌じゃないよ」
「俺が言ったわけじゃないっ!」
「ぶーっ……ふふっ」
「さ、今日はもう帰ろう。トレイシーさんが待ってる」
「うん」
「……」
返事はないけど、首が縦に少しだけ動いたのを感じた。
これが今の精一杯なのかな。
それでもいい。
2人の頭をポンポンする。
そしてトレイシーさんの待つ家へ、帰った。
どんなに遠く離れていても、帰ったの一言で帰れるの、どこでもドアより便利
次回はフレッドが久々に登場です




