第36話 どんなに嫌われていようとも
召喚陣の輝きは、本当に美しいものがある。
なのに1度たりとも精霊は姿を見せてくれなかった。
そしてフンまみれになりながらも集めた火魔石が底をついた。
「はぁ……もういいや」
地べたに座り込んだかと思うと、そう呟いた。
「なにがもういいんだよ」
「もう疲れちゃったよ。大体、ボクが転生したのだって、精霊に殺されたからなんだし」
「それは管理者が勘違いしたからなんだろ」
本当に碌なことしないよな。
管理者じゃなくて死神なんじゃないのか?
「精霊の所為じゃないって理解できるくらいには大人になったって、自分で言ってただろ」
「それだって、ホントかどうか怪しいし」
「なにが怪しいんだ」
「普通勘違いしないでしょ。ボクを丸め込むために、嘘を吐いてるんだ」
「そんなわけないだろ。確かにアレはいい加減で信用ならないヤツかも知れないけど――」
〝なんだと!〟
「――それでも自分が悪者になるようなことを言うヤツじゃない」
〝それ、褒めてないよね〟
〝いちいち出てこないで!〟
「その程度には信用してやれよ。俺もアレのお陰でアニカに会えたんだから」
〝そうだそうだ! もっと崇め奉っていいんだぞ〟
〝うるさいよっバカ!〟
〝バカって言ったな! バカって言った方がバカなんだぞ!〟
〝はいはい。いいから黙ってて〟
「ボクは精霊に嫌われるくらいなら、そのまま死んでしまいたかったよ」
「俺に会えなくてもよかったってことか」
「ボクとモナカくんは違うんだ。モナカくんは死んで転生してきたんでしょ。でもボクは違う。本当なら平和に暮らせてたのに、殺されて転生させられたんだ。一緒にしないで」
……言うようになったな。
確かにアニカの言う通りかも知れない。
俺とアニカでは、死んで転生したときの状況が違う。
でもそれと精霊の話は別問題だ。
「それと精霊の話は関係ないだろ」
「大ありだよっ!」
「だとしても、世界を渡ってわざわざアニカに会いに来たイフリータはどうなんだよ」
「そんなの、ボクの力が強すぎて無理矢理呼び出しちゃっただけだよ。イフリータの意思じゃない。ボクのことを大好きに見えるのだって、きっと強制力でそう仕向けてるだけなんだよ」
「そんなわけないだろ。どう見たってイヤイヤ好きにさせられてるようには見えないぞ」
「精霊のこと、なにも知らない癖に。偉そうに言わないでよ」
「ああ、知らないよ。精霊どころか、この世界のことなんか、なあんにも知らないよ。いいじゃないか。精霊に嫌われたくらいなんだっていうんだよ。俺なんか最初から世界に嫌われているっての! いや、嫌われているどころか、関心すら持たれてねぇよ。世界は俺に無関心なんだよ。だから好かれることも永遠にない。だけどアニカは違うだろ。嫌われているからなんだ。嫌われているんなら、また好かれるようになればいいだけだろ。俺と違ってチャンスがある。それを放り出すな。嫌われたら、嫌われたままでいいのか? 違うよな。だからこうやってもう一度好かれようとしているんだろ。くっだらねーこと言って立ち止まってんじゃねーよ! 前に進め! 足を動かせ! 相手に嫌われたって関係ない。お前は精霊が好きなんだろ! 相手がどう思っているかじゃない。自分がどう思っているかが大事なんだ。見返りを求めるな。自分に素直になれ。嫌われていても好きなんだろ。だったら――」
「モナカくんに言われたくないよっ!」
「なっ……」
「トキコさんに嫌われて、その後なにかしてるっていうの? なにもしてないよね」
「そ……それは。さ、散歩のときは手を繋いでいるぞ」
「じゃあなんで今は繋いでないの? いつも繋いでたよね」
くっ、まさかこんな反撃を食らうとは思わなかったぞ。
時子のことを言われてしまうと、反論できない。
相手の気持ちを優先して、自分の気持ちを押し殺していることに違いはない。
それでも……
「俺は諦めないよ」
アニカに向かいながらも、時子に言い聞かせるように言う。
「アニカみたいに諦めたりしない」
ここからだと時子の表情は見えない。
「俺は時子が好きだ」
耳を塞いでいるかも知れない。
「嫌われたからって、それは変わらない」
気にも留めていないかも知れない。
「何処に行こうが、何処へ逃げようが、絶対に付いていく」
だからなんだ。
「どんな危険からも、どんな悲しみからも、どんな理不尽からも、どんな苦しみからも、どんな寂しさからも、どんな辛さからも、どんな恐怖からも」
絶対、時子の心に届けてやる!
「守って守って、守り続けて、ありとあらゆることを分かち合って、そして最後は、先輩の元に無事送ってやるんだっ!」
壁なんか、ぶち壊してやるっ!
世界に無視されるって、どんなだろうか
次回は……続きです




