第34話 実食!
「ナームコさん、私は夕飯要らないから」
「要らないのでございますか?」
「ええ」
「そうでございますか」
だって私には、アレがあるんですもの。
ふふふふ。
さて、ナームコさんは外で作ってるみたいだし。
早速食べてみますか。
っと、その前に。
ふむふむ、これ1つで半日分のカロリーと栄養素が取れるのか。
メーカーは……といっても、5千年前のメーカーなんて知らないわ。
お値段は……うん、知らない貨幣単位だ。
価値が分からないわ。
とりあえず身分証で写真を撮っておきましょう。
よし、包装を剥くわよ。
『エイルさん、ホントに食べるんですか?』
『ひゃっ! って、なんだタイムちゃんか』
『なんだじゃありませんっ。5千年前のものですよ。お腹壊しますよ』
『そんなの、食べてみなきゃ分からないでしょ』
『食べなくても分かりますっ』
『いいじゃない。私が見つけて私が食べるんだから。それにこんなの食べるの、何年振りだと思ってるの』
『知りませんよ。エイルさんの昔の食生活なんて』
そうだけど。
『いいじゃない。モナカくんは魔素でできた食べ物食べて、消化して栄養にしてるのよ。だったら私だって元素でできた食べ物食べて、消化して栄養にできるかも知れないじゃない。それを確かめるのよ』
『わざわざ5千年前の怪しい食べ物食べなくても、ナームコさんに言って分けてもらえばいいじゃないですか』
そうだけど!
絶対持ってるだろうけど!
でも、それが分からないのよ。
『ナームコさん、タイムちゃんたちと同じ頃にこっちへ来たって言ってたわよね』
『そうですね』
『その間、あんな不毛の地でなにを食べてたのかしら』
『それはやっぱり持ってきてたものとか、定期的に送られてきていたものとかじゃないですかね』
普通はそう考えるわよね。
『あの子はお兄様からはぐれていたのよ。送られてきたものを食べられなかったはずよ』
『そう言われると、確かにそうですね。なにを食べていらしたんでしょう?』
『食べ物も錬金したのかしら』
なにから錬金したのかしら。
排気ガスから燃料は作れないらしいから、あの可能性は無いでしょうけど。
『まさか!』
まさかタイムちゃんモアレを想像したのかしら。
それを考えるのは止めましょう。
確かに堆肥として撒いて、それを植物が食べ物に変換してる……といえなくもないでしょうけど。
直接聞けば分かるのかな……分かりたくないな。
ま、そんなことよりご飯ご飯っ♪
包装紙を剥いて……っと。
『エイルさん、止めましょうよ』
『止めないで。人類のために確認しなきゃいけないのよ』
『エイルさんが自分の好奇心に負けてるだけでしょっ!』
『うるさいのよ! 細かいことを言うタイムちゃんは、モナカくんにモテないわよ』
『人類の進歩のため、犠牲はつきものです! さ! ガブッといっちゃいましょう!』
この子は……
ナームコさんと同じなの?!
『さ、ガブッと』
そ、そう言われると逆に食べづらいわね。
って、私は犠牲になるつもりはないから!
『ささささ、遠慮なさらず』
『しないわよ』
まったく……
えっと、見た目は……傷んでるようには見えないわね。
コーティングしてるチョコも、溶けた感じは無し。
匂いは……分かんないな。
モナカくんは母さんのご飯を良い匂いと言ってた。
でも私は嗅ぎ取れない。
ちょっと舐めてみようか。
……んー、味もしない。
舌触りもチョコというより、石?
まさか化石化してるの?
いや、5千年ぽっちじゃ無理よね。
条件も合わないし。
でもこのチョコ、握ってるのに全然溶ける様子がないわ。
やっぱり熱が伝わってないのね。
囓ってみる?
……歯が欠けないといいけど。
『なにしてるんですか。ナームコさんが来ちゃいますよ』
『ふふはいはへ。ふほしははっへへ』
少し噛んでみると、柔らかさは普通だ。
これなら噛み切れるかも。
ゆっくりと歯を食い込ませていく。
ん、石?
いやいや、そんなもの入ってるわけない。
あー、これナッツか。
確か原材料に書いてあったわ。
ちょっと硬いな。
とりあえず、ナッツを避けたら噛み千切れたわ。
とにかくナッツが硬い。
歯が欠ける未来しか見えないわ。
そんなことより、味がしないわね。
無味無臭……かしら。
単に私が感じられないだけだと思うけど。
でもモナカくんはこっちの食べ物の味も匂いも感じられるのよね。
なんか、不公平だわ。
でも食感は悪くない。
これ、本当に五千年前のものなのって感じよ。
これで味と匂いが感じられればなー。
『どうですか?』
『ん? 元素の食べ物なんて、甘くも辛くもないわ』
『そうなんですか?』
『ええ。でも食感は悪くないわ。喉越しは……』
ナッツだけ手に吐き出し、残りをゴクリと飲み込んでみる。
飲み込みづらいとかも特になく、胃の中に落ちていく。
やはり無味無臭である以外、特に変わった感じはしない。
『ナッツが堅いわ。噛めそうだけど、歯が欠けそうね』
『なら、食べない方がいいんじゃないですか』
『んー、ハンマーで叩いてみましょう』
確かここに……あったあった。
えっと、ナッツを布でくるんで……叩く!
『ナッツを砕いてる音じゃないですね』
『そうね。鉱石を叩いてる感じよ』
でも叩けば砕ける……いえ、潰せるものね。
あら、油も出てきたわ。
沢山あれば、油が絞れそう。
よし、後はこれを食べるだけね。
『それ、ホントに食べるんですか?』
『なによ。さっきは遠慮せずガブッとって言ってたじゃない』
『あはははは。さすがに石を食べてもらうわけにはいかないじゃないですか』
『石じゃなくてナッツよ』
砕いたナッツを口に放り込む。
……完全に砂利じゃない。
これ、飲み込むの?
『エイルさん、ペッしましょ。ペッ!』
私は子供かっ。
うー、でも本当にジャリジャリするわ。
これは水で流し込むしかないわね。
水筒を取り出し、無理矢理水で流し込む。
うわ、まだ残ってる。
口に水を含み、クチュクチュとすすいで飲み込む。
『ぅわぁ……汚いよぉ』
『お茶で口をすすいで飲み込むのなんて、普通でしょ』
『おばあちゃんじゃないんですから』
『失礼ね。これでもまだ若いつもりよ。実際、身体は若いんだから』
『精神がおばあちゃんです』
『いいでしょ! そっちの世界ではロリババァとかいってモテるんでしょ……誰がババァよっ!』
私はまだ定年前よっ!
『自分で言ったんじゃないですかっ!』
まだなんか残ってる感じがする。
うー、なんか気持ち悪い。
油が悪かったのかしら。
そういえば、消化できない油はそのまま出てくるって聞いたことがある。
しかもコントロールできないとか……
まさか、ね。
よし、残りはモナカくんに食べてもらおう。
5千年腐らなかったんだから、帰るまでの間くらい、なんてことないでしょ。
『エイルさん、もう食べないんですか?』
『ん?! ええ、モ……』
まてよ。
タイムちゃんに言ったら、絶対阻止される気がするわ。
『マ?』
『もーお腹いっぱいだから、残りは後にしようかなって』
『一口でですか?』
『そうよ』
『そんなに小食でしたっけ』
『一口で十分なくらい、カロリーがヤバいヤツなの!』
『そうなんですか』
ふぅ、危ない危ない。
『てっきりマスターに食べさせるために、残してるのかと思いました』
ギクッ!
モナカくんのことになると鋭いわね。
『そ、そんなことしないわよー大事な検……モナカくんがお腹壊したら、大変じゃない』
『今検体って言いませんでしたか?』
『言って、ないわ、よ』
『じー』
くっ……
完全に疑われてる。
このままじゃ計画が実行できないわ。
『今、モナカくんはなにしてるの?』
『マスターですか? 時子と一緒に、フブキの散歩中ですね』
『アニカさんは?』
『ダメですね。まだ精霊が召喚できません。明日フレッドさんに連絡するみたいです』
『お兄さんに?』
『本人はかなり嫌がってますけど。フレッドさんが来ればイフリータさんも必ず来ますから、理由が分かるんじゃないかって、マスターが……』
『そう』
アニカさんは重傷みたいね。
本当、どうしたのかしら。
ま、とにかく、話題そらしはできたみたい。
とりあえず、単発式詠唱銃の調整をしましょう。
アレを組み込めれば……
上手く親和させられるかしら。
いいえ、親和させるのよ!
5千年前じゃないけど、沈没船のワインを飲んだ人が居たような……
食べられたとして、食べてみたいですか?
次回は一方その頃……