第32話 エネルギー保存の法則
「ご苦労様。気のせいかしら、予定より早くない?」
まだ30分くらいしか経ってないような気がするけど。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
でも身分証で確認したら、やっぱり1時間くらいしか経ってなかった。
「それなのでございますが、燃料が他のところへ流れていっているのでございます」
「流れてる?!」
「発電を始めて暫くしてからのことでございました」
「漏れてるってこと?」
5千年も経っていれば、タンクに穴が開いててもおかしくないものね。
「そうではないのでございます。他のところへ圧送されているようなのでございます」
「どういうこと?」
「存じないのでございます。ですが、圧送先は、恐らく5階なのでございます」
「5階……」
あそこか。
制御室が見つかったから、その先は調べなかったのよね。
迂闊だったわ。
「調べてくるわ」
「もう燃料が尽きるのでございます。それにわたくし、力を使いすぎたのでございます」
あー、そっか。
一応ナームコさんは生身の人間なんだっけ。
ずっと魔法を使い続けていれば、疲れるわね。
「なら、発電機を止めるわよ」
制御盤から操作し、発電機を止める。
燃料もほぼ空ね。
明日また入れてもらわなきゃ。
バッテリーは……うん、結構充電できたみたい。
これなら明日もセルが回せそうね。
「エイル様、階段上のシャッターを開けるだけと仰られておられましたが、随分と掛かったのでございますね」
「当たり前よ。階段の一番上まで開けに行ったんだから」
ついでにちょっとだけいろいろ見てきたけどね。
「一番上……でございますか」
「ええ、そうよ」
「はぁ……いえ、わたくしの勘違いがいけないのでございますね」
「勘違い?」
「独り言でございますわ」
「そう?」
なにを勘違いしたのかしら。
「ね、排気ガスから燃料は生成できないの?」
「酸素を回収するだけで、精一杯なのでございます」
「酸素を回収したら、自然と燃料になりそうなものだけど……違うの?」
「わたくしの魔力量でございますと、酸素を魔素とすげ替えて抜き取るのがやっとなのでございます」
すげ替える?!
どういう意味?
全然分からないわね。
錬金術……研究のし甲斐がありそうね。
「そうなの?」
「エイル様はエネルギー保存の法則をご存じないのでございますか?」
「知ってるわよ」
貴方の錬金術は、十分法則を無視してると思うけど。
私の知ってる法則と違うのかしら。
魔力と電力のエネルギーバランス。
魔力の方が圧倒的に低かったはず……
「失礼致したのでございます。でございましたならば、燃料を燃やして排気ガスを燃料に戻すよりも、わたくしが直接発電した方が効率的なのは、ご理解頂けると存じるのでございます」
そういうものなの?
核分裂や核融合レベルのことはしてないから、一応法則は乱れてないのかしら。
水を分解して炭素と合成するより、効率が悪いってこと?
排気ガスが気体だからかしら。
専門外だから、よく分からないわ。
「分かったわ。そういうことなのね」
「でございます」
自己診断結果は、大きな不具合は発生してないようね。
小さいものだと、排気ガスのフィルターが要交換になってる。
これは明日やってもらうしかないか。
あら、冷却水もそろそろ補充しないとダメっぽい。
それと……
「エイル様、戻られないのでございますか?」
「ええ、点検してから戻るわ」
「存じたのでございます。でございましたら、御夕飯を御用意してお待ちしているのでございます」
「疲れてるんでしょ。休んでていいわよ」
「魔力的な疲れと、肉体的な疲れは、別物なのでございます。身体はなまってしまう位なのでございます」
「そうなの? 無理はしないでね。貴方に死なれたら、困るんだから」
「それは……いえ、そうでございますね。無理はしないように気をつけようと存じるのでございます。エイル様も、無理はなさらないよう、お気を付けるのでございます」
「分かってるわ」
「では、ロロー様、戻るのでございます」
「了解であります」
「ロローさん、ナームコさんの護衛をよろしくね」
「我が輩が……でありますか」
「私が戻るまででいいから」
「了解であります」
さて、それじゃ点検しますか。
意気込んでやろうとした矢先、フロートウィンドウが出てきた。
『エイルさん、点検箇所と場所のリストです』
『ありがとう。何処にあったの?』
『制御板のロムからマニュアルを吸い出しました』
『あー、あの中にあったのね』
よし、これで無駄に探し回る手間が省けたわ。
サクッと終わらせますか。
エネルギー保存の法則……そんなものは犬に食わせてしまえって作品多いよねw
ま、これもそうなんですけど
次回は戦利品を見つけます