第3話 そして精霊は居なくなった
エイルはナームコの言葉を、タイムを通じて理解できる。
それはあの小さなイヤホンのお陰らしい。
単純にタイムの声が聞こえるだけの代物みたいだけど。
「今はそれだけなのよ」
そうか。
将来的にはもっとできるようになるのか。
なので、一番最初に作ったのが、3人分のイヤホンだ。
お陰で今では俺が通訳しなくとも、エイルとナームコは会話ができる。
問題は書いたものまでは、翻訳できないところだ。
それを伝えるのが難しいらしい。
図で説明するにしても、文字や記号は万国共通とはいかないからな。
そんなこんなで完全隔離されて1週間が経ち、漸くアニカが目を覚ました。
覚ましたといっても、エイルより元気がない。
身体を起こすこともできなかった。
最初こそエイルがご飯を食べさせていたものの、3日もすると自分で食べられるようになるまで、回復していた。
体力もついてきたようなので、エイルに話したようにこれまでのことを説明する。
「トキコさんは大丈夫なのかい?」
「ああ。とりあえず、ご飯は食べてくれるようになったからな」
「それだけかい?」
「話してくれないから、どうにもならん」
というか、話しかけることもままならない。
目を合わせてもくれないし。
「ボクが話すようにお願いしようか?」
「それは止めてくれ。時子はアニカに逆らえないんだろ。そういうことはしたくない」
「そんなこと言ってたら、なにも解決しないよ」
ぐっ。
アニカの癖に、正論を言いやがる。
「言いたくないことを無理矢理喋らせるのは、よくないだろ」
「モナカくんの命が掛かってるのに?」
本当にアニカか?
毒素に冒されて、何処かおかしくなっているんじゃないだろうな。
とはいえ、言われるまでもなく分かっている。
「だとしてもだ」
この際それはどうでもいい。
今知りたいのは別のことだ。
「話は変わるが、ナヨっヤツを知っているか?」
知らないだろうけど、一応聞いておいて損は無い。
「ナヨさん? うーん……どんな人だい?」
「そっか。知らないんならいいんだ。じゃあやっぱり」
エイルが隠しているってことか。
「やっぱり?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
毒素の浸食が深かったのか、アニカは精霊が召喚できなくなっていた。
いや、声が届かなくなったというのかな。
単純に力が戻っていないだけかも知れない。
呼び出しもしないのに、自然と周りを賑わせていた精霊すら居ない。
とても静かで、寂しげだ。
時折誰かに話しかけているようにしているのを見かける。
でも返事が来ないのか、顔を項垂れてしまう。
1日、2日、3日、一週間、10日と経っても、精霊が現れることは無かった。
そして俺たちが隔離室から出られたのは、アニカが目覚めてから2週間後のことだった。
精霊はどうしてしまったのでしょう
次回は帰宅路です