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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第29話 試運転

 さて、5千年ぶりにこの子は動いてくれるかしら。

 ごめんね、ロクにお手入れしてあげられなくて。

 さ、起きてちょうだい。

 この子が機械王なら、〝我が眠りを妨げる愚か者は貴様か〟とか喋ってくれるんだけど。

 フロートウィンドウには無機質に[起動します]と表示されるだけ。

 自我なんてものは無い。

 セルが回ってエンジンを動かそうとする。

 懐かしい音……

 最初はモーターの力で回るだけで、中々動かない。


「おお?! こやつ、唸ってるのであります」


 燃料ポンプがタンクから燃料を届けるまでの辛抱だ。

 少しすると明らかに音が替わり、一気にエンジンの回転数が上がっていく。


「うひーっ! ほ、吠えたであります! やるでありますかっ!」

「ダメよ撃ったら!」


 音が大きくなったかと思うと、直ぐに回転が安定してきて音も落ち着いてきた。


「やった! 動いたわ」

「なんなのでありますかっ!」

「だから、エンジンが動いたのよ」

「ずっと唸ってるのであります。襲ってくるでありますか?」

「こないわよ」

「凄い音なのであります」

「当たり前よ。燃焼室の中で爆発が起こってるんだもの」

「爆発でありますか?! 大丈夫なのでありますか?」

「それが普通なのよ。そうやってシリンダーを動かして、回転の力に変えて、モーターを回して発電してるの」

「そ、そうなのでありますか。我が輩には難しくて、理解が追いつかないのであります」


 それもそうよね。

 なにしろこの世界は、ダイレクトドライブしかない。

 非効率的な燃焼機関や蒸気機関なんてものは、ないんだから。

 仮に作ったところで、ただ回るだけのオモチャにしかならない。

 なにも生み出すことはないのよ。

 精々水車小屋ね。

 名称だけなら、勇者小説に出てきたことがあったから、存在はしていたんでしょう。

 原始的すぎて、仕組みなんて誰も覚えてないでしょうけど。


「とにかく大丈夫だから、その物騒なものを下ろしてちょうだい」

「りょ、了解であります」

「ナームコさん、どう?」

「正常に動いておられるようでございます」

「よかった」


 自己診断の方も、特に問題があるような警告は無いわね。

 えっと、稼働可能時間はっと……3時間くらいか。

 ま、初日だし、無理はさせられないからちょうどいいか。


「タイムちゃん、どう?」

『ダメですね。メインがまだ立ち上がってないから、覗き見ることもできません』

「そっか。そうよね」


 完全に電源が落ちてたわけだし、なにが起こるか分からないわね。


「とりあえず、管理室を目指しましょう。そこに制御装置があるはずよ」

「了解であります」

「わたくしはここに残るのでございます」

「え、なんで?」

「燃焼させるには、酸素が必要なのでございます」

「あ……」


 そういうことか。

 つまり、発電機を回し続ける場合、ナームコさんは一緒に行動できないのね。

 どうしようか……

 ま、なにかが襲ってくることもないから、1人にしても大丈夫よね。

 なにかあれば連絡はすぐできるし。


「とりあえず今日は、階段(うえ)のシャッターだけ開けましょう」

「よろしいのでございますか?」

「だって、貴方働きっぱなしでしょ。それにシャッターが開けば、上の階を見て回れるからね。じゃ、少しの間、よろしくね」

「存じたのでございます」


 ということで、シャッターを開けに行きましょう。

 廊下に出ると、天井の照明が点いていた。

 非常灯だからあまり明るくないけどね。

 薄赤い光の下、階段を上っていく。

 シャッターの脇にあるパネルを見る。

 よし、ちゃんと電気が来てるわね。

 タッチペンで操作してシャッターを上げる。

 やっぱりこっちも非常灯だけだ。

 あまり明るくない。

 ロローさんのランタンは置いてきたから、私の懐中魔灯で照らして進む。

 所々に転がる白骨死体。

 身につけてるものを物色したいが、今はまだ我慢だ。

 片っ端から扉を開けて中を確認する。

 幸いなのは、この階の扉は全て電子錠なところだ。

 ハッキング用のカードを当てれば、タイムちゃんが侵入して開けてくれる。

 タイムちゃんが居なかったら、力尽くで開けなければならないところだった。

 私ではアクセスすることすらできない世界。

 敗北感はない。

 アレさえ手に入れば、逆転可能なはずだからだ。


 恐らくここがエントランスホールなんだろうけど、土砂で埋まってしまっている。

 地中に埋まってるんだから、当たり前ね。

 むしろこの程度で済んでいる方が不思議だ。


 そして漸く目的の扉を開けることができた。

 そう、倉庫へと繋がる扉が開いたのだ。

発電機が動き始めました

次回は少し徘徊します

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