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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第28話 魔力と電力の大きな違い

 ご飯を食べ終え、片付けをし、食休みをしてから現地へと戻る。

 普段からは考えられない、ノンビリとした行動だ。

 自分ではなにもできないから、テンション駄々下がりなんだよね。


「さて、まずは肝心のエンジンだけど、当然固着してるわよね。よろしく」

「エイル様、だんだん雑になっておられるのでございませんか?」

「気にしないで。自分でなにもできないからって、拗ねてないわ」

『十分拗ねてるじゃないですか』

「もー、目の前のお宝をただ眺めることしかできない歯がゆさ。分かってほしいわ」

『分かりますよ、そんなことくらい』


 あ、そっか。

 タイムちゃんはいつもそうなんだっけ。

 だったら時子さんに譲るなんてこと、しなければいいのに。

 今なら、奪還のチャンスよ。


「エイル様、固着の方はなんとかなりましたのでございます」


 本当に仕事が早いわ。

 工房で雇ってもいいわね。

 これで兄様兄様騒がなければ、本当に良い子なんだけど。


「よし、じゃあセルを回すわよ!」


 と思ったのだけれど、どうすればいいのかしら。

 普通は通電が絶たれたら、自動的に運転を始めるはずだけど。

 制御盤は当然点いてないし。

 あ、バッテリーが上がってるのか。

 えーと……あ、あったわ。


「ナームコさん。このバッテリー、上がってるわよね。充電できないかしら」

「そうでございますね……少し時間が掛かるのでございますが、可能なのでございます」

「セルが回せれば、十分よ」

「どのくらい必要なのでございましょう」


 どのくらい?

 どのくらい必要なのかしら。


「とりあえず3割も充電しとけばいいんじゃない?」

「どれほどの電荷が必要なのでございますか?」


 ええ?!

 そんなこと私が知るわけないじゃない。

 もー。


「取説ないんだから、適当でいいわよ。発電機さえ回せればいいんだから」


 調べられれば分かるんでしょうけど、私には不可能だ。


「壊れても存じないのでございます」

「存じなさいよ」


 不安ではあるが、他に任せられる人も居ない。

 本当に、自分でアレコレできないのはストレスね。

 普段なら不安なんて期待に押しつぶされて感じることもないのに。

 嫌な意味で、ドキドキとハラハラが止まらないわ。


 と思っていると、制御盤に電源が来たようだ。

 よしよし、上手くいったみたいね。

 とはいえ、緊急停止ボタンを除いて、全てタッチパネル操作になってるのか。

 こんなにも私を拒む世界だったなんて……


「エイル様、こちらをお使いになられるのでございます」


 と言われて、1本のペンを渡された。

 んん?!


「まさか……これって」

「そのまさかなのでございます」


 ペンでパネルに触れてみる。

 すると……


「動いた!」

「ふふっ、よかったのでございますね」


 そう。

 ペンはペンでもタッチペンなのよ!

 これで私でもタッチパネルが使えるっ!

 この辺が魔力を必須とするこっちとの大きな違いよね。

 ふふ、ふひっ。

 よしよし、まずは自己診断をさせてみましょうか。

 えーと、電気系統は大丈夫みたいね。

 5千年経ってても無事って、凄いな。

 あ、エラーが出てる。

 えーと、エンジンオイルがないのか。

 多分これも油なんだから、炭化水素の類いでしょ。


「ナームコさん、エンジンオイル補充しといて」

「エンジンオイル、でございますか? どれのことでございますか?」

「エンジンオイルなんだから、エンジンの近くにあるんじゃない」


 私はこういうの、いじらなかったからな。

 何処なのか分からない。

 今乗ってるバイクは、ガソリンエンジンというよりは、電気モーターみたいなものだし。

 余計分からない。


「こちらのようでございます」


 ここか。

 となると……ここから入れるのかな。


「エイル様、復元できそうなのでございます」

「じゃ、よろしくね。ロローさん、エンジンオイルはここから入れてね」

「了解であります。エイル殿は勇者文明について、よくご存じなのであります。我が輩、感服致す所存であります」

「そ、そうかしら。あっははは……はは」


 えーと、他にはっと。

 あー、やっぱりバッテリーがへたってるみたいね。

 ま、交換しようにもスペアなんてないし。

 今回だけ頑張ってくれればいい。


「ぅわっ」

「どうしたの?」

「我が輩、入れすぎたのであります。零れてしまったのであります」


 足りないよりはいいでしょ。


「なんだか、ヌルッとしてるのであります」

「油だからね」

「変わった色の油なのであります」

「エンジンオイルだからね」


 変わった色といえば、そうかも知れない。

 潤滑油なんてものは、無い世界だもの。

 あるのは食用油だけ。

 ……舐めたりしないわよね。

 ま、舐めても無害だからいいけど。


「エイル殿! 蓋が閉まらないのであります」

「え? あー、いくら魔力を流しても蓋は閉まらないわよ」


 そもそも魔力が流せないし。


「なんと?!」

「ほら、こうやって回さないとダメなのよ」

「ほー、変わった蓋でありますな。我が輩、初めて見るものばかりで、とてもワクワクするのであります」

「そ、そう。よかったわね」


 あー、手が油まみれになっちゃったな。

 どうしよう。


「ナームコさん、手に付いた油、落とせないかしら」

「はいはい、世話の焼ける赤ちゃんなのでございます」


 なっ!

 わ、私が赤ちゃんですって!

 たっ、確かにモナカくんのこと、そう思ったことがないと言えば、嘘になる。

 くっ……屈辱だわ。


「我が輩もお願いするのであります」

「少しお待ち頂くのでございます」


 ちょっと!

 私とロローさんで扱い違わない?

 まぁいいわ、手のべたつきは取れたんだから、これで思う存分弄くれるわ。


「じゃあ、動かすわよ」

「了解であります」

「動くとよろしいのでございます」

たかが発電着回すだけなのに、偉い遠回りをしたもんだ

次回はいよいよ試運転です

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