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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第25話 愚か者は自分が愚かだと気づけない

 まずは床に持ってきたシートを広げてっと。


「エイル殿?」

「ん?」

「上に戻られないのでありますか?」

「ああ、いいわよ。2人は上で休んでちょうだい」


 そんな暇無いもの。


「わたくしは戻って休むのでございます」

「ええ、おやすみ」

「エイル殿! エイル殿!」

「なによ、私は忙しいのよ」


 あーもう、くっつかないでよ。


「よろしいのでありますか?」

「なにがっ」

「我が輩はいいのでありますが、その。ナームコ殿によろしくない感情を持っている者も居るのであります」

「そりゃ居るでしょうよ」

「オオカミの群れに、オオネズミを放つおつもりでありますか?」


 あー、そういうことね。


「大丈夫よ。ナームコを傷つけられた兵士は居ないんでしょ」

「う……そ、それは、そうでありますが……」

『エイルさん、それを言ったら可哀想だよ』

「タイムちゃん、それはそれでとどめを刺してるわよ」

『え?! ご、ごめんなさい』

「いいのであります。事実でありますから」

「あーそれと、内緒話をしたかったみたいだけど、無駄よ。イヤホンで筒抜けだから」

「なんですと?!」


 秘匿通話は私とタイムちゃんでしかできないからね。

 母さんとアニカさんは、タイムちゃんが遮断してるし。


「お心遣い、ありがたく存じるのでございます。でございますが、心配は無用なのでございます」

「だそうよ」

「そうでありますか……」


 なによ、煮え切らないわね。


『エイルさん、いいんですか?』

『ん? なにが?』

『万一のことがあったら、元素が手に入りにくく――』

「やっぱり私も一緒に行くわ!」

『あっははは……はぁ。世話が焼けるなぁ』


 そうよ。

 大事な大事な私の(しもべ)に居なくなられては大変だ。

 今後のことを考えたら、今我慢することくらい……くらい……ううっ。

 いえ、ここは辛抱よっ!

 (うず)く右手を封印し、広げたシートを鞄にしまう。

 くっ、だっダメよ。

 まだ解放してはダメ。

 上に上がるまで我慢よっ。


「エイル殿? 大丈夫でありますか?」

「え?! なにが?」

「右腕が震えているのでございます」

「あー、っははは。気にしないで気にしないで。ちょっと(うず)くだけだから」

『クスリが切れた人みたい』

「ターイームーちゃーん?」

『あはははは』


 外に出ると、既に日は暮れ、真っ暗になっていた。

 でも月明かりで結構明るいわね。


「おふたりは、こちらのテントを利用するであります。後で食事を持ってくるであります」

「あ、食事はいいわ。持ってきてるから」

「よろしいのでありますか?」

「食料少ないんでしょ。自分たちの分くらい、自分たちで用意するわ」


 それに、ロローさんには申し訳ないが、ナームコさんの食事に毒を盛られる可能性が無いわけじゃない。

 こういうところで自炊は基本だ。


「申し訳ない。正直、助かるのであります」


 テントの中は、なにも無い。

 雨風が防げるだけの、ただのテントだ。

 ま、雨なんて降ることはないでしょうけど。

 雨が降ってくるということは、結界に穴が開いていることを意味する。

 だから結界を張られて以降、天然の雨なんて降ったことはない。

 そんなことはどうでもいい。

 (うず)く右手が限界を迎え、テントの外でシートを広げる。

 そして鞄の中から戦利品を取りだして眺めた。

 これが……これが5千年前の失われた技術の結晶!

 ああ!

 まさかレプリカじゃなくて本物をこの手にすることができる日が来るなんてっ!


「エイル様?」


 でも残念ね。

 どれもこれも壊れているし、なにより電池切れを起こしている。


「エイル様??」


 壊れてなくても、電池が空じゃ、動くはずもない。


「エイル様っ」


 でもでもでもっ。

 ふっふーん。

 ナームコが居れば、電池は新品になるわっ。

 壊れた製品も直してもらえるっ。


「エイル様!」


 でも直してもらわない。

 そんなことしたら、私の楽しみが無くなっちゃうじゃない。

 さすがに電池は無理だから、やってもらうけど。

 ああっ!

 これをひとつひとつレストアできるなんてっ。

 私はなんて幸せ者なんでしょう!


「ぐふっ。ぐふふふふっ。ふっ、ふひひっ」

「エイル様っ!!」

「ぅわあ! ナ、ナームコさん?! なによいきなり大きな声出して。ビックリするじゃない」

「先ほどから何度もお呼びしているのでございます」

「あら? そ、そう? な、なにかご用かしら」

「〝ご用かしら〟ではないのでございます。テントの中に入らないのでございますか?」

「ああ、いいわよ、1人で使ってちょうだい。私はやることがあるから、邪魔でしょ」

「そういうことではございません。おやすみになられないのでございますの?」

「まだ宵の口じゃない」

「お食事は如何なされるのでございますか?」

「ん? 私は携行食で十分よ」


 これが一番楽なのよ。

 袋を剥いて囓るだけ。

 手間暇要らずだ。


「わたくしがお作り致すのでございます」

「え? 悪いわよ。いろいろやってもらった上に食事の用意まで。それに食事する時間がおしいわ」


 それじゃ、まずこれからかな。


『ナームコさん、後はタイムが面倒を見ますから、おやすみください』

「タイム様では、お食事のご用意は無理なのでございます」

「そ、そうだけど……」

「ナームコ! タイムちゃんをいじめるなら、モナカくんに言いつけるわよ」

「申し訳ございませんっ! ですが、わたくしにそのようなつもりはございません。どうか、寛容な判断をお願い致すのでございますっ」

『分かってますよ。エイルさん、ダメですよ』

「もう、タイムちゃんは優しいわね」

『優しくなんて……』

「あれ?!」

『エイルさん?』

「そんな……こっちは?」

「どうしたのでございますか?」

「嘘っ! どうして……ああっ!!」


 ここまで自分がバカだったということを、思い知らされてしまった。

一体エイルはなにを騒いでいるのでしょうか

次回はやけ食いします

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