第24話 給油してみよう
えっと、グラインダーは……あった。
替え刃は……これでいいかな。
「ナームコさん、ダイヤはどのくらいできた?」
「今、でございますか?」
「今必要なの」
「まだ1カラットくらいなのでございます」
「そんな大きいの、要らないわよっ!」
なに考えてるの?
〝もう少し〟って言ったじゃない。
「えっ? そうなのでございますか?」
「あーあ、砂粒くらいの物が沢山欲しいのに」
「そんな小さなものでよろしいのでございますか?」
「当たり前よ。なんだと思ってるの!」
「わたくしはてってり、指輪にするものだと思っていたのでございます」
「あー、確かに指輪も悪くないわね」
「でございましょう!」
「でも指輪だとガラスが切りにくいわ」
「……なんだと?」
『ナームコさん』
「ああ、失礼致したのでございます。なんと仰りやがれたのでございますか?」
『ナームコさん……』
「ん? 指輪じゃガラス切りくらいにしか使えないでしょ。使いにくいけど。とにかく、砂粒大にして、この替え刃に固着してちょうだい」
「ぐくくくっ。わ、わたくしが、錬成したダイヤを、い、一体、なっ、なんだと思って、るんだっ! ……なのでございますかっ!」
「え? ダイヤなんて切削材以外のなんの役に立つっていうのよ」
後はダイヤモンドコーティングくらいかしら。
『ナームコさん、押さえて押さえて。だから言ったじゃないですか』
「こっこのような屈辱! わたくし初めてなのでございます」
「いいから、早くしてちょうだい」
『エイルさん、少しは自分が女だってことを自覚してくださいっ。それは酷すぎますっ』
「? 急にどうしたの。私は女よ」
『そういう意味ではありませんっ!』
どういう意味よ。
タイムちゃんが怒るなんて、珍しいわね。
なにかあったのかしら。
「タイム様。もうよろしいのでございます。あなた様のそのお優しさがあれば、耐えられるのでございます」
『でも!』
「さ、エイル様。替え刃にどのように固着させればよろしいのでございますか?」
「そうね……」
こういうものは作ったことはないけど、既製品は見たことがある。
でも魔素の土台に、元素が上手く付くのかしら。
「分かったのでございます。それでは、施術致すのでございます」
相変わらず、綺麗な魔力の輝きね。
どれだけ鍛錬すれば、これほどの輝きを手に入れられるのかしら。
私には無理だ。
父さんでも、ここまで繊細で濃密な輝きを放っているところを見たことがない。
それほどまでに、錬金術は神秘的に見える。
錬金術だから特別なのだろうか。
使えぬ者に、分かるはずもない。
「さ、できたのでございます」
「ありがとう」
刃の部分に触れてみる。
懐かしいザラつきだ。
軽く撫でてみても、しっかり固着してるように感じられる。
よし、これなら給油管も切れるでしょ。
保護メガネを取り出して、装着する。
忘れたら大変だ。
ディスクグラインダーに魔力を通すと、軽快にディスクが回転を始める。
軽く管にディスクを当てると、チリチリチリと鳴きながら火花が飛んだ。
懐かしい花火の匂い。
線香花火が恋しくなる匂いね。
よかった。
ダイヤモンドカッターはちゃんと機能してるみたい。
確認は済んだので、本格的にしっかりと刃を当てる。
高速回転していたディスクが、僅かに回転速度を落とす。
勢いよく火花が飛び散っていく。
工房で研磨に使うことはあっても、こんな風に切断することはない。
そもそも、切断が必要なほど大きな鉱石なんて、父さんが生まれた頃にもなかったらしい。
石材屋や木材屋くらいだろう。
ましてや金属なんて……
「綺麗なのであります」
普通は初めて見る光景だろう。
鉱石は勿論、石材や木材……いや、この世界のものでは見られない現象だ。
存分に堪能しなさい。
うーん、裏側が切りにくいわね。
ま、切断する必要は無いんだから、見えるところを四角く切り取れば、燃料を入れられるでしょ。
ダイヤの質がいいのか、ものの数分で穴を開けられた。
これで入れられない、なんてことはない。
「ロローさん、ここに入れてちょうだい」
「どうやって入れるのでありますか?」
そっか。
携行缶なんて使ったことないわよね。
お手本でも見せますか。
えーと、注ぎ口のホースはっと……げ!
経年劣化でボロボロじゃないの。
となれば、ナームコさんの出番ね。
「はいはい、お貸しするのでございます」
分かってらっしゃる!
モナカもこのくらい物わかりがいいといいんだけど。
そしてサクッと直してしまうのも凄い。
よし、これで入れられ……あら?
「ホースが短くない?」
「劣化して損失したものは、補填できないのでございます」
「え。なら重油からなんとかならないの?」
プラスチック製品の原料は、石油だったはずよ。
「わたくしには不可能なのでございます」
「そうなの?」
「はい」
まぁ、多少短くなっても、入れられなくはないからいいか。
「いい、ロローさん。まずは……」
実演をして使い方を見せる。
なんか、路上販売を思い出してしまうわ。
携行缶の路上販売なんて、見たことないけど。
「……分かった?」
「了解なのであります」
「じゃ、次からお願いね」
「了解であります!」
「じゃあ、チャキチャキやるわよっ!」
「申し訳ございません。今日は力を使いすぎてしまったのでございます」
「あら?」
『エイルさん、もう日が沈んでるよ』
「んー、じゃあ今日はここまで。続きは明日にしましょう」
仕方ない。
手に入れた戦利品でもいじってますか。
燃料1つ入れるのも一苦労
次回は右腕の封印が……