第23話 魔力の差
「わっ、本当に水が残ってた! これで炭化水素が作れるわね」
「そうでございますね。それでは、炭素を集めるのでございます」
「え、二酸化炭素から得られるんでしょ?」
ダイヤが作れるんだから、できないはずないわ。
「気体の二酸化炭素から得られる炭素は、たかが存じているのでございます。でございますれば、液体の水に見合った固体の炭素が必要なのでございます」
そういえば、気体の二酸化炭素は、液体と比べて750倍も差があるんだっけ。
手近な炭素……木材かしら。
近くの部屋にあるといいのだけれど。
ということで、手当たり次第に木材や紙束を見つけてはロローさんに運び込ませた。
部屋を開ける度に白骨死体があるけど、骨は炭素じゃないから役に立たないのよね。
あーでも、彼らが持っていた時計や携帯端末はお宝だわ。
回収は忘れずにしないとダメよ。
『エイルさん』
「いいじゃない。どうせ本人には使えないんだし、遺族だって居ないのよ」
『そうかも知れませんが……もう』
宝飾品も貴重な鉱物になる。
本当にお宝の山だわ。
でも、本命はこれじゃない。
階段を上がって、上の階からも持ってこようかと思ったが、防災シャッターが降りていて、上がれなかった。
やはり電力の復旧は必須だわ。
ラッキーだったのは、中身は空だったけど携行缶がいくつか手に入れられたこと。
これで水の持ち出しが楽になる。
ポンプで汲み上げられた水が球体になり、宙に浮く。
そこへかき集めた木材から取り出した炭素を混ぜ合わせる。
錬金術によって水は分解され、炭素と結合し、酸素が放出され、不純物が排除される。
すると、懐かしい重油の匂いが微かにした。
ああ、久しく嗅いでいなかったこの匂い。
くさいけど懐かしい。
錬成された重油が携行缶に吸い込まれていく。
本来なら重油を入れるものではないのだが、気にしても仕方がない。
そして我慢できず、取り入れ口に鼻を近づけ、大きく息を吸う。
ああっ、これこれ!
この匂いよっ。
でも、ここまでしないと匂いが嗅ぎ取れないのか。
以前だったら吸い込まなくても匂ってきたのにね。
「エイル様? 一体なにを為さっておられるのでございましょうか」
「え?! あ……べっ別に。なっ、なんでもないわよっ!」
いけないいけない。
匂いを嗅ぐことが目的ではないわ。
これを自家発電の燃料タンクに入れれば……
って、考えてみれば、給油口は外なんじゃないかしら。
あー、また手を考えなくちゃ。
私、ソフトウェアは得意だけど、ハードウェアはそんなに得意じゃないのよ。
「とりあえず、これをあっちの燃料タンクに入れに行くわよ」
「了解であります」
「ナームコ、貴方もよ」
「わたくしもでございますか?!」
「給油口が外なんだから、内側から入れるには貴方が必要なのよ」
「本当に人使いが荒いのでございます」
いちいち文句が多いわね。
「分かった分かった。家に帰ったら、モナカくんと存分にイチャつけるように協力できる範囲でしてあげるから」
「エイル様っ、なんなりとお申し付けくださってもよろしいのでございますのよ!」
扱い安すぎて、ほんの少しだけ心が痛い気がする可能性があるかも知れないわ。
さて、自家発電室に戻ってきたわけだけど……
やっぱりエンジンに繋がってる配管から逆流させるしかないわよね。
気が遠くなるほど時間が掛かりそう。
これが個人宅の自家発電機なら、こんな苦労もなかったんだけどな。
さて、燃料パイプはどれかなー。
よし、ここは専門家に聞いてみよう。
「ナームコさん、燃料の配送管はどれかしら」
「そうでございますね……これでございましょうか」
やっぱりあまり太くないわね。
とはいえ、ここから入れないといけないのか。
……こんなもん何処から入れればいいの?
「エイル様、こちらに給油用の配管がございますわ」
「えっ、どこ?」
「この壁の裏でございます」
壁の裏かー。
それは盲点だったな。
「地上と、下のタンクに繋がっているようなのでございます」
「でかしたっ!」
ならまずは壁を壊して……えーっと。
詠唱銃だと範囲が広くなるから、連射式詠唱銃でやるしかないか。
「みんな下がって」
管を避けて、回りの壁を壊すように……撃つ!
撃って撃って撃ちまくれーっ!
これでどうだっ!
って、硬いなぁ。
ちょっと削れた程度じゃない?
もう一回!
……もう一回!
…………もう1回!
ダメだ、全然壊せない。
やっぱり元素は硬いわね。
ナームコさんにツルハシでも作ってもらうしかないか。
「エイル殿、下がるのであります」
「ロローさん?」
「そこを撃てばいいのでありますな」
「あ、でも硬いのよ」
ロローさんは手持ちの単発式魔力銃を構えると、魔弾を撃ち込んだ。
私がいくら撃ってもビクともしなかった壁は、いとも容易く撃ち抜かれた。
数発撃ち込むと、ガラガラと音を立てて壁は崩れ落ちた。
……だから私はアレを探しに来たんだ。
必ずある。
私に欠けているものを補ってくれるものが。
「これでよろしいでありますか?」
「ええ、ありがとう。助かったわ」
父さんの腕を疑っているわけではない。
それでも、探究心には勝てなかった。
「ロローさん、その銃、見せてもらえますか?」
「これでありますか? 隊支給のものでありますから、一般の方には……」
当たり前よね。
それでも、知りたい。
「その銃のオリジナルのよ、父さんが作ったもののよ、元にしてるのよ」
「そうなのでありますか?」
「だから見せてほしいのよ」
「いや、しかし……」
「メッ、メンテナンスだと思うのよ、それで手を打つのよ」
「メンテナンスでありますか……」
ダ、ダメかな。
さすがに苦しいかな。
すると、ロローさんは銃を床に落としてしまった。
「あっ、しまったのであります。落としてしまったのであります。エイル殿、壊れてないかメンテナンスをお願いするのであります」
「い、いいのよ?」
「良いも悪いも無いのであります」
「ありがとうなのよ」
「お礼を言うのは、我が輩なのであります」
落ちた銃を拾って、見てみる。
さっき言ったことは嘘ではない。
これの元になったのは、私が持っている連射式詠唱銃だ。
大きな違いはない。
量産化にあたって、かなり略されているけど、父さんの癖が残ってる。
素材も良い物を使っているな。
それの所為なのか。
「こ、壊れてないのよ、試してみるのよ」
壁に向かって構え、1発撃ってみる。
「エイル殿?!」
父さん、ごめんなさい。
やっぱり、私が力不足なんだね。
ロローさんみたいには、ならないや。
ああ、自分の力不足を、一瞬でも父さんの所為にしてしまった自分が憎い。
壁に傷を付けるどころか、削ることすらできなかった。
「はぁ……問題はないみたいよ」
「そうでありますか。ありがとうなのであります」
「いいえ、ありがとう。ごめんなさい」
とにかく、管が露出したわ。
この管を切って、そこから重油を入れれば問題解決ね。
建築家が見たら、意味不明な構造の建物かも知れない
次回はダイヤモンド再び