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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第22話 水を求めて

 ……ちょっと待って。

 確か消火設備室があったわね。

 ということは、もしかしたら防火水槽もあるんじゃないかしら。

 そこになら水が残っている可能性があるわ。


「ナームコさん、付いてきて」

「何処へ行くのでございますか?」

「消火設備室よ」


 消火設備室の扉の鍵を作ってもらい、鍵を開ける。

 こっちはしっかり掛かったままだ。

 飲み水にしようと考えたものは居ないってことね。

 防火水槽は外に設置されているはずだ。

 しかし、送水管は繋がっている。

 そこからくみ取れれば……

 まずは送水管を外さないとね。

 ふふっ、ラチェットなら持ってるから、後はサイズが合えば……

 よし、合うヤツがあったわ。

 後はこれで六角ボルトを……ボルトを……うーっ!

 ふんむぅーっ!

 うりゃあーっ!!

 はぁ、はぁ、はぁ、か、硬いわね。

 固着してるみたい。


「ナームコさん、これなんとかならないかしら」

「はぁ……わたくしは便利屋ではないのでございます」

「いいからいいから。細かいことを気にする女は、モナカくんにモテないわよ」

「それは困るのでございますっ!」


 ふっ、チョロいわね。


「これで回るようになったのでございます」

「……早いわね」

「兄様にモテる女は違うのでございます」


 あはははは。

 そうですかー。

 ともかく、回してみましょうか。

 せーのっ、よっぅわあ!


「あいったたたた」

「大丈夫でございますかっ!」

「ああ、うん、平気平気」


 ったたたた。

 いやー、あんなに硬かったのに、ここまで簡単に回るものなの?

 勢い余って尻餅付いちゃったじゃない。

 まさか、指で回ったり……するわね。

 どんなよっ!

 摩擦係数おかしくない?!

 とにかく、これで水が残っていれば汲めるはずよ。

 えっと……水の匂いがしないわね。

 まさか空っぽなの?!


「クンクン、水の臭いがするのでございます。まだ残っているようなのでございます」

「え、嘘!」


 ……やっぱり匂わない。

 私が魔素人だからかしら。

 モナカくんは毎日がこんな感じなのかな。


「なんとかなりそう?」

「そうでございますね……はい、十分な量の水が残っているのでございます」

「じゃあ汲み上げないとね。えっと……汲み上げ用のポンプは動かせる?」

「エレベーターのときにも申し上げたのでございますが、わたくしでは力不足なのでございます」

「そっかー、このポンプが動かせればねー」


 さて、どうやって汲み上げようか。

 外から回って直接汲み上げられればよかったんだけどな。

 埋まってるからそれは無理だ。


「手動でポンプを回せるようにするのは如何でございましょうか」

「そんなことできるの?!」

「構造は単純でございますし、要らない部品を利用すればなんとか」

「ならお願いするわ」

「承ったのでございます」


 私が外したボルトや、要らない部品やらを一塊にすると、手回しハンドルを作った。

 錬金術師というより、鍛冶屋だわ。

 鉄を熱せず、粘土のように形成できるなんて、本当に凄い。

 そしてハンドルをポンプの動力部と直結した。


「できたのでございます。ハンドルを回せば、ポンプが動くのでございます」

「凄い! きっとモナカくんも惚れ直すと思うわ」

「はぁ! 兄様っ! わたくし、やりきったのでございますっ」

「だから、モナカくんには聞こえないってば」

「通話できるようにならないのでございますか?」

「無理よ」


 私はできるけど。


「ご褒美が足りないのでございますぅ……」

「ほら、グテッとしないで! まだ始まってすらないんだからね」

「で、ございますか……はぁ」

「ほぉら! さっさと回すわよ」

「わたくしは錬金術師なのでございます。力仕事はお任せ致すのでございます」


 少しこき使いすぎたかしら。

 でもそうね。

 力仕事なんだから、男に任せよう。


「ロローさん、ちょっとこっち来てくれる?」

「了解であります」


 置いてきたロローさんを呼び寄せて、やらせればいいんだよね。


「このハンドルを回してほしいの」

「これをでありますか。了解であります」

「ナームコさん、どっち回りなの?」

「時計回りなのでございます」

「だそうです」

「心得たのであります」


 ハンドルを握りしめ、回そうとしているが回らない。

 力を込めても回らない。

 頑張れ!

 キミの頑張りに、我々の命運が掛かっているんだぞ。

 と、そこまで応援して気づいた。


「ナームコさん、ポンプも固着してるんじゃないの?」

「どうでございましょう……そのようでございますね」

「じゃあよろしく」

「仰られると思ったのでございます」


 やれやれといった感じで、それでも手をかざして呪文を唱え始める。


「頑張って。お兄さんが見てるわよ」

「兄様っ! わたくしはできる妹なのでございますっ!」


 おお!

 なんか魔力の輝きが一層激しくなったわ。

 モナカくん、居なくても役に立つわね。

 貴方、やっぱり最高の検体よっ。


「さ、兄様っ! 終わったのでございます。存分に褒めてもよろしいのでございますわよ」

「あーはいはい。今のは録画してあるから、後でモナカくんに見せといてあげるわよ」

「エイル様?! 兄様をいいように使わないでほしいのでございます」

「簡単に騙される貴方に問題があるのよ」


 殆ど条件反射ね。

 ベルを鳴らしたらヨダレが出る犬の話みたいだわ。


「ロローさん、もう一度やってみて」

「了解であります。では、行くでありますよ。せーのっ!」


 あ……それ、危険なんじゃ。

 止める間も無く、ハンドルを勢いよく回し始めた。

 さすがにボルトと違い、歯車や水の抵抗があるらしく、すっぽ抜けるようなことはないようだ。

 それでもさっきまでびくともしなかったハンドルが、ゆっくりではあるが回っているのは、やはり感嘆に値する。

 益々手放すのが惜しい人材ね。

 元の世界へ戻らせないようにする方法を考えないといけないかしら。

 などと考えていると、外したパイプから水が出てきた!

エイルの知っている世界にパブロフは居ませんが、似たような話はあります

次回は銃乱射事件です

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