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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第21話 炭化水素

 あの2人、組ませてよかったのかな。

 自家発電装置が見つかっても、ナームコさんが居ないとまともに動かないから、心配だ。

 とはいえ、心配しても始まらない。

 今は探すことに専念しましょう。

 連絡はイヤホンを通して簡単にできるんだから、なにかあればすぐ分かる。

 そもそも通訳はタイムちゃんを通してるんだ。


『2人になにかあったら教えてね』

『無理ですよ。今のタイムはエイルさんの身分証としかリンクできないんですから』

『でも2人の会話を同時通訳してるんでしょ?』

『通訳してるのはタイムじゃなくてアプリです』


 そっか。

 タイムちゃん自身は言語を理解してるわけじゃないんだ。


『イヤホンが拾った音は、マスターの携帯(スマホ)で処理されてるんですよ。タイムは覗き見なんてしません』

『そういうところは真面目ねー。モナカくんのことは覗き見してるのに』

『な、なんのことですか?!』


 ふふっ、バレてないと思ってるのかしら。

 可愛いなぁ。


『いいからいいから。あの2人はどうなの?』

『もー。フブキさんの散歩のときだけ、手を繋いでます。それ以外はダメですね』


 へー、ちゃんと言いつけを守って、散歩は一緒にしてるみたいね。

 でも、手を繋いでるんだ。

 ただ後ろをついて行ってるだけだと思ってたのに。

 ま、なんにしても良い傾向だわ。


『充電はできてる?』

『なんとか。でも日に日に効率が悪くなってます』

『どのくらいもちそう?』

『散歩のときだけでも手を繋いでるのが幸いですね。それでも長くて半年でしょうか』


 それまでになんとか関係を戻してもらいたいものね。


『短いと?』

『今日にでも』

『今日?!』

『驚かないでください。魔獣と戦った辺りから、そんな感じだったんですから』


 その割にはタイムちゃんは冷静ね。


『そこまで悪くなってたのね。モナカくんは知ってるの?』

『教えてませんが、薄々気づいてるかと』

『それでなんであんなに落ち着いてられるの?』

『1度死んでますからね。本来ならそのまま死ぬはずが、願ってくれた人のお陰て今生きていられるだけだから、らしいですよ』


 願ってくれた人のお陰……か。

 それって時子さんのことじゃないの?


『あの歳でそんなこと思うなんて。もっと生にしがみつきなさいよ。私がバカみたいじゃない』

『あははは、そんなことないですよ』

『っと、行き止まりか。こっちはハズレみたいね』

『そうですね』


 となると、あっちか。

 階段もあっちかしら。


「こっちはハズレよ。そっちはどう?」

「まだ見つからないのでございます」


 見慣れない文字を比較するんだから、時間も掛かるのだろう。


「エイル殿? いつ戻られ……おや? エイル殿?」

「どうしたの?」

「ややっ! 声はすれども、お姿が見えないのであります」

「イヤホンが通信機になってるの。言ってなかった?」

「そうでありましたか。我が輩、聞き逃していたのであります。申し訳ないのであります」

「ナームコさん、ちゃんと教えてあげなきゃダメよ」

「わたくしも初耳なのでございます」


 そうだったっけ。


「兄様っ、ナームコは寂しいのでございますっ。今なにをなさっておられるのでございますか?」

「ナームコさん、モナカくんとは繋がってないわよ」

「エイル様は意地悪なのでございます」

「なんでよっ! いいからさっさと探してちょうだい。私も今からそっちに行くから」


 意地悪ってなに。

 その為のイヤホンじゃないのよ。

 真面目にやってほしいわ。

 とにかく、来た道を戻って……え?


「なにやってるの?」

「あ、エイル殿」


 まだ2カ所目じゃない。

 少し遅すぎない?

 私が書いた文字と扉の文字を見比べているようだけど……

 はぁ、全然違うじゃない。


「そこは〝消火設備室〟よ」

「そうなのでありますか?」


 私が見た方が早そうね。

 これじゃあ、ふたてに分かれた意味が無い。


「次、行くわよ」

「了解であります」

「こっちの部屋はなんでございますの?」

「ん? ああ、〝女子トイレ〟よ。で、その隣が〝男子トイレ〟ね」

「パッと見ただけで分かるのでありますか」

「当たり前よ。さ、次に行くわよ」


 途中、上り階段を見つけたけれど、今は放っておく。

 そして一番奥で、目的の〝非常用発電室〟を見つけた。


「ここね」

「ここでありますか」

「ナームコさん、お願い」

「承知したのでございます」


 屋上のときと一緒だ。

 ただ、上よりも結構錆が目立つ。

 それでもナームコさんの手に掛かれば、綺麗に取れてしまう。

 錬金術、便利ね。

 そして錆を1つに纏めると、酸素を分離する。

 あんな簡単に錆が金属に還元できるなんて……

 なんとかして習得できないかしら。

 そして金属が変形し、1本の鍵へと生まれ変わった。

 液体金属でもないのに、いとも簡単に変形できるなんて……

 なんとかして習得できないかしら。


「エイル様、できたのでございます」

「ありがとう」


 鍵を鍵穴に差し込み、右に回すと鍵が……開いてる?

 ノブを回すと扉が開いた。

 どうやら掛かっていなかったみたい。

 こんな重要な設備なのに、不用心ね。

 しかし、扉を開けて中を見たら、理由が分かった。


「これは……」

「きゃっ!」

「骨でありますか?」


 そう。

 白骨化した死体が幾つもあったのだ。

 この建物と一緒に転移してきた人たちだろう。

 となると、他の部屋も同様に白骨死体があるはずだ。

 でも、ここに死体があるということは……


「よくないわね」

「そうでありますな」

「ご冥福をお祈りするのでございます」

「そういうことじゃないわ。恐らく、最悪の事態だと思うの」

「これ以上の最悪があるのでありますか?」

「あるのよ」

「それは一体なんでございますか」

「それを今確認するから、待って」


 えーっと、何処にあるのかしら。

 あー、あった。


「やっぱり、予想どおりだわ。もう最悪」

「なにが予想どおりなのでありますか?」

「燃料よ」

「燃料……でありますか?」

「燃料が全て使われた後なのよ。空っぽなの! もー、これじゃ再構成もコピーもやらせられないじゃない!」


 なんのためにここまできたと思ってるのよ!

 無駄な時間を過ごしたわ。

 でも階段は見つけたから、上に行ける。

 時間は掛かるけど、なんとかなりそう。

 いえ、なんとかするのよっ!


「エイル様、なんとかなりそうなのでございます」

「えっ?」

「タンクの中に、僅かではございますが、残っているようなのでございます」

「本当なの?!」

「劣化していらっしゃられるので、少し時間は掛かるのでございます。ですが……」

「なにか問題があるの?」

「はい。わたくしはゼロから物質を作ることはできないのでございます」


 そういえばそうだったわね。


「炭化水素は錬成できないの?」

「炭素はございますが、水素が足らないのでございます」

「水を分解すればいいんでしょ?」

「そうでございますね。ですがこの辺りはかなり乾燥しておられるのでございます」

「水ならいくらでもあるわよ」


 水筒に魔力を込めれば、いくらでも湧いて出る。


「いえ、その水ではダメなのでございます。そもそもそれは魔素なのでございます」

「あ……」


 そうだった。

 必要なのは元素の水。

 何処から調達すれば……

 そもそも燃料タンクを満たせるだけの水が必要なはず。

 それほど大量の水なんて、あるはずがない。

 完全に詰んだわ。

炭化水素……結構万能な言葉なのね

知らなかったよ

次回は水を探しましょう

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