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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第19話 見上げてはいけない

 まずは下に降りるための階段を探すのだが……


「どういうこと……」

「やはりこちらにも、階段は無いのであります」

「あちらにも無かったのでございます」


 そう、建物の中に入ったのはいいが、階段が見つからない。

 どういうことなのよ。

 普通、非常階段くらいあるものでしょ!

 まさか、建物の外にしか非常階段が無いとでもいうのかしら。

 だとすれば、全て埋まっていることになる。

 まさか下までこの土を掘るの?

 ナームコさんの石人形(ゴーレム)に任せたとしても、一体何ヶ月かかることか。

 そんなに長く家に帰らないのは、母さんに心配を掛けてしまう。

 となると、方法はただ1つ。


「エレベーターで降りるしかないわね」


 エレベーターといっても、目の前にあるのはモーター室。

 ここから乗ることはできない。

 乗れたとしても、電気が無ければね……じーっ。


「ん? エイル様、いくらわたくしでもエレベーターを動かせるほどの電荷移動はできかねるのでございます」

「ですよねー、あはははは、はぁ……」


 とりあえず、モーター室の中に入ろう。

 幸い鍵も無ければパネルも無い。

 外の扉と比べて、綺麗なものだ。

 殆ど錆びていない。

 ノブをひねれば簡単に開くのが、その証拠だ。

 部屋に入ると、真ん中に巻き上げ機がある。

 扉同様、錆びてる様子は無い。

 電気さえ通せれば、なんとかなりそうだ。

 壁際にある制御盤の蓋を開いてみる。

 当然だが、電気は来ていない。

 ランプは全て消えている。

 スイッチ類は……壊れてなさそうね。

 巻き上げ機に掛かってるワイヤーも錆びていない。

 グリースは……カピカピね。

 柔らかさが無いわ。

 ……あった。

 点検用の扉が床に設置されてるわ。

 ここから下に降りられそうね。


「ここから下に降りるわよ」

「ここからでありますか?」

「他に方法が無いわ」

「了解であります」

「服が汚れそうなのでございます」

「貴方は心が汚れてるから、服が汚れたくらいじゃなにも変わらないわ」

「それはどういう意味なのでございましょうか?」


 そのままの意味よ。


「さ、行くわよ」

「エイル様っ!」


 床の扉を開くと風が……吹いてこないわね。

 空気も完全に淀んでいるようだわ。

 というか、魔素が薄い。

 結界の外ほどではないけど、少し息苦しいわね。


「ロローさん、魔素が少し薄くない?」

「そうでありますな。魔素計が黄色いので、注意が必要なのであります」


 そう言うが、顔色は1つも変わっていない。

 さすが訓練された兵士ってところかしら。


「わたくしは久しぶりに酸素が吸えて、嬉しいのでございます」

「そうなの?」

「そうなのでございます」

「なら貴方は、今までなにを吸っていたのかしら」


 元素人が酸素を吸わずに……いえ、元素を吸わずにどうやってエネルギーを生産しているのか、非常に興味深い。

 モナカくんと時子ちゃんをいくら調べても、さっぱり分からなかったのよね。

 その謎が今、解ける!


「錬金術のお陰でございます」

「錬金術?」

「ええ、魔素から酸素と同等の働きをするものを作り、代替したのでございます」

「代替……」

「それができなければ、遠征に選ばれなかったのでございます」

「つまり、貴方の世界からここに来た人たちは、みんな錬金術師ってこと?」

「いいえ、わたくしたちの世界には、今は錬金術師しか居ないのでございます」


 そうなんだ。

 錬金術師なんて、1人どころか非実在人だもの。

 そんなこと、分かるわけないわ。

 あの2人がどうやって生きてるのか、結局分からないままね。


「ところでエイル様、こちらはどう致したらよろしいでございますか?」

「え?」


 ナームコの手には、砂粒より細かい透明なものがあった。

 石英かしら……

 んー、え?!

 もしかしてこれ。


「ダイヤモンド?」

「さすがエイル様、お目が高いのでございます」

「どうしたのよ、これ」

「実は、この空間に酸素なんて残っていなかったのでございます」

「どういうこと?」

「わたくしは先ほども申しましたとおり、錬金術師でございます。電荷だけではなく、当然のことでございますか、電子操作ができるのでございます。そしてここに充満しているのは、二酸化炭素なのでございます」

「それってまさか……」

「ふふ。そのまさかなのでございます」


 え、嘘!

 二酸化炭素を分解して、炭素と酸素に分けたってこと?!

 そして酸素は自分で吸って、余った炭素は分子構造を並び替えてダイヤモンドにした……


「ねぇ、もっと作れる? もう少し大きな結晶も作れる?」

勿論(もちろん)なのでございます」

「やったぁ! え、本当に? 嘘、やだ。こんなところで手に入るだなんてっ! ぐ、ぐふふふふっ」

『エ、エイルさん、ヨダレが……』

「ふへ?! や、やだ私ったら。っふふふふ、くふっ、くっくっくっ……」


 でもこれで今までできなかったアレとかコレができるように……

 思った以上に優秀だわ。

 モナカくん、ありがとう。

 貴方の妹は、私のお嫁さんにするわ。


「な、なんだか悪寒がするのでございます」

「くふふふふ」


 あ、ということは。


『き、気のせいですよぉ』

「そうでございますか? でもよかったのでございます」


 ダイヤ以外にも、希少金属とかも作れるのかしら。


『なにが?』

「エイル様も女なのでございますね」


 あ、でもあれは分子構造とかじゃなくて、原子そのものよね。


『どういう意味?』

「ダイヤモンドの輝きに魅了されない女が居るのでございましょうか」


 核融合でもしないと無理よね。


『あー、そうですね。タイムも少し分かります』

「でございましょう」


 ……できるのかしら。


『あーでも、なんか違うように見えますよ』

「そうなのでございますか? 仰られてみますと、そんな気がしなくもないのでございます」


 それができれば、本当に錬金術師だわ。


『あのエイルさんですからね』

「そうなのでございましょうか」


 でも今は置いておきましょう。


『きっとそうです』

「なにしてるの! さっさと降りるわよ」


 ふふっ、おっ宝おっ宝。

 据え膳食わぬは、恥なのよっ。


「ふふっ、分かったのでございます」

「で、ありましたら、我が輩が先に降りるのであります」

「ロローさんが?」

「そうであります。この先、どんな危険があるか分からないのであります。我が輩が先陣を切るのであります」

「わかりました。お任せします」

「ロロー様、それはよろしいのでございますが、途中で上を見ないでほしいのでございます」

「上、でありますか?」


 上?

 上になにかあったかしら。

 らしくなく、ナームコが赤面してるわね。


「あ……わ、我が輩、殿(しんがり)を務めるのであります」

「え、殿(しんがり)? どうして?」

「我が輩、一番槍は譲ることにしているのであります」

「そうなの? 別に誰も気にしないわよ」

「我が輩が気にするのであります」


 さっきと言ってることが違うんですけど。


「分かった。なら私が先に降りるわ」

「エイル様、それはよろしいのでございますが――」

「あーはいはい、上を見なきゃいいのね」


 なんなのよ、全く。


「お願いするのでございます」

「必要なとき以外は見ないわよ」

「必要でも見上げないでほしいのでございます!」

「なんだってのよ! そんなに嫌なら、貴方が先に行きなさいよ」

「では、そうさせて頂くのでございます」


 全く、面倒な子ね。

 最初に入りたいなら、そう言えばいいじゃない。

 回りくどいったらありゃしない。


「先ほども申し上げたのでございますが」

「もう誰も見上げたりしないわよっ」

「いえ、そうではないのでございます。この先は更に二酸化炭素濃度が高いのでございます」

「……それがどうしたっていうのっ」


 さっさと行きなさいよ、もぅ。


「ですから、致死濃度を大きく上回っておられるのでございますが……」


 二酸化炭素にまで敬語使わないでよね。


「だから、それがどうしたっていうのよ」

「エイル殿! 我が輩はニサンカタンソは分からないのでありますが」

「分からないなら黙ってなさいよ」

「でありますが、致死量の……というからには対策をしなければならないのではありませんか」


 ああ、そういうことね。

 ナームコさんは彼女なりに気を遣ってたのか。


「心配ないわ。私たちには無害だから」

「そうなのでありますか?」

「貴方はここで待っててもいいのよ」

「いえ、か弱き女性を放っておくことはできないのであります」


 か弱いねぇ。

 私はともかく、ナームコさんはか弱くないと思うわよ。

 とにかく、大丈夫だから、行きましょう。

何故見上げてはいけないのでしょうか

次回はいよいよ潜入です

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