第18話 5千年振りの外気
さて困った。
壊すといっても、そう簡単に壊せるような扉ではなさそうね。
「電気が生きてればよかったんだけど」
「あら? 電気が必要なのでございますか?」
「ええ。パネルに電気が来てないから、どうにもならないわ」
「その程度なら、なんとかなるのでございます」
「本当?!」
「電荷を移動させる程度、大したことではないのでございます」
「大したことよ」
人間バッテリーかしら。
「錬金の初歩の初歩なのでございます」
「そ、そう……」
そうなんだ。
確かに電子操作と比べたら……
比べられるものなのかな。
ナームコさんがパネル付近の壁に手を当てながら、呪文を唱える。
ピリピリと電気が放出されているのが分かる。
要は放電現象だ。
近くに居たら、髪の毛が逆立つんじゃないかしら。
ま、この身体じゃ起こり得ないけどね。
「その光はなんでありますか?」
「あら、見て見ぬ振りをするのではなかったのでございますか?」
「し、失礼したのでありますっ!」
「っふふふ、構いませんのでございます」
「これは電気よ」
「デンキ……でありますか?」
知らなくても無理はない。
この世界にはそもそも電子が無いんだから。
「私たちには無害だから、気にしなくていいわ」
「さ、左様でありますか」
「あら、そうなのでございますか?」
「ええ。電気が流れたところで、感電することはないわ」
そもそも流れないしね。
「変わった身体でございますのね」
「この世界では、あなたやモナカくんたちの方が異質なのよ。そんなことより……」
「ええ。恐らく大丈夫だと思うのでございます」
「なら、操作してみてよ」
「わたくしが……でございますか?」
「言ったでしょ。私たちに電気は無害だって。だから、パネルが反応しないのよ」
一応パネルにタッチしてみたが、反応がない。
モナカくんの携帯を操作できなかったときと、同じだ。
「なるほど。確かにそのようでございますわね」
ナームコさんが触ると、ちゃんと反応した。
……もしかして、普段モナカくんのお世話をしてるけど、ここだと逆に私がナームコさんにお世話してもらわないといけないのかしら。
まさか……ね。
「それで、番号は幾つなのでございましょう?」
「タイムちゃん、分かる?」
『えっとね……っははは! 〝ごくろーさん〟だよ!』
「ややっ! 声はすれども、姿が見えないのであります!」
あー、そういえば、ロローさんもイヤホンしてるんだっけ。
秘匿通信にしておけばよかった。
「気にしないのよ。タイムちゃん、〝ごくろーさん〟って、なに?」
『あ……そっか。ごめんなさい。〝5963〟だよ』
「ありがとう。ナームコさん」
「聞こえているのでございます」
番号を入力すると、鍵穴のカバーが開いた。
そこに鍵を入れて回すと、鍵が解除された。
ドアノブを回すと、扉が開いた。
5千年振りに開かれる扉。
カビ臭いかと思ったのに、特に匂わないわね。
カビすら死滅したってことかしら。
「タイムちゃん、見取り図は手に入る?」
『んー、メインが落ちてるから無理かな。今動いてるのは、非常用の端末だから』
「なら、まずは電源を確保しないとダメね。発電所に行きましょう」
『発電所?』
「非常用の自家発電機があるはずだから、それを動かしましょう」
『燃料が腐ってないかな』
「ナームコさんがなんとかしてくれるわ」
「わたくしをなんだと思ってるのでございますかっ」
「んー」
便利な僕?
「さ、行きましょう」
「誤魔化さないでほしいのでございますっ!」
「うるさいわよ。細かいことを気にする女はモテないわよ」
「兄様にモテていれば、どうでもいいことなのでございます」
「え……貴方、自分がモナカくんにモテているとでも思ってるの?」
「当たり前なのでございます」
おめでたいわね。
自信満々に言っちゃって。
はぁ……ま、いいわ。
私には関係ないもの。
中は……っと。
ま、電気が来てないのだから、外と同じで真っ暗よね。
結局、この懐中魔灯だけが頼りだ。
思ったより朽ちてないようね。
5千年経ってるとはいえ、日に当たらなければ、劣化もそうはしないということか。
そもそも元素に影響を与えられる物質なんて、この世界には元々存在しない。
扉が錆びていたのだって、元々錆びていたのと、建物の中に取り残されていた酸素が原因だろう。
だから朽ちずに原形を留めていたんだ。
ということは、電気さえなんとかすれば、中のものが生き返るはず。
ふふっ。
これを宝の山と言わずして、なんという!
デュフフフフ。
「エイル殿?」
「え?! あ、なんでもないわよ」
「エイル様、鼻の下が伸びきっているのでございます」
「ぐっ……さ、さー電源を復旧しに行くわよ!」
「場所がお分かりになっていらっしゃるのでございますの?」
「ぐ……タ、タイムちゃん」
『ごめんなさい。非常端末にはそういった情報が残ってなかったの』
「あ、いいのいいの。タイムちゃんは悪くないわ。私が無理言ってるだけだから。ありがとうね」
ふぅ……
となると、この暗い中、上から順に調べないといけないのかしら。
設置場所になにか条件とかあれば分かり易いんだけど。
私は知らないからな。
でも屋上に設置されていたら、おしまいね。
地下室にある可能性を信じて、地下を目指すしかない。
……階段を降りて?
それとも梯子かしら。
途中に扉だってあるでしょうし、困ったわね。
「とにかく、地下を目指すわよ。敵は階段と扉ね。気合いを入れていきましょう!」
「地下でありますか?」
「ええ、ここは屋上だから、結構掛かるかもね」
「何階建てなのでございますか?」
「確か5階建てくらいだったと思うわ。ただ下3階分はかなり天井が高いらしいわよ」
「センタービルという割には、意外と低いのでございますね」
「知らないわよ! 私に言わないで」
私たちは地下を目指して意気揚々と扉の中に入った。
そしてそこでいきなり難題に差し掛かってしまう。
錬金術って、みんなはどんな解釈なのかな
次回は下に……