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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第3章 貿易センタービル
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第17話 地下にある屋上の扉

 タイムちゃんが録画していてくれた勇者の(ほこら)

 そこに映っていた扉は、どう見ても屋上の扉だ。

 そして露出していた建物部分から推察すると、当時世界の貿易の中心地だった場所だ。

 消えかかっている文字からも、それが伺い知れる。

 となれば、その中の荷置き場には、あれが必ずあるはずだ。

 当時の世界最高基準のものを手に入れられれば、私は戦えるはずだ。

 それをこっそりと拝借してくれば、目的は達せられる……のだが。

 何故かロローさんが一緒に来ていた。


「ロローさん、別に大丈夫ですよ。指示書にもあったと思いますが、私たち2人で十分です」

「そういうわけにはいかないのであります。我が輩の不徳のため、モナカ殿は右腕を無くすことになってしまったのであります」


 責任を感じてるってこと?

 真面目ねー。


「だから、モナカくんの右腕は繋がったから気にしなくていいって言いましたよね」

「それはそれなのであります」


 もー、融通が利かないなぁ。


「我が輩はこの(ほこら)を守るため、人命を守るため、最善を尽くさなければならないのであります」


 民衆を守る、兵士の鏡ってところかしら。

 今は余計なお世話なんですけど。


「よろしいではございませんか。わたくしたちの護衛をなさってくれるというのでございましよう?」


 なにから護衛されるというのだろう。

 あの中に魔獣なんて入り込む余地はないわ。

 そもそも問題はそこじゃない。

 これじゃあこっそり拝借できないじゃない。

 仕方がないわね。

 堂々と拝借するしかないか。


「そんなことより、貴方のそれが鬱陶(うっとう)しいのよ。普段どおり喋りなさい」

「なんのことでございますか? わたくし、普段どおりでございますわ」

「はぁ」


 あくまで他の人が居る時は、そのキャラを貫き通すのね。


「はいはい。そういうことにしてあげるわ」

「それで、どうするのでありますか?」

「この扉から中に入るわよ」

「開けられるのでありますか? 我が輩たちでは、開けられなかったのであります」

「そりゃ、魔法で鍵が掛かってるわけじゃないからね」

「どういう意味でありますか?」

「まぁ見てなさい。ということで、ナームコさん! 出番よ」

「エイル様、わたくしは街の便利な鍵屋さんではないのでございます」

「あら、貴方ともあろうものが、こんな簡単な鍵も開けられないのかしら」

「そのお言葉、ソックリ返させて頂くのでございます」

「うるさいわね、いいからさっさと開けてちょうだい」

「はぁ……錬金術をなんだと思っていらっしゃるのでございますか」

「いいじゃない! 元素操作は得意なんでしょ!」

「あら。この扉が元素でできていることをご存じだったのでございましたか」

「ええ。歴史書で見ていたからね」


 問題は、5千年前の骨董品が使えるかどうかね。

 だからナームコの力が必要なのよ。


「仕方がないのでございます。これも兄様のため……なのでございますよね?」

「ええ、そうよ」


 本当は私のためだけど。

 広い意味ではモナカくんのためにもなるから、嘘にはならないわ。

 ……多分。


「分かったのでございます」


 よし!

 じゃあ、お手並み拝見といきますか。

 召喚術は飽きるくらい見た……とは言いがたいかな。

 とにかく、錬金術なんて物語の中の話だったものね。

 研究室の中でも、実用レベルにはならなかった技術。

 それが今、目の前で見ることができる!

 ああ、私はなんて幸運なのかしら。


「エイル様、興味がおありなのは分かりましたから、少し離れて頂けないではございましょうか」

「ふへ?! あ、ああ、そうね、そうよね。じぃぃぃぃぃぃぃ」

「はぁ……さて、ではまず、錆をどうにか致しますのでございます」


 そうね。

 見るからに錆だらけの扉。

 鍵を開けるにも、扉を開くにも、一番の障害よね。


「どうするの?」

「簡単なのでございます。錆の原因物質を、還元してしまえばよろしいのでございます。ただ……」


 そう言って、チラリとロローさんを見た。

 ああ、そういうことね。


「安心するであります。任務中に知り得たことは、口外無用なのであります」

「でも、中央には報告するんでしょ」

「そ、それは……我が輩、なにも見ないのであります! 見なければ、報告できないのであります」


 そう言って、クルリと背中を向けてしまった。

 彼なりの配慮ってことね。

 それを確認して、ナームコは両手を伸ばすと、呪文を唱え始めた。


『タイムちゃん、なんて言ってるか分かる?』

『無理ですね。日常的に使ってる言語とは別の言語を使ってるみたい』

『そうなのね。んー、解読できれば私にも使えるかしら』

『どうかな。発音がエイルさんの声帯だとかなり難しいよ』

『そっかー、難しいかー。無詠唱でいけないかな』

『いきなり理解だけで(ことわり)をねじ曲げるんですか?』

『だよねー』


 残念。

 そもそも現代人に、詠唱魔法なんて使いこなせるはずもない。

 そうこうしてるうちに、徐々に錆が取れ始めた。

 錆で固着してそうだった蝶番(ちょうつがい)も、どんどん綺麗になっていく。


「へぇ。凄いわね」

「錆取り業者と比べたなら、わたくしなんてまだまだなのでございます」

「そ、そう」


 私からしたら、十分凄いと思うけど。

 ナームコさんはドアノブを回して錆の取れ具合を確認すると、振り返って「もうよろしいのでございます」と言った。

 錆は取れたらしいけど、鍵までは開いてないようね。

 ドアノブは回るけど、扉が開かないわ。


「それはなんなのでありますか?」

「ドアノブよ。これを回すと扉が開くんだけど……」

「開かないのであります」

「鍵が掛かってるのよ」

「そうなのでありますか」

「私はピッキングなんてできないから、開けられないわ」

「ピッキングでありますか?」

「鍵を使わず、道具で鍵を開けることよ」

「はて。エイル殿は収監箱を開けていたと思ったのでありますが……」


 収監箱?

 ああ、浸食弾を入れていた小箱のことか。

 そんなこともあったわね。

 でもあれは魔法錠。

 これは物理錠だからね。

 全然違うのよ。


「あはははは。あれは……ぐ、偶然よ偶然」

「偶然で開くものではないのであります」

「うるさいわね。細かいことを気にする男はモテないわよ!」

「も、申し訳ないのでありますっ!」


 全く。

 さて、さすがに壊すのは最終手段として。


「ナームコさん、開けられるかしら」

「ああ、鍵でしたら作ったのでございますが、――」


 仕事が早いわね。

 って、鍵を作ったの?


「――暗証番号が分からないのでございます」

「暗証番号?」

「はい。鍵と暗証番号が揃わないと、開かないのでございます」


 なるほど。

 このパネルから入力するのね。

 でも電気が来てないのか。

 当たり前よね。

 5千年も前の施設で、電気が生きてるわけないわ。

 壊すしかないのかな。

 でもロローさんがやらせてくれなさそう。

 そういう監視も兼ねてるのかしら。


『タイムちゃん、どう?』

『あはは、さすがに電気が来てないと、侵入はできないかな』

『そうだよねー。今からじゃ時子さんを連れてくることもできないし』

『んー、時子はマスターを充電できるだけで、発電や給電は無理だよ』

『無理なのかー』


 ここまで来て、詰んだ?

ここからは魔法世界に紛れ込んだ化学世界の建物の話になります

次回は扉を開けます

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