第16話 昨日の敵は今日の友
次の日、私たちは馬車であの場所、勇者の祠へ向かっている。
ニファシーちゃんはアニカさんが居ないことを寂しがっていた。
本人が居なくても、あの御者はなんだかんだと悪態をついてくる。
そんなにアニカさんが憎いのかしら。
才能あるものを妬む気持ち、分からなくもないけど。
アニカさんの現状を知ったら、大喜びするでしょうね。
そして丸1日掛けて、漸く目的の地、勇者の祠へと戻ってきた。
「お疲れ様なのであります」
「ロロー、久しぶりなのよ」
出迎えたのは、前回お世話になった兵長のロローさん。
敬礼もきっちり決まっていて、とても綺麗だ。
「本当に、来たのでありますな」
勿論、私に向けられた言葉ではない。
後ろのナームコさんを睨み付け、それでも感情を抑えて我慢している。
その証拠に、拳に力が入っているのが見える。
「ロロー、これを付けるのよ」
「これはなんでありますか?」
「翻訳機なのよ。これを付けるのよ、ナームコと話せるのよ」
「なんと! まことでありますか」
「信じるのよ、信じないのよ、ロローの好きにするのよ」
「これを中央から持ってくるのが、使命なのでありましたか?」
「違うのよ。これはうちが作ったのよ」
翻訳してるのは、タイムちゃんだけどね。
「エイル殿が……でありますか」
そう言って、ロローさんはイヤホンを付けてくれた。
信用してくれたのかな。
「これでいいでありますか?」
「付け心地はどう? 私の言ってることが分かる?」
「? 分かるのは当たり前なのであります」
「そう、よかった」
「少し話し方が代わったでありますか?」
「っふふふ。気にしないでください。女の秘密です」
「秘密でありますか。了解したのであります」
どうやら、問題なく動作しているようね。
さて、後はナームコさん次第なんだけど……
「えっと……その、その節は迷惑を掛けたのでございます」
「ちょっと! ちゃんと謝るって約束でしょ」
「うるさいのでございます! わたくしたちだって、こちらの世界の所為で大勢死んでいるのでございます! 謝罪しろと仰られるのでございましたら、こいつらが先だと存じるのでございますっ」
「ロローさんたちがやったわけじゃないでしょ。それにその理論なら、私も謝罪しなきゃいけないのかしら?」
「そ、それは……その……」
んもう、素直じゃないわね。
頭では分かっていても、感情が追いつかないのかしら。
無理もないわ。
お兄様がああなられてしまっては。
私だって、目の前で父さんがああなったらどうなるか……
「我が輩たちの世界がとは、どういうことでありますか?」
「それはでございますね……」
ナームコがここぞとばかりに自分たちの世界がどうなったか。
そして何故この世界にやってきたのか。
そういったことを話し始めた。
ロローさんは、ただ黙って全てを聞いていた。
レイモンドさんには話してあるはずなのに、知らなかったみたい。
やはりそういった情報は、中央は公開してないようね。
「ですので、わたくしはその調査の邪魔をするものを、排除していただけなのでございます。おわかり頂けたでございましょうか」
「なるほど。話は分かったのであります」
「亡くなられた方には、お悔やみ申し上げますのでございます。ですが、わたくしは悪いことをしたとは、存じていないのでございます」
「ナームコっ!」
「いえ、分かったのであります。でありましたら、謝罪は不要なのであります。我が輩も、ナームコ殿に謝罪するつもりは無いのであります」
「ロローさん……」
「当然でございますわ。貴方が原因とは存じていないのでございます。ですから、わたくしは引き続き、原因を調査しなければならないのでございます。邪魔をされるようでございましたら、わたくしは全力であなた様を排除するだけなのだと、お心に留めて頂きたいのでございます」
「ナームコ!」
「分かっているのであります。そういうことでありますれば、我が輩もご協力させて頂くのであります」
「ロローさん?!」
「お気になさらず。これも中央からの命令に含まれているのであります」
『タイムちゃん、そんなこと言ったの?』
『ううん、タイムじゃないよ』
『なら、最初からそういう命令が出てたってこと?』
『んー、そういう命令書は見当たらないよ』
『そう』
ならこれはロローさんの独断なのかしら。
「ご協力して頂けるのでございますか? それはとても心強いのでございます。ですか、その対処法がお互いにとっての最善とは限らないのでございます。それでもよろしいのでございましょうか」
「そのときはそのときであります」
和解と言えるかは怪しいけれど、とりあえず丸く収まった……と見ていいのかな。
一応協力もしてくれるらしいけど。
レイモンドさんみたいに、外に付いてきてくれるのかな。
ま、祠の保全が任務だろうから、それは無理かな。
今日のところは用意してくれたテントで休むことにした。
明日になったら、本格的に勇者の祠……いえ、貿易センタービルを探索するわよ。
パーティが3人になりました
あらすじに出てくるキャラは、まだ先ですねw
次回はいよいよ勇者の祠に無断侵入していきます