第15話 宿屋代わり
またここに来ることになるとはね。
「なっ、なんであんたたちがここに居る?!」
入り口から入ると、受付の女の子と話をしている保安員に出くわした。
あんた、それはサボりじゃないの?
「随分とご挨拶なのよ。中央から連絡が入ってるはずなのよ」
勿論、タイムちゃんがでっち上げた連絡だ。
正規のものじゃない。
区別は付かないでしょうけど。
「なに? そうなのか?」
「そんな話は……今、調べます」
受付の子が手際よく調べると、すぐに見つかったようだ。
「ありました」
「見せてみろ」
いくら見たって、本物と区別なんか付かないわよ。
なにしろ、造幣局で偽札を作ったようなものなんだから。
「おかしなところは、無いな」
「文句は無いのよ?」
「う、うむ。分かった。ただ急なことだから、部屋の用意をしていない」
「前に使ってたところでいいのよ」
「あそこは今、立ち入り禁止になっている」
「どうしてなのよ?」
ま、想像は付くけどね。
私たちが使っていたから。
つまりは部屋も毒素で汚染されている可能性があると考えているのでしょう。
案の定、答えづらそうな顔をしているわ。
でも変ね。
外から戻ったときに、中には入らなかったんだけど。
レイモンドさんが居なくなったことで、やったのかしら。
「まあいい。お前たちが使うのなら、すぐに許可が下りるだろう。少し待っていてくれ」
「早くするのよ」
暫くすると、保安部の隊長がやってきた。
レイモンドさんに伸された人だ。
「本当に来ているのか」
「当たり前なのよ。中央からの命令書は読んだのよ?」
「ああ、一応直接連絡して確認も取れた」
そんなこともしたの?
少しは頭が回るようね。
でもあの様子だと、タイムちゃんに軽くあしらわれたみたい。
「予定は今夜1泊だけとあったが、確かか?」
「確かなのよ。明日のよ、ゲートから外に出させてもらうのよ」
「ああ。そのことも書いてあったからな。構わないぞ」
「ご苦労様なのよ。もう下がってもいいのよ」
「くっ……許可のないところには行くなよ」
「分かってるのよ」
所詮宿代わりに利用するだけだ。
それに、この出張所からでなければ、街に張られた結界の外には出られない。
「なぁ、後ろの女は、本当に異世界人なのか?」
「そうなのよ。書いてなかったのよ?」
「書いてあったから聞いたんだ。ったく、本部はなにを考えているんだ」
通り慣れた通路を進み、5番の部屋の前まで来た。
隣にはレイモンドさんが使っていた部屋がある。
私を専属コックにしたいと言っていた。
……ふっ、悪いけど、年下は趣味じゃないの。
扉に張られている立ち入り禁止のテープを剥がす。
そして身分証をかざすと、いつものように扉が開いた。
「今日はここで1泊するわ。明日また移動するわよ」
「ふむ、もしや行き先は、わたくしが入ろうとしていた鉱脈か?」
「鉱脈じゃないわ。貿易センタービルよ」
「貿易センタービルだと?」
「ええ。かつて世界中の品が集まったと言われている場所よ」
彼処になら、必ずあるはず。
「ほう。よく知っているな」
「勇者小説に載ってたのよ」
あの本に書かれていたとおりならば、なんだけどね。
無かったとしても、ナームコが居れば……
「勇者小説……エイルの知識の源と兄様が言ってたな」
「ええ、そうよ。そんなことより、少し手伝ってちょうだい」
「なにをだ?」
「イヤホンがもう一つ必要なの」
「ふむ、なにをすればいい」
「まずは……」
ということで、出張所に来ました
つまり次回は彼処です