第140話 出航!
改めて〝行ってきます〟と言い、みんなで船に乗り込む。
確か席は4人分しか無かったよな。
定員オーバーなのでは?
「3名を新規船員登録しました」
3名?!
時子とアニカとタイムか……あれ?
タイムは何処に行ったんだ?
さっきまで定位置に居たのに。
「ご苦労。それでは、兄様はこちらの船長席で指揮をお願いするのでございます」
「船長席?!」
そういえば登録するときに船長でとか言っていたな。
「そこはエイルでいいだろ」
「なんでうちなのよ」
「エイルが行きたいから行くんだぞ。俺たちはただのお供だ」
「……巻き込んで悪かったのよ」
「そんなこと言っていないだろ。誰もそんな風に思っていないから、安心しろ。だからここはお前の席だ」
なんだなんだ、いつもの強気なお前は何処に行った。
皆の顔色をうかがうように見渡すとか、らしくなさ過ぎる。
「いいのよ?」
「良いも悪いも無い」
「兄様がそう仰るのでございましたら」
「いいんじゃない」
「いいと思います」
「……分かったのよ」
「それでは改めて、兄様はこちらの操縦席へ」
「あいよ」
「トキコ様はこちらのレーダー席へ」
「レーダー?! 時子にできるかな」
「問題ございません」
「うー、不安だわ」
「最後にアニカ様はこちらの通信席へ」
「通信って……誰とですか?」
「未知の存在とでございます」
「えええええ?!」
「皆様、ご安心するのでございます。スズ様が居られる限り、名目だけでただの座席なのでございます。そうだな」
「はい。11260号になんなりとご命令ください」
「鈴……」
「パパ、してほしいことがあったら言ってね」
「あ、ああ……」
「フブキ様は適当なところで寝そべっておられるとよろしいのでございます」
「わ、わう」
「いいのかそれで」
「おい、船内重力の制御は回復してるな」
「はい、通常航行まででしたら問題ありません」
「やはりその程度か。でございますので、問題ございません」
説明をはしょるな。
「なにが問題ないんだ。分からないぞ」
「ももも申し訳ございませんっ。至らぬ愚妹にお仕置きをして頂きたいのでございます」
「いいから説明を先にしろっ」
「ああ、寛大なお心遣い、感謝感激なのでございます」
「もういい、黙っていろっ! 鈴、説明できるか?」
「兄様?!」
「はい。船内の重力制御を行っておりますので、慣性の法則を無視することができます」
「んー、加速Gを感じなくなるってことか?」
「はい。加えて船が逆さまになっても、床を歩くことができます」
「おお、それは凄いな。鈴はちゃんと説明ができて偉いぞ。どっかの誰かさんとは大違いだ」
「ありがとうございます。えへへ」
「くっ、小娘風情が出しゃばりおって」
「ナームコ、鈴を虐めるようなら船から叩き出すぞ」
「さすがはスズ様、的確なご説明でございます」
相変わらずなヤツだ。
「ナームコも床に寝っ転がるっていうなら、俺の席に座るか?」
「兄様の膝の上でございますか?!」
「……やっぱり叩き出すか」
「お心遣いはとても嬉しゅうございますが、わたくしは別室に席がございますのでご安心ございませ」
最初からそう言え……って。
「別室?」
フブキと一緒に寝っ転がるのも悪くなかったんだけどな。
でもナームコが俺と別室に自ら行くとは……
そこまで重要なことなのか。
「わたくしが増設した対人機銃座でございます」
「対人?!」
「この船に対人武装が存在しなかったのでございます」
「そういうことを言っているんじゃなくて」
「必要なのでございます」
「俺たちは人を連れ帰りに行くだけなんだぞ」
「この船の対船武装は大抵の魔物も倒せるのでございます。ですが地形も大きく変わってしまいます」
「どうせもう人の居ない場所なんだから、多少は構わないだろ」
「山1つが多少……と仰るのでございましたら」
「山1つ?!」
「左様でございます」
さすがにそれは多少とは言えないぞ。
しかし人どころか生物が居ないんだよな……
しかし山1つ……うーん。
「でございますので、必要悪なのでございます」
「分かった。それでも使わないに越したことはないんだからな」
「心得ているのでございます」
そう言い残すと、ナームコは階段を上っていった。
銃座ね……ずっとなにかやっていたのは、これなのか。
でもこの船なら魔物からも余裕で逃げられるだろ。
本当に必要なのか?
「よし、忘れ物はないな。エイル、行こうか」
「行くのよ! ……父さん、今迎えに行くのよ。タイムさん、道案内お願いするのよ」
「ラジャー!」
うおっ!
船内スピーカーからタイムの声がするぞ。
そっちに潜り込んでいるのか。
姿が見えないと思ったら……よくやる。
「鈴ちゃん、ルート送るね」
「了解。航路受信しました。自動航行モードに移行します」
「母さん、行ってくるのよ」
モニターにはトレイシーさんが映し出されている。
船が移動し始めると、アッという間に見えなくなった。
「ところでエイル、結界の外へ迎えに行くのはいいが、俺たちは許可証を持っていないぞ。どうするんだ?」
「……毒を食らわば皿までなのよ」
「おい、それはどういう意味だ」
「……」
「おいっ!」
嫌な予感しかしない。
街中を走る船。
当然人々の注目の的だ。
ただでさえ道を走る車両なんてバスや配達の精霊馬車くらいだというのに、水滴形の妙ちくりんなものが浮いて飛んでいれば、振り返らない方がおかしい。
もっとも、振り返った頃には見えなくなっているだろうけど。
しかしそれも一時のこと。
アッという間に駆け抜けて視界から消える。
……信号待ちはどうにもならないけど。
街中を駆け抜け、石道を越え、段々と人気がなくなっていく。
結界が見える頃にはすっかりなにも無い荒れ地となっていた。
前回通ったゲートまでは行き来している跡があったが、ここには轍どころか足跡ひとつない。
ゲートに向かっているわけじゃないのか。
何処から外に行くつもりだ?
家を出てものの10分もしないうちに、結界に辿り着いた。
本当に速いな。
あっという間に結界到着
次回はエイルがやります