第14話 制限は破るためにある
来た道を戻ればいいだけだから、楽だと思うけど……
とりあえず身分証をナームコさんに投げ渡しておこう。
「おい!」
「大丈夫よ。あなたのいう術式は書き換えておいたから」
「なに?」
「出るわよ」
さて、建物からは簡単に出られた。
問題は外の城門。
パッと見た限りだと、ここからは操作できないみたいね。
普通なら途方に暮れるんでしょうけど。
中央の端末にアクセスしてっと。
と思ったのに、携帯型端末を取り出す前に城門が開き始めた。
『さ、帰りましょう。マスターが待ってます』
この子は……
私、要らなくなりそう。
いやいや、まだ教えることは山ほどあるわ。
『残念だけど、まだ家には帰らないわ』
『え?』
『もう少し付き合ってもらうわよ』
『何処へ行くんですか?』
『宝の山よ』
『宝の山?』
「ナームコさん、少し寄り道するけど、いいわよね」
「む? わたくしはさっさと兄様の元に帰りたいぞ」
貴方もなの?!
「兄妹ごっこは後にして。そもそもあなたの方が年上じゃないの?」
「……妹だ」
その設定でずっといくつもりかしら。
「分かった分かった。妹でいいから、付き合ってちょうだい。あなたにも損はないはずよ。モナカくんが泣いて喜ぶかも知れないわ」
「よし、さっさと行くぞ」
現金な子ね。
案外素直で騙されやすいのかも。
ま、モナカくんが喜ぶってのは、多分嘘じゃないと思うけど。
サイドカーに乗って〝早くしろ〟と言わんばかりに手招きされるのは、なんか腹が立つわ。
「どうした。早くしないか」
くっ、モナカくんじゃないけど、ここに捨てていってもいいかしら。
いいえ、我慢よ。
この子にはまだ利用価値がある。
身分証のことで確信したわ。
この子は、必要なパーツよ。
私は絶対に、父さんを連れて帰るんだから。
今夜は試験のときに泊まった宿に1泊することにした。
次の日、バイクを走らせ、最初に向かったのは狩猟協会だ。
「エイル! 久しぶりじゃねぇか」
よりによってランドールなの?
「ベリンダは居ないのよ?」
「ベリンダ……ベリンダね。俺じゃダメか?」
居ないのかしら。
ま、こいつでもいいか。
「バイクのよ、暫く預かってほしいのよ」
「あれをか? 工房に置いときゃいいだろ」
「隠しておきたいのよ」
「隠して? 訳ありか」
「ちょっとのよ」
「後ろの姉ちゃんと関係あんのか?」
「いちいちうるさいのよ。細かいことを気にする男のよ、モテないのよ」
「そ、そうか? そうかもしんねぇな。分かった。裏手を好きに使ってくれ。まだ直し終わってねぇから、誰も入らねぇよ」
まだ直してないの?
でも都合がいいわ。
「ありがとうなのよ」
「なん……だと?!」
「どうしたのよ?」
「いや、エイルに礼を言われる日が来るたぁ思わなかったぞ」
「どういう意味なのよ」
「そのまんまの意味だ」
「心外なのよ」
「がっははははは! 気にするな。分かってると思うが、盗られてもこっちゃ責任取らねぇからな」
「分かってるのよ」
「作業員にゃ言っとく。邪魔にならねぇ場所に置けよ。分かってると思うが、壊れてもこっちゃ責任取らねぇからな」
「分かってるのよ」
「カバーぁ掛けとけよ。分かってると思うが、汚れても――」
「分かってるのよっ!」
「お、おう……」
これだからランドールは嫌なんだ。
もっと簡素に言えないのかしら。
会話を一方的に切り上げ、裏庭へ向かう。
壁や窓ガラスの修繕が、あまり進んでいない。
半分くらいかしら。
地面は相変わらず黒いまま。
樹木は撤去したみたいね。
タイムちゃんが守った場所だけ、やけに草が生い茂っている。
少し不自然なくらいよ。
修繕作業をしている人に話して、置き場所を決めて、置いておく。
サイドカーの収納からカバーを取り出して、掛けた。
私の身分証がなければ、魔導炉が動くことはない。
盗られる心配はないだろう。
「駅に行くわよ」
「ふむ、魔車とかいうのに乗るのか」
「ええ、そうよ」
「大丈夫なのか? わたくしたちは制限されていると思ったが」
彼女の言うとおり、私たちは移動を制限されている。
都市間の移動なんてもってのほか。
解除されるのはかなり先の話でしょう。
普通ならね。
「問題ないわ」
バスに乗って、駅まで移動する。
ナームコは気づいてないのかも知れないけど、バスも規制対象なのよ。
けれど、そんなものはいくらでも誤魔化せる。
バックドアから侵入したタイムちゃんが、中央のシステムに成り代わって受け答えするだけの簡単なお仕事。
誰に気づかれることもない。
とはいえ、システムは誤魔化せても人の目は誤魔化せない。
目立たないようにしないとね。
バスから魔車に乗り換え、4時間ほど揺られると、目的の都市に着いた。
駅から更に十数分歩くと、最初の目的地は目の前だ。
ランドールをもう一度出すことになるとは思わなかった
次回は出張所で一悶着