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第138話 久しぶりのシャバ

 時子に玄関を開けてもらい、中に入る。


「そうなんだ。んー、残念ね」

「後でおにぎりにして持っていってやるさ」

「なんの話?」

「いやだから、昼飯の話だろ」


 やっぱりおにぎりなんかじゃなくて、そのままを食べてほしいもんな。


「違うわよ。あなたの服の話! お姉ちゃんが出てこられるようになるんでしょ」

「ああ、そっちか。それがなんで残念に繋がるんだ?」

「もー。鈴にお姉ちゃんを会わせてやれないからってこと!」

「そういう意味か」


 別に今じゃなきゃ会えなくなるとかじゃないんだけど。

 1秒でも早く会わせてあげたいっていう心遣いかな。


「なら着替えたらもう一度行くか」

「邪魔しちゃ悪いでしょ」

「それもそうか」


 タイミングが悪かったな。

 一応携帯(スマホ)の画面で会ってはいるけど、やっぱり直接会わせたいよな。

 触れ合えるし。


「はい、これに着替えて」

「ああ、ありがとう」


 さて、試着はしなかったけど、サイズは大丈夫かな。


「先に行くね。なにかあれば呼んで」

「分かった」


 っと、危ない危ない。

 時子が居るのに全裸になるところだった。

 さて、まずはパンツだ。

 久しぶりに実体のある服を着られる。

 どれどれ……あれ、このゴム伸びないな。

 紐なのか?

 くっ、はきにくいぞ。

 というか無理だ。入らない。


『タイム、サイズ合ってないぞ』

『ウソ?!』

『ほら、入らない』


 尻に引っかかってそれ以上上げられない。


『おっかしいな。そんなはずは……』

『とりあえずパンツ出して』

『うん……ごめんなさい』

『誰にだって失敗はあるさ』


 幸先悪いな。

 大丈夫なのか?

 やっぱり試着しておいた方がよかったのでは……

 パンツの試着はないだろうけど。

 心配を余所に、パンツ以外は問題なく着ることができた。

 サイズもぴったり。

 考えてみれば、普段から俺の服を用意してくれているんだ。

 サイズを間違えるはずがない。

 ならなんでパンツだけ……

 エイルにでも聞いてみるか。


『――ということなんだ。タイムが間違えるとも思えないし……』

『そっちに行くのよ』

『いや、別にそこまで――』


 〝しなくてもいいぞ〟と言い終わる前に部屋に入ってきやがった。

 ノックも無しに……

 ま、いいけどさ。


「これなのよ?」

「ああ」

「? 変なところはないのよ」

「あれ、ちゃんと伸びるな」


 腰のゴムのところがビヨンビヨン伸び縮みしている。

 もう一度俺がやろうとすると、全く伸びない。

 となると原因はただひとつ。


「また魔力か」

「みたいなのよ。ゴムの伸び縮みのよ、意識したことないのよ」

「あー、とことん相性が悪いな。エイル、ゴムじゃなくて紐で縛るようにできないか?」

「うちがはかせてやるのよ」

()めてくれ!」

「仕方ないのよ。母さんに頼んでおくのよ」

「頼んだ。後でいいからな。今言うと出発前に昼も食べずに急いでやりそうだ」

「ノーパンで行くのよ?」

「はいているよっ!」


 とにかく、パンツ1枚程度なら大した影響は無いみたいだ。

 これでタイムがみんなにも見えるようになる。

 また食卓の上を走り回れるようになる。


「さ、タイム」

『う、うん』


 まだ小さい(3頭身だ)けれど、久しぶりに出てくることができた。

 といっても、俺だけはAR(拡張現実)で見えていたけど。

 エイルは久しぶりなんじゃないか。


「タイムさん! 久しぶりなのよ」

「あはは、お久しぶりです」

「ああっ、触れるのよ、声が普通に聞こえるのよ」

「ちょっ! エイルさん?! やっ、何処触ってるんですかっ!」

「柔らかいのよ。でも映像なのよ。どういう仕組みなのよ」


 あー、初期のエイルに戻っちまったな。


「マスター、助けてください!」

「タイム……ぐっ!」


 親指を立てて、エールを送ってやった。


「ぐっじゃなくて、助けてよぉ!」

「いやなら接触判定無くして抜ければいいじゃないか」

「それはイヤ」


 再び親指を立ててやる。


「だからぐっじゃないってば!」

「そうなったエイルは俺には止められない」

「そんなぁ!」

「プニプニしてるのよ、サラサラなのよ」


 タイム……生きろ!


「さて、お昼お昼っと。いつまでもトレイシーさんを待たせるわけにはいかないからな」

「ちょっ! 置いてかないでー!」


 仕方ないなー。


「エイル、トレイシーさんが用意してくれたご飯が冷めるぞ」

「はっ! モナカ、さっさとするのよ」


 お前が脱線したんだろうが!

 ったく。


「マスター!」


 あ、タイムを掴んだまま行きやがった。

 すまん、やっぱり無理だった。


「タイムさん! もうお身体はいいんですか?」


 トレイシーさん、別に何処も悪くしてませんよ。


「はい、おかげさまで今悪くなるかも知れません」


 なんだそれは。


「エイルさん、離してあげてください」

「……分かったのよ」


 トレイシーさんの言うことなら素直に聞くんだよなー。

 分かっていたけど。


「マスター」

「情けない声を出すな。いつものことだろ」

「そうだけど……」

「どういう意味なのよ」

「そのまんまの意味だ。いいから食べるぞ。すみません、遅くなってしまって」

「大丈夫ですよ。ご飯は逃げませんから。でもそうですか。スズちゃんとナームコさんはやることがあるんですね」

「はい。ですからまたおにぎりを作って持っていきます」


 タイムが参加する久しぶりの食卓。

 前は8人で所狭しと駆け回って騒がしかったけど、今は1人だ。


「んしょ、んしょ。ふぅ」

「無理しなくていいぞ」

「……無理したいんだよ」

「え?」

「なんでもないよ。タイムの体力は無限大だよ!」

「っはは」


 懐かしい光景だ。

 たった数日なのに、何ヶ月も前に感じてしまう。

 ……いつまでこの光景を見ることができるだろうか。

 叶うならば、いつまででも……

シャバの空気が美味い

次回はフブキが騒ぎます

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