第137話 未熟な魔学
船の操縦が、「アレクサ、照明点けて」的な感じになってますw
次回はタイムが復活します
朝、今日こそはフブキの散歩に行くぞ!
と意気込んだものの、またまたエイルに止められてしまった。
「時間がないのよ、邪魔しないのよ」
「時間ってなんだよ。分かるように説明しろ」
「フブキがそう言ったのよ」
「そうか……そうなのか……分からないことだらけだけど、分かった。でも会うくらい――」
「ダメなのよ」
「そんなっ!」
なので、会うことすら禁止らしい。
ただ、ご飯はきちんと食べているというから、少しだけ安心した。
一体なにをしているんだろう。
時間って、なんの時間だろう。
エイルは分かっているんだよな。
なんで教えてくれないんだろう。
朝食を食べた後、必要なものを船に積み込む。
昨日のうちにあらかた終わっていたらしい。
鈴ちゃんに掛かりっきりですっかり忘れていたよ。
「気にしなくていいよ。ボクも久しぶりに身体を動かしてスッキリしたし」
「そうか、ありがとう」
といっても、俺自身の荷物なんて携帯1つだけだ。
服はまだ届いていないからな。
「それと、昨日言いそびれたんだけど、精霊の力が少し戻ったんだ」
「本当か! よかったな」
「うん。でもすぐ消えちゃったけどね。お陰で原因が分かったかも知れないんだ」
「分かったのか!」
「確証はないけど、多分ね」
「なにが原因なんだ?」
「今はまだ言えないよ。不確かなことは言えない原因だから」
「そうか。分かった。手伝えることがあればなんでも言ってくれ。力になってやるから」
「ありがとう。でも……うん、きっとそうはならないよ」
「なんだよ、寂しいこと言うなよ」
「っはは……」
もうすぐ11時になろうかという時間に、荷物が2箱届いた。
1箱ならともかく、2箱も抱えたら前が見えなくなるな。
届いた荷物の整理を時子に任せ、俺はナームコと一緒に船の中に居る。
ナームコが動かし方を教えてくれるらしい。
とはいえ、出発の直前に教えられてもな。
てっきりナームコかエイルが操船するものだとばかり思っていた。
何故か鈴ちゃんもここに居る。
俺の後を付いてきたのではない。
ナームコが付いてくるように言ったからだ。
「わたくしはぶっつけ本番でございました。兄様には十分すぎる時間なのでございます」
そうかなあ。
ナームコの後に続いて階段を降りていく。
ここがコックピットらしい。
ん? なんでこんなところに水槽が?
魚……は居ないな。
「で、どうして鈴まで連れて……あれ? 鈴? 何処に行った?」
さっきまですぐ後ろを付いてきていたはず。
「スズ様でございましたら、御自分の配置に着いたのでございます」
「自分の? まさかっ」
「未登録者を発見。新規登録を行いますか?」
スピーカーから鈴ちゃんの声が聞こえてきた。
「船長として登録しろ」
ナームコが水槽に向かって命令している。
「了解」
また鈴ちゃんの声が聞こえてくる。
水槽をもう一度見てみると、その中に鈴ちゃんが沈んでいた。
「鈴!」
「兄様、スズ様ではございません。今ここに居るのは――」
「パ……パ?」
「なに?!」
「鈴、大丈夫なのか?」
「平気……だよ。鈴、ちゃんと……機能してるよ」
「そんなことを心配しているんじゃない」
「登録、完了しました」
「よし、船長に船のことを教えて差し上げろ」
あんたが教えてくれるんじゃなかったのかよ。
「了解」
「鈴……」
「この船のエネルギー供給と各種制御を行っております、11260号と申します。それでは、船についてお話しさせて頂きます」
11260……つまりそれだけの、それ以上の人間が作られては死んでいったということ。
罪深いな。
鈴ちゃんの話は長くなかった。
しかも話の大半はこの船でできることばかりで、それの使い方や操船の方法といえば、「11260号にご命令ください」……その一言だけだった。
例えば主砲を撃つなら、〝あれを狙って撃て〟でいいらしい。
一応操縦桿やらレーダーやら計器やらといろいろあるにはある。
それで操作したり回りを把握したり船の状態を見たりできる。
引き金を引けば主砲も撃てる。
が、それはあくまで手動でやらなければならないときの話。
もっと言うならば、この水槽に入っているのが鈴ちゃんではない場合だ。
ただの燃料ならば、ここに水槽を設置する必要は無い。
実際、ここに水槽が在るのは、この機体だけらしい。
鈴ちゃん専用機体……とでもいうのか。
一通り説明が終わる頃、トレイシーさんからお昼ができたと連絡があった。
お昼を食べたらいよいよ出発だ。
「兄様、わたくしはスズ様とシャワーを浴びてからお昼にするのでございます」
「どうしてだ?」
「前にも申し上げたように、この液体はこの世界のものにとって猛毒なのでございます。ですので、わたくしが洗い流すのでございます」
「なら俺がやるよ」
「わたくしでなければいけないのでございます」
「それは錬金術が関係しているのか?」
「この世界のもの、それは生物だけではなく物にも当てはまるのでございます。スズ様の魔力とわたくしの術で無害化しなければならないのでございます」
そんな物騒なものを抱えているわけか。
原油タンカーの流出事故どころではすまなさそうだ。
だから最初の日もナームコが一緒にシャワーを浴びたのか。
「そもそもなんでこんな液体に裸で浸からなければならないんだ?」
「存じないのでございます。ですが、推測するに魔学があまり発達しておられないようでございますので、これが彼らの技術で最も効率のよいシステムなのでございましょう」
つまり、もっと魔学が進んでいるならもっと別の方法があったということか。
俺の居た世界から見たら、十分発達しているように感じる。
それでも足りないんだな。
「ナームコならどうにかできるんじゃないか?」
「わたくしたちの世界の技術者ならば可能かと存じるのでございます。ですが、わたくしには不可能なのでございます」
「そっか……連れてくることはできないのか?」
「申し訳ございません」
「いや、無理を言ったな。俺の方が悪かった」
「いえ、全ては兄様のご期待に添えられぬ無能で愚かなわたくしがいけないのでございます。兄様は何一つ間違ったことなど仰られてはいないのでございます」
んー、相変わらずだな。
ご機嫌を取っておかないと連れて帰りにくいってところか。
行かないからな。
「せめて服を着せてやれないのか? 水着とかウェットスーツとかさ」
「先にも申し上げましたように、これが彼らの技術の限界なのでございます」
「限界ね……」
「更に申し上げるならば、実験体にそのような気遣いは――」
「ナームコ!」
「一般的な意見なのでございます。決してわたくしがそのように思っているわけではございません。記録では、スズ様の扱われ方はまだよろしい方なのでございます。中には脳や神経をむき出しにした実験も行われていたのでございます」
「なに……」
「そうだな、娘」
「……はい」
そんなことまでやっていたのか。
本当に〝実験体〟なんだな。
多分口には出して言えないような非人道的なことも……
「パパ、11260号は出発までここで待機しております」
11260号って……いつものように〝鈴〟って言わないんだな。
「おいおい、お昼はどうするんだ?」
「必要ありません。栄養は取れています」
「取れていますって……」
「それに、ソフトウェアのメンテナンスをしていません。出発前までに終わらせないといけませんから」
「分かった。ならわたくしも付き合おう」
「ナームコ?!」
「申し訳ございません。そういうことでございますので……その……おにぎりをご所望してもよろしいでございますか」
それが狙いか!
……いや、違うな。
顔つきがいつもの感じと違う。
デレデレしているのを装っている気がする。
……考えすぎか。
「分かった分かった。出来は期待するなよ」
「どんなシェフの料理よりも、美味しゅうございました」
くっ、例えお世辞と分かっていても……いや、こいつの場合は本気で言っている可能性が高いんだよな。
はあー、頑張りますか。
「…………娘、わたくしが残った理由、理解してるな」
「はい、分かっております」