第134話 トレースしているだけで、他意は無い
「えっと……じ、じゃあ身体を洗おうか」
「うん!」
気を取り直して鈴ちゃんに3人分のタオルを泡立ててもらう。
「はい」
泡だったタオルを受け取って身体を洗う。
本当に泡保ちがいいな。
エイルやアニカに泡立ててもらっても、すぐに消えてしまうのに。
この差はなんだろう。
ナームコが言うように、魔力の質の違いなのかな。
「パパー、背中洗って!」
「ん? いいぞ」
「わぁーい」
改めて見ると、本当に小さな背中だ。
屈んで優しく、優ーしく洗う。
すると、俺の背中にもタオルが当たって洗われ始めた。
「お、ありがとう」
「強くない?」
「なんならもう少し強くてもいいぞ」
「ふふっ、じゃあゴシゴシやっちゃうぞー!」
「おおっ! いいねー」
「鈴も! 鈴もパパの背中洗うー!」
まだ洗っている最中なのに、クルリと向きを変えて訴えてくる。
「おいおい、まだ終わってないぞ。終わってからな」
「うゆ、はぁーい……」
渋々といった感じで背中を向けてくれたのはいいんだけど、「まだ? ……終わった? ……もういい?」と落ち着きがない。
少しはこらえなさい。
「よし、いいぞ」
「パーパ! 背中ー! 早く! こっち向けてー」
「はいよ」
そんなに急かさなくても、俺の背中は逃げないぞ。
くるっと背中を向けると、時子と目が合った。
「ほら、時子も背中を向けな」
「あ……うん……分かった」
時子がくるっと背中を向ける。
普段は髪で覆われているが、今は束ねられていてしっかりと見える。
鈴ちゃんの魔力が濡れた身体をとおしてタオルまで届いているのか、泡立ちが全く衰えない。
アニカと違って本当に魔力操作が上手なんだな。
タオルを背中に当て――
「ひやっ!」
「あ、悪い。強かったか?」
「ううんそんなことないよ大丈夫だからそのまま擦ってください」
「あ、ああ。分かった」
鈴ちゃんが俺の背中を洗い、俺が時子の背中を洗う。
凄い光景だな。
鈴ちゃんが俺の背中を洗うのをなぞるように、時子の背中を洗っていく。
「ごーしごーしごーし」
「ごーしごーしごーし」
時々時子が背中をピクッとさせている。
「くすぐったいのか?」
「んーんだいじょうぶ……な、なんでもないよ」
本当に大丈夫なのか?
脇の下とか脇腹が弱いとかかな。
「ちょ、ど、何処まで洗うの?!」
「え? 鈴が洗ってくれているところと同じところを洗っているだけなんだけど……」
「あ……そ、そうなんだ……だからってお尻まで……」
「え、なに?」
「なんでもない!」
なんだなんだ、気になるじゃないか。
「ふー、終わったぁー!」
「よし、終わりだな。ありがとう」
「あ……りがとう」
「鈴ー」
「はぁーい!」
手桶にお湯を入れてもらい、鈴に掛けてやる。
「行くぞぉー、ザバァーン!」
「きゃはははは!」
「そぉーら、もういっぱい! ドバァーン!」
「きゃはははは!」
ただお湯を掛けているだけなのに、なんか楽しそうだな。
「ほぉーれ、時子にもバシャァー!」
「きゃあ! じ、自分でできるよ」
「遠慮するなって、ダバァー!」
「も、もぉー」
「パァパ! 鈴もやるー!」
「ん? 結構重いぞ。できるかなー?」
「頑張る!」
鈴ちゃんが手桶にお湯を入れているのだが……
そんななみなみと入れて大丈夫か?
「入れすぎじゃないか?」
「うー!」
両手で持とうとすると、それだけで半分くらい溢れたぞ。
しゃがんでいる俺に掛けようと持ち上げると、それだけで殆ど溢れたぞ。
「うやー!」
そして実際に掛けられたお湯は……いや、なにも言うまい。
流そうとしてくれたことが嬉しい。
「たぁー!」
「えぃやー!」
「とぉー!」
うん、まだまだ掛かりそうだ。
端的に言えば、コップに半分くらいお湯を入れて身体の泡を流している感じだ。
幾ら学習能力が高くても、身体は急に育たないからな。
こればっかりはどうにもならない。
それでも何度も繰り返すと、漸く泡を全て流すことができた。
半分くらいは魔力切れで消えたんだと思うけど、気にしたらダメだ。
「よく頑張ったな。偉いぞー」
「うんっ!」
「じゃ、出ようか」
「はぁーい!」
鈴ちゃんがあんなところやこんなところを洗っているならば……
次回は就寝前です