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第130話 したくなる距離

 夕飯を終えて散歩に行こうかと思ったけど、エイルに止められてしまった。


「フブキの邪魔をするんじゃないのよ」

「邪魔?! フブキはなにをしているんだ?」

「知らないのよ」


 おいおい。


「とにかくのよ、散歩は我慢するのよ」

「分かったよ」


 仕方がない。

 フブキの邪魔になるというのなら、我慢一択だ。

 本人に確認を取ったわけじゃないが、フブキの主様が仰るんだ。

 信じるほかないだろう。

 その主様(エイル)はシャワーを浴びたら寝るという。

 やっぱりまだ本調子じゃないんだ。

 なら俺もナームコと鈴ちゃんの3人で入るとするか。


「ママも一緒に入()!」


 ごめんな、鈴ちゃん。

 それは無理なんだ。


「よし、じゃ入ろうか」


 ほら断っ……らないだと?!

 ま、まあ別に俺と一緒に入るんじゃなくて、鈴ちゃんと一緒に入るだけだよな。

 なら俺はアニカと――


「パパー、早く早く!」

「なにしてるの。あなたも入るんでしょ」

「ああ、アニカと入ろうかなーと」

「えーっ?! 鈴と一緒に入ってく()ないの?」

「いやいや、そんなことないぞ。でも……」


 時子をチラッと見る。


「なに、私と入りたくないってこと?」

「は?! いやいや、それは俺の台詞だろ」

「そんなこと言ってないでしょ。一緒に入るの? 入らないの?」

「入る、入ります、入らせて頂きます!」

「うわーい! シャワー! シャワー!」

「でも4人じゃ狭くないか?」

「4人?」

「ほら、携帯(ケータイ)は防水じゃないし、鈴はまだ上手くシャワーを調節できないだろ」

「平気だよ! 鈴、シャワー出せるよ(ゆお)

「出せるって……」

「兄様、スズ様は流し台で練習したのでございます」

「えっ、練習?」

「だから問題はないのでございます」

「そんなことしてたのか」

「うんっ、任せて」


 胸をポンと叩いて誇らしげだ。

 でもどちらかというと可愛い方が勝っている。

 ヤバい、顔がニヤける。


「分かっているな、娘。もし兄様に火傷でもさせてみろ。朝日が拝めると思うな」

「おい! そんなことしたら――」

「はい、分かっております」

「鈴?!」


 さっきの誇らしげな姿からいっぺん、覚悟はできていますって顔つきになった。

 なんか、物騒な話になってきたぞ。


「なあ時子、やっぱり――」

「自分の娘を信じられないの?」

「そんなことないけど」

「大丈夫よ。私たちの娘なんだから、きっとできるわ」


 ……は?!

 今なんて言った?!

 〝私たちの娘〟って言ったか?

 え、マジ?!


『なに驚いた顔してるの。鈴が不安がってるでしょ!』

『いや、だって〝私たちの娘〟って……』

『はぁー、鈴の前なのよ。分かってるの!』

『そうだけど、シャワーまで』

『仕方ないでしょ! 私だって我慢してるんだから、あなたも我慢しなさいよ』

『我慢って……』


 裸になるんだぞ。

 シャワー室は狭いんだぞ。

 しかも3人も入るから窮屈なんだぞ。

 我慢で乗り越えられることなのか?


『極力見ないでよね』

『分かっているよっ!』


 ……極力?

 絶対じゃなくて?

 んんん?!


『けど魔力持ちは鈴ちゃんだけなんだぞ。鈴ちゃんに俺たち2人を洗わせるのか?』

『大丈夫よ。鈴は魔力操作が得意なの。伊達に操船できる技術を持ってないわ。そもそも泡だったところで大した意味は無いでしょ』

『そうなの?!』

『知らなかったの? エイルさんに教えてもらったんだけど……』


 あいつは……そういう重要なことはなにも教えてくれないな。


『だから垢擦りで十分なのよ』


 そういえば、そんな疑問を前に持ったことがあったな。

 あれは正しかったってことか。


「できるって思うわよねっ!」

「あ、はい」


 急に話を戻してきたぞ。

 そんなに睨まないでください。

 鼻と鼻がくっつく勢いで迫られたら、思わずキスしたくなるじゃないかっ。


「も、勿論(もちろん)だぞ」


 時子からなんとか逃げ出し、鈴ちゃんに面と向かう。


「鈴ならできる。だから自信を持て」

「! うんっ」


 よかった。

 笑顔が戻ってきたぞ。

 というか、ナームコが自ら俺と一緒に入ることを放棄したこともビックリだ。

 絶対わたくしも一緒にーって言い出すと思っていた。

 しかしまさか時子と一緒にシャワーを浴びる日がこんなにも早くやってくるとは思ってもいなかったぞ。

 先輩と決着を付けて、お互い合意の上で身体を清め、そしてあんなことやこんなことを……なんて妄想ならしたことはあるけど。

 でも今回はあくまで身体を洗うだけ。

 それ以上でも以下でもないからな。

 分かってるよな、息子。

 大人しくしていろよ。

子は鎹(チガッ

次回はクロスッアウッ

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