第128話 同じ怪我でも個人差がある
雑貨屋に着くと、女3人でいろいろ見て回っている。
俺は少し後ろからノンビリ付いていくだけ。
なにを買っているんだろ。
茶碗に、お皿に、スプーンに、お箸、歯ブラシ、クシ、んー、とにかくいろいろだ。
楽しそうだなー。
ん? アクセサリーも売っているのか。
これは……ヘアピンか。
おおっ、白い子犬がワンポイントで付いているぞ。
可愛いな。
ふーん。
「ありがとうございました」
ふー、なんだかな。
思わず買ってしまった。
なにやっているんだろ。
「なに買ったの?」
「へ?! あ、いや。鈴にどうかなって」
「鈴がなぁに?」
「ふふっ、内緒」
「えー?!」
「パパに聞いてごらん」
「パパー!」
「あー、お家に帰ってからな」
「なら帰るー!」
「まだ買い物が終わってないわよ」
「だってさ。少し我慢してな」
「ぶー、はぁーい」
んー、なんか鈴ちゃんにプレゼントすることになっちまったな。
まあいいか。
これは元々そのつもりだったし。
「はい、これ持ってて」
「え?」
「荷物持ち、したかったんでしょ」
「したいとは言っていない。これは配送してもらわないのか?」
「今日から使うものなのよ」
「あ、そっか」
なるほど、今日から使うものなら配送じゃ間に合わないもんな。
雑貨といってもいろいろある。
結構な量だけど、両手に抱えて前が見えないなんていうほどじゃない。
今のところ手提げ袋に入れて片手で持てる程度の量だ。
右手で持っている所為か、全然重くない。
途中休憩で喫茶店に寄ったりもしたが、日が暮れ始める頃には買い物が終わった。
なにをそんなに買ったんだと思う。
手提げ袋3つ分だぞ。
女の子は小さい頃からいろいろ大変ってことだろうか。
俺の服なんて試着もせずアッという間に終わったからな。
帰りのバスでは、疲れたのか鈴ちゃんは寝てしまった。
乗る前までは元気いっぱいにはしゃいでいたんだけどな。
バス停から家までは、時子が背負って帰った。
ぐっすり眠っている。
余程疲れたんだろう。
「おかえりなさい」
「しー、ただいま」
家に着くと、アニカが出迎えてくれた。
鈴ちゃんが寝ていることに気づくと、ヒソヒソと話し始めた。
「寝てるのかい?」
「ああ、ずっとはしゃぎっぱなしだったからな。エイルは?」
「まだ寝てるよ。ご飯は少しだけど食べた」
「ベッドに寝かせてくるね」
「ああ、頼む」
食堂に入り、持っていた手提げ袋を床に下ろして椅子に座る。
トレイシーさんは台所で夕飯を作り始めたようだ。
トントンと包丁で切る音が聞こえてくる。
「そんなんで魔素が回復するのか?」
「っはは。僕も最初の頃は慣れなかったけど、この身体は回復力だけはかなり高いんだ」
「じゃあ、アニカは相当弱ってたってことか」
「えーと……昨日のエイルさんよりはマシだったよ」
「おいおい、それじゃエイルはかなりヤバいんじゃないのか?」
「どうかな。それこそ個人差だから」
「それで済むのか?」
「多分魔力操作に長けた人なら、僕が負った程度の傷ならかすり傷じゃないかな」
「マジか」
「ボクは……その、精霊全振りだから、さ。ははっ」
しまった。
話がそっちに流れるとは思わなかった。
「そ、そうか」
「実はね、精霊のことなん――」
「別にこの世界は精霊だけじゃないんだからさ、これを機に魔力操作でも習ってみたらどうだ? な?」
「あ……うん、そうだね」
「寝かせてきたわ」
「ありがとう」
床に置いた荷物を時子が持とうとした。
あ、手伝わなきゃ。
「何処に持っていけばいい?」
「やるからいいわ。アニカさんとゆっくりしてて」
椅子から立ち上がって持とうとしたが、やんわりと断られてしまった。
「そうか? 悪いな」
「別にいいわ。どうせ何処に置けばいいか分からないでしょ」
「うっ、否定はしない」
「あはははは」
「笑うな」
くっ、アニカに笑われてしまった。
でも笑えるくらいには元気になったってことか。
時子もすっかり元気を取り戻したみたいだし。
良い傾向じゃないか。
手伝おうとしても、邪魔にされるってたまにあるよね
次回は夕飯です