第127話 持ち歩く必要は無い
ん?
こっちは婦人服か。
この毛皮のコートもオオネズミの毛皮なんだよな。
これ、結構するぞ。
素材の買い取り値って幾らなんだろう。
全部エイルに丸投げだからな。
「なぁに、私の服も選んでくれるの?」
「あ、いや。ほらこれ」
「毛皮のコート?」
「そ。オオネズミの毛皮な」
「あ、あーそうよね。あはははは」
「っははは」
「「……」」
「これを着ろって?」
「言ってない言ってない」
顔が怖いって。
そんなにオオネズミの毛皮はお気に召しませんか。
トレイシーさんも持っているんですけど。
食べることに抵抗はなくなったけど、着ることは抵抗があるのか。
……時子が買った服にも使われていることは黙っていよう。
「でも暖かそうだよな」
「そうね」
「ただほら」
「うわ、こんなにするの?!」
「あらー、お目が高いわね。それはね、とっても上質な毛皮なのよ」
コートを2人で見ていると、店員が話しかけてきた。
あ、間に合ってます。
「そうなんですか?」
「ええ。余程腕のいい人が狩ったのね。焦げや傷が全く無いの。しかも大きいのよー。普通は幾つも幾つも繋ぎ合わせるんだけど、これは半分以下なのよ。なめしムラも無いし。本当に腕がいい人なんだわー」
「そうなんですか」
「そうなのよー。ちょっと前に出回り始めたんだけど、最近は全然出てこないのよー。狩猟協会に聞いても、その人が売りに来てないだけだって言うの」
「直接その人と取引はできないんですか?」
「個人取引はダメなのよ。契約すれば話は別なんだけど、そんなお金は無いからねー。もしかしたら、何処かと契約でもしたのかも知れないわー。で、どうするの?」
「え?」
「買うの? 買わないの?」
「あははは。ちょっと手が出ないですねー」
「あらそう? 残念ねー。ゆっくり見てってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
あれ、そういえば鈴ちゃんは?
あ、トレイシーさんと居る。
お会計しているのか。
「さ、次はあなたの服よ」
そういえばそうだった。
「ここで買うのか?」
「それもいいけど、移動しましょう」
他の店に行くのか。
「そういえば、鈴はあの格好のままなのか?」
「あなたの選んだ服、よっぽど気に入ったのね」
「そうはいっても、あくまで上に羽織るものだけだぞ……ちゃんと下に着させているよな」
「当たり前でしょ! 変な想像しないでよ、エッチ」
「してないよっ」
「むー、喧嘩はダメなのー!」
鈴ちゃんが間に割って入ってきた。
「喧嘩じゃないわよ」
「そうだぞ。こんなの喧嘩のうちに入らないんだぞ」
「そうなの? ふーん?」
「ごめんなさいね。オバアさん、すっかり話し込んじゃって」
「いえ、大丈夫です」
「次はモナカさんの服ですね」
「はい」
「また来るわ!」
「待ってるわ。今度はエイルさんのお子さんを連れてきてね」
「あら、それだと今生の別れになるんじゃないかしら」
トレイシーさん、それは言いすぎなのでは?
「あっはははは。お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」
エイルの子供ね。
俺も想像しにくいな。
「あれ、買ったのって今着てるヤツだけ?」
「違うわよ」
「荷物は?」
「配送を頼んだわ」
なるほど。
なら荷物持ちしなくて済むぞ。
で、次は俺の服だっけ。
何処へ行くのかなーと思ったけど、別段変わった風もないお店だ。
場所も数軒隣だし。
どんな服があるのかなと中に入ってみる。
なるほど。中はさっきのお店と雰囲気が全然違う。
整然と並べられているというよりは、散らかってはいないけど乱雑に並べられているといった感じだ。
清掃もされているらしく、不潔感はない。
照明は全体的に暗めだ。
なんか、凄いところに来たな。
置いてあるものは……ん? 意外と普通だな。
こう、ドクロとかアクセに付けるような感じの服かと思った。
でも街中に着ていくというよりは、山中を歩くような感じ?
ファッションより動きやすさ重視かな。
「ありゃしたー」
ん?
「出るわよ」
「え? 出るって、服は?」
「もう買ったわよ」
「……え、もう?! 試着は?」
「必要無いわ」
「サイズが合わなかったらどうするんだ?」
「お姉ちゃんがあなたのサイズを見誤るわけないでしょ」
それはどういう意味だ。
少し怖いぞ。
でもそうか、タイムも選んでくれたのか。
「似合うかどうかとかさー」
「似合うわよ」
その自信はどこから来るんだ。
「あ、そうだ。お金」
「大丈夫ですよ。そういったものは、ちゃんとエイルさんから頂いてますから」
そうなのか。
食費とか家賃とかは天引きされているのは知っていたけど。
まあトレイシーさんの負担になっていないならいいか。
「ありがとうございます」
「お礼なんていいのよ。元々モナカさんのお金なんですから」
「次行くわよ」
「え、まだあるの?」
「当たり前でしょ。日用品だってあるのよ」
「ああ、雑貨か。あれ、ここも配送を頼んだのか?」
「そうよ。なに、持ちたいの?」
「そうじゃないけど、大荷物を抱えて連れ回されるのが定番かなーと」
「何処の定番よ。車で来てないんだから、配送頼むのは普通でしょ」
そうなのか。
そのお陰で3人して手を繋げるんだけどさ。
「今日中に届くのか?」
「明日の午前中ね」
「おいおいいいのかよ。出発は明日なんだぞ」
「日帰りできるんだから、お昼に出てもいいでしょ」
「エイルには?」
「話してないわ」
はぁー、頭痛いヤツだこれ。
エイル……は寝てるかな。
文句を言う姿が容易に想像できるぞ。
どうなだめようかな。
コミケの戦利品、持ち帰る? 配達頼む?
次回は帰宅します