第125話 可愛いって言うの、禁止!
バスを降りると、そこはもう商店街だ。
八百屋や肉屋に雑貨屋が並んでいる。
勿論、服屋だってある。
スーパーとかデパートとかコンビニなんて無い。
今日の目的は服屋だ。
それも子供服を取り扱っている店。
トレイシーさんの案内で服屋へ向かう。
当然だが鈴ちゃんがはしゃいでいる。
手を繋いでいなかったら、何処に行くのやら。
見るもの全てに興味を持ってしまう。
分かってはいたが、好きにさせてやれないのが辛い。
「ほら鈴、今日は服を買いに来たんだぞ」
「うん!」
返事だけは元気だな。
分かっているけど好奇心が抑えきれないらしい。
いいことなんだけど、頼むから大人しくしてくれ。
これがナームコなら「騒ぐな、娘」とか言いそう。
……言わなきゃダメか?
まあこの程度なら誰にも迷惑は掛かっていないし、いいか。
「さぁ、着きましたよ」
「うわぁ!」
前回来たところとはまた別の店にやってきた。
子供服は多めだけど、専門店ではないようだ。
「あらトレイシー、いらっしゃい」
どうやら店員とトレイシーさんは知り合いみたいだな。
「可愛らしい子を連れてるけど……まさか」
「ふふっ、残念だけど、エイルさんのお子さんじゃないわ」
「あらー、それは残念。じゃあそちらのお嬢さんの?」
「ええ、お2人のお子さんよ」
トレイシーさん、間違っていないけど……間違っていないけど!
「ええっ?! だってそっちの子はエイルさんの」
「どうも違ったみたいなのよ」
トレイシーさん、一体なんの話をしているんですか?!
なんか、2人して世間話に花を添えてしまっているようだ。
「えーと……服を選ぼうか」
「そうね。鈴、どんな服が着たい?」
「んーと、なんでもいい!」
まあ着たことの無い服ばかりだろうからな。
服の名称は知っていても、それがどんな服装かが分からないだろうし。
「それじゃあねー」
さて、俺はなにをしていようかなーっと。
「パパ?」
「なにしてるの? あなたも選ぶのよ」
「え、俺も?!」
「当たり前でしょ。鈴の服なのよ」
「そうだけど……女の子の服なんて分からないぞ」
「あなたが可愛いって思う服なら、なんでもいいのよ」
「そういうものか?」
「あ、でも私に選んだような服は止めてよね」
「分かってるよっ!」
鈴ちゃんには早すぎるって。
いや、時子にも早すぎたけどさ。
仕方ない、ちゃんと見て選ぶかー。
どんな服がいいかな。
今までワンピースみたいな病院服だったから、上下分かれている方がいいだろう。
鈴ちゃんはショートヘアだから、エイルみたいな服を着せると可愛い男の子になっちゃうし。
えーと……
「パパー、見て見て!」
ん?
おお、もう試着したのか。
どれどれ。
白のブラウスに黒のズボンか。
肩口にフリフリが付いていて、ズボンにも幾つも付いているぞ。
「可愛いんじゃないか」
「わぁーい!」
フリフリもいいな。
柔らかそうな素材だとブワッて広がるからな。
そういうのはあるかな……えーと。
「パパー」
ん? もう着替えたのか。
早いな。
今度はおとなしめな感じの色合いだ。
ちょっと大きめのセーターか?
ズボンじゃなくて膝丈のスカートだ。
襟とスカートが同じチェック柄だな。
ベレー帽まで被っているぞ。
「可愛いんじゃないか」
「えへへー」
そうだな。
今は冬だし、セーターで厚着もありだな。
コートとかはどうだろう。
「パパー」
早いって。
そんなにポンポンコーディネイトできるものなのか?
ファッションショーじゃないんだぞ。
今度は紺のワンピースによだれかけ……いや、よだれかけじゃないんだろうけど。
首回りに白い……なんていうんだろう。
修道女みたいな服か?
分かんないけど。
「教会にでも行くのか?」
「どうして?」
「これ、修道女の服なんじゃないの?」
「フォーマルワンピースよっ! もう」
「そうなんだ。まあ可愛いからいいんじゃないか」
「むー……」
でもワンピースも気にせず着させているのか。
なんて考えていると、また〝パパー〟とか呼ばれるんだろうな。
案の定呼ばれてファッションショーが開かれた。
ごめん、選んでいる暇がないよ。
次々と着飾った鈴を見ては可愛いを連呼する。
なにを着せても可愛いなあ。
「もう、真面目に見なさいよ」
「えっ」
突然怒られたんだけど。
十分真面目に見てたからわけが分からない。
「可愛い可愛いって、適当すぎでしょ」
「え? だって可愛いんだから仕方ないじゃないか」
「他に言い方はないの?」
「そう言われても……凄く可愛いとか?」
「ふざけてるの!」
「いやいや、真面目な話だって」
「とにかく、〝可愛い〟禁止ね」
「ええっ?!」
どうしろっていうんだよ。
「〝綺麗だね〟を連呼するのもダメよ」
縛りキツくない?!
〝可愛い〟と〝綺麗〟が禁止されたら、後はなにが残るんだ?
俺は評論家じゃないから言葉巧みに褒めるとかできないぞ。
可愛いものを可愛いと言ってなにが悪いんだ!
次回はモナカがコーディネートします