第120話 ちょっとしたサプライズ
食卓に行くと、椅子がひとつ増えていた。
鈴ちゃんは昨日と同じで時子の席にクッションを置いて座っている。
時子はその右隣に、正確には隣じゃないけど。
アニカと俺と鈴ちゃんでいっぱいだから、右前に座っている。
「エイルさんは寝たんですか?」
「はい」
「そうですか」
「後でなにか摘まむそうです」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ」
いつものように2人にお礼を言い、食べ始める。
鈴ちゃんの食事は、時子が世話を焼いている。
こうやって見ていると、本当に親子かなって思ってしまう。
……昨日の俺と鈴ちゃんも、こんな感じだったのか?
なんか、急に恥ずかしくなってきた。
ん? このスープの具材、いつもと違っていびつじゃないか?
なんか大きさはまちまちだし、皮も少し残ってる。
味自体はいつもどおりだけど……んー?
ん? なんか時子と鈴ちゃんに見られている?
と思ったら、視線を外されてしまった。
ふむ、なんだろう。
「モナカさん、今日のスープはどうですか?」
トレイシーさんがそんなことを聞いてくるなんて珍しいな。
「具がちょっといびつですけど、普段どおり美味しいです」
「卵焼きはどうですか?」
え? まだ食べていないけど。
これか。
あれ?
いつもは綺麗に巻いてあるのに、今日はグチャグチャだぞ。
厚焼き卵じゃなくて、スクランブルエッグ?
いや、巻きを失敗した感じだな。
箸で一口分切って食べてみる。
んー、やっぱり味自体はいつもと変わらない?
食感は……ありゃ?!
あ、卵の殻が入っている。
そういえば今日台所に立っていたのは時子とナームコだっけ。
「ナームコ、卵の殻が入っていたぞ」
「どうしてそれをわたくしに仰るのでございますか?」
「ん? 今日台所に立っていたのは時子とナームコだろ」
「そうでございますが……」
「なら犯人はナームコだろ」
「何故でございますか?」
「え、だって時子はそんなミスしないだろ」
「兄様?!」
「うゆ、ごめんなさい」
「ん? どうした、鈴」
急に鈴ちゃんが謝ってきたぞ。
なにかしちゃったのか?
「卵を割ったのは鈴だからよ」
「え、そうなのか?」
「味付けは私だけど、かき混ぜたり焼いたりしたのは鈴がしたんだよ」
「そうなのか! じゃあスープの野菜を切ったのも?」
「そうよ」
「包丁使わせて、大丈夫なのか?」
「心配しすぎよ。使い方は教えなくても知ってるんだから。後は実践あるのみよ」
そういうものか?
指を切ったりしてなさそうだけど……
なるほど、そういうことなら納得だ。
でも焦げていないし、火加減とかは時子がしたのかな。
スープも切るだけ切って、煮たのは時子かな。
「そっかー、鈴が作ってくれたのかー。美味しいぞー」
「でも、卵の殻が……」
「んー、最初から完璧な物を目指さなくていいんだよ。今できることを精一杯やればいいんだ。卵の殻くらいは愛嬌だ。次にまた頑張ればいいさ」
「次も食べてくれるんですか?」
「当たり前だ。世の中にはもっと酷い物を作って平然と食べさせる子も居るからな。こんな小さな欠片、ただのアクセントにしかならないよ」
「うにゅ、頑張る」
そっか、時子のお手伝いをしてくれていたのか。
そうならそうと言ってくれればよかったのに。
っと、そうだ。
「鈴、ありがとう」
「ふえ?!」
「さっき言ってなかったからな」
「うゆ?」
「昨日教えただろ。ご飯を作ってくれた人にありがとうって。だから鈴にも、ありがとう」
「ふふっ、ありがとうございます」
「ありがとう」
そういえばアニカは仕方がないとして、トレイシーさんも言ってなかったんだよな。
知っていたはずなのに。
もしかして俺を驚かせるためにわざと?
「うゆ……ど、どういたしまして。えへへ」
よしよし、このままスクスク育ってほしいな。
「兄様」
「ん?」
「なにか仰られることはございませんか?」
「んんん?」
なんかあったっけ?
「兄様……」
一体なにを言うべきなのでしょうか
チョットワカンナイヨネー
次回はおにぎりです




