第12話 久しぶりに発声する
よかった。
サイドカー、ちゃんと動いた。
久しぶりに付けたから、壊れてないか心配だったけど。
父さんと鉱石採取に行って以来か。
あのときは荷台が付いてたわね。
荷台に荷物を載せると、私じゃ動かせなくなるから外してきた。
やっぱり父さんは凄い。
「うう、兄様……」
さっきからメソメソシクシクうるさい。
「ナームコ、いい加減にするのよ。うるさいのよ」
「うう。わたくし、兄様とはなればなれにされてしまうのでございましょうか。そんなことは耐えられないのでございます」
「モナカはナームコの兄さんじゃないのよ」
「いいえ、クーヤ兄様なのでございます」
まだその設定で行くつもりなのね。
ダルいわ。
「今はうちしか居ないのよ」
「ならお前も普通に話せ。のよのよ鬱陶しいんだよ」
「む……」
仕方ないじゃない。
文法が難しいんだから。
うーん、どうしようか。
『タイムちゃん、できる?』
『できるけど……イヤホンしてない人の前で、話さないでくださいよ』
『分かってるわ』
んー、久しぶりだからな。
上手く発音できるかしら。
「あーあー、マイクテスマイクテス。ど、どうかな。ちゃんと話せてる?」
「ああ、話せてるぞ。最初から何故そうしない」
「あなたに言われたくないわ」
よかった。
久しぶりだけど、ちゃんと発音できたみたいね。
でも、普段使わないところを使う分、口が疲れそうだわ。
「言っておくが、わたくしはモナカの妹で間違いはない。だから、用が済んだらモナカと共に国へ帰るぞ」
「嘘言わないで。あなたとモナカくんでは、組成が全然違うわ」
「ほう。確かに、私は純粋な元素人ではない。何故分かった?」
「触れば分かるわよ」
1年間、じっくりと触り続けた私を舐めないでほしい。
「触っただけでか?」
「そんなことはどうでもいいでしょ。モナカくんを連れて行くのはダメよ。あの子には時子ちゃんが居るんだから」
「ならば、トキコも連れて帰るまでさ。それならば、文句はあるまい」
「あの子たちには還るべき世界があるわ。勿論、あなたとは別の世界よ」
「なら何故還らずにいる? 還る手段が無いのではないか? ならばわたくしが連れて帰っても問題は無かろう。あの2人にとっては、ここより住みやすいのは確実だぞ」
「それは……そうかも知れないけど」
ここは魔力世界だ。
2人にとって、とても住みにくい理で出来ている。
ナームコさんの世界がどんなところかは分からない。
でもナームコさんは基本元素で組成されている。
なら同じ元素組成の2人は、ここより生きやすいはずだ。
だからといって、連れて行っていい理由にはならないけど。
「お前にわたくしの邪魔をする権利など無い。邪魔をするならば、敵だ」
「ふふっ。私が敵になる前に、中央省があなたを手放すかしら」
「な、なんだと」
「あなたはここの人を殺しているわ。なんらかの罰を受けなければならないでしょ。それは〝お兄様〟も、仰ってたわね」
「おい、〝お兄様〟を持ち出すのは止めろ」
「あなたが先に言ってたのよ。モナカくんは〝お兄様〟なんでしょ」
「止めろ! 言うなっ。そんなの、末代までの恥だっ」
「ふふっ、いいじゃない。別に恥に思う必要は無いわ。とにかく、逃げ出さないでよ」
「分かっている。だが、拘束されるならば、話は別だ」
「別に構わないわよ。私が言われたのは、あなたを中央省に連れて行くことだもの。その後あなたが逃げ出そうが、関係ないわ」
「逃げる先は、兄様の居るお前の家なんだがな」
「止めてっ! 私たちを巻き込まないで」
母さんまで巻き込んじゃうじゃない!
「わたくしが兄様を手放すわけがなかろう」
「本当のお兄様は死んだんでしょ」
「だからだよ」
つまり、お兄様の代わりに連れ帰るということなのね。
それで家族を騙せるのかしら。
騙していいのかしら。
それで世界が回るのなら、私だって連れて帰りたい。
主役はエイルに変わります
モナカたちはお留守番です
次回は中央省に入ります