第115話 異世界人は勇者の末裔である
『それじゃマスター、アップグレードするよ』
『え、今か?!』
『寝てるんだから、丁度いいでしょ』
『話が終わってからでよくないか?』
『他に話がある人は居るの?』
『兄様、船のことで申し上げたいことがあるのでございます』
『ん、なんだ?』
『実は帰ってくるときにエイル様が無理をさせたせいで、破損箇所があるのでございます』
『そうなのか?』
『はあ?! なんの話なのよ』
『エイルさん』
『なんなのよ………………あ、そ、そうだったのよ。忘れてたのよ』
なんだなんだ。
なにか隠しているのか?
タイムまでグルになって隠し事か。
エイルが泥を被ってまで隠したいこと……ね。
ま、追求しないでやるか。
『エイル、なにやってんだよ』
『うるさいのよ。仕方なかったのよ。結界を越えるのよ、無理をさせないと越えられないのよ』
『結界? ああ、都市間の結界か……え?! 大丈夫なのかよ』
『問題ないのよ。今頃中央の人間のよ、必死になって修復作業をしてるのよ』
『それは問題あるっていうんじゃないのか……』
『エイルさん、どういうことですか?』
今回はトレイシーさんに怒らせてばっかりだな。
普段全然怒らない分、余程悪いことをしたんだな感が強い。
『か、母さんには関係ないのよ』
『関係なくありませんっ。人様に迷惑を掛けて、なんですかその態度は』
『う……ごめんなのよ』
『私に謝っても仕方ないでしょ。ちゃんと責任を取りなさい』
『責任なのよ?! ……どうすればいいのよ?』
『ちゃんと謝ってきなさい』
それだけでいいんですか?!
確かに大切なことですけど、結界ってこの世界で生きるために一番重要な物じゃないんですか?
とはいえ、俺が口出しできるような案件でもない。
『うちがやったのよ、バレてないのよ』
『……』
無言の圧力が半端ないな。
『無理をさせたのは事実なのよ。でも結界を壊させたのはナームコなのよ』
『人の所為にするんですか』
『事実なのよ』
『ナームコさん、そうなんですか?』
『わたくしはこの世界の理は存じていないのでございます。障害があれば、排除するのみなのでございます』
あ、こいつ開き直りやがった。
いや、最初からそうだったな。
俺たちも排除されそうになった。
返り討ちにしたけど。
『やっぱりエイルさんが悪いんじゃないですか』
『どうしてそうなるのよ』
『異世界の方に異世界の方と知っていながら教えていない場合は、教えなかった方の責任になるのは、知っていますよね』
トレイシーさんはナームコが異世界人だって知っているのか。
なら俺や時子のことも?
普段からは全然そう見えないんですけど。
区別なく接してくれているってことか。
『それは……のよ』
『……』
勝負あり、か。
エイルはもう言い返せないみたいだし。
『分かったのよ』
白旗を上げたか。
『父さんのよ、連れて帰った後に行くのよ』
あ、そこは譲れないのね。
2人は暫く見つめ合っていたが、トレイシーさんの方が折れた。
ため息を吐き、『分かりました』と言った。
『ところでナームコ、破損箇所は直せないのか?』
『申し訳ございません。構造が分からない物は、無理なのでございます』
『そっか、なら仕方ないな。具体的になにができなくなったんだ?』
『恒星間航行ができなくなったのでございます』
『……なんだって?』
気のせいか?
〝恒星間航行〟とか言わなかったか?
『恒星間航行ができなくなったのでございます』
空耳じゃなかった。
『あの船は、宇宙船なのか』
『今は不可能なのでございます』
『そっか。もう飛べないのか』
『なんとも申し上げられないのでございます』
『直せば飛べるのか?』
『直す方法がございますれば、可能でございましょう』
実質不可能ってことか。
宇宙は憧れるけど、諦めるしかないか。
行ったところで観光ぐらいにしかならない。
『現状、魔導反応炉に問題はございません。主推進器が全損。重力制御装置が影響を受けて出力低下。浮上するくらいしかできないのでございます』
なんか、小説とかSFでしか聞かないような単語が出てきたな。
確か勇者の祠に行っていたんだっけ。
ということは、勇者の遺産?
異世界の船ってことか。
少なくとも前の世界より科学が進んで……いや待てよ。
魔導反応炉ってことは、魔法……か?
『あの船は勇者の遺産だよな』
『違うのよ』
『違うのか! 勇者の祠にあったんじゃないのか?』
『この世界の人間のよ、勇者の祠と勝手に呼んでるだけなのよ。恐らく勇者と関係ないのよ』
『マジか……』
『異世界から来たのよ、確実なのよ』
『そうなのか?』
『勇者も異世界から来たのよ。だからあの遺跡のよ、そう呼んでるだけなのよ。中央が異世界人を保護するのよ、そういった目的もあるのよ』
『そうですね。過去にも異世界人を使って勇者の遺産をどうにかできないかと試した記録があります。どれも失敗してますが』
『なんでタイムがそんなことを知っているんだよ』
『あ……えっと、その。ち、中央省で仲良くなったA.I.に教えてもらいました』
いつの間にそんな人と知り合ったんだ。
ナームコを連れて行ったときだろうけど、機密みたいなことを教えてくれるって……
いくら仲良くなったとしても、教えたらダメなんじゃないか?
うーん。
『ホントだよ!』
『なにも言っていないが?』
『あう……』
うん、絶対なにかあるぞ。
なんにしても、勇者と関係あろうがなかろうが、鈴ちゃんの居た世界の船なんだよな。
そんなものを理解できるって、ナームコは意外と凄いのか?
『もうないかな。明日はオフにしよう。俺と時子と鈴とトレイシーさんは買い物。他のみんなも自由にしていいぞ』
『わたくしも兄様に付いていきとうございます』
『済まないが、明日は遠慮してくれ。大人数だとお店にも迷惑が掛かるからな。鈴ちゃんがどう動くかも分からないし』
『うう、分かったのでございます。シクシク……』
『そういうことだから、アニカも我慢してくれ』
『……』
『アニカ?』
『分かってたけど……』
『ごめんな。さ、もう寝よう。おやすみ』
『『『おやすみなさい』』』
『おやすみなのよ』
『おやすみなのでございます』
そして俺は[確定]を押した。
長い長い1日が漸く終わりました
次回は鈴ちゃんがやらかします