第114話 効率アップ
『みんなごめん、遅くなった』
『ああ、兄様っ、わたくしも――』
『却下だ!』
『まだ肝心なことを申し上げていないのでございます』
『言わなくても分かるわっ!』
『ああ、今度こそ以心伝心の仲になったのでございますね』
『寝言は寝て……言っているから寝言で正しいのか』
『起きているのでございます!』
『漫才は終わったのよ?』
『夫婦漫才ないのでございます』
『いいから話を始めるぞ。まず最初に……鈴ちゃんには船に乗ってもらう。そして動かしてもらう』
『モナカ?!』
『本人も望んでいる。エイルだって船での移動を前提にしていたんだろ。日帰りできるのならそれに超したことはない。反対の者は居るか?』
トレイシーさんがなにか言うかと思ったけど、なにも言わなかった。
口出しはしないってことか?
それとも単純になにを言っているのか理解していないだけかな。
その辺はエイルに任せておこう。
『次、明日は鈴ちゃんの身の回りの品を買いに行く』
『そんな暇はないのよ』
『日帰りでいけるんだから、出発が1日くらいズレてもいいだろ。それに、お前はトレイシーさんを嘘つきにするつもりか?』
『それは……のよ』
『文句は無いようだな』
『ついでにモナカの服も買うからね』
『え、俺の服?』
『それを出さなければ、お姉ちゃんが出てこれるんじゃないの?』
なるほど。
それは一理あるな。
一応鎧代わりではあるんだけど、普段は必要無い。
うん、いいかも知れない。
『どうなんだ?』
『小っちゃい姿なら』
『よし、なら買ってこよう。トレイシーさん、お付き合いお願いします』
『言い出したのはオバさんですもの。こちらこそ、お願いします』
出発は1日延びたけど、鈴ちゃんにはちゃんとした服を着てほしいからな。
作業着もどきは正直可愛くない。
『他には?』
『マスター、そろそろCPUをアップグレードしようよ』
『え? でも全然お金が貯まってないぞ。それに前回数十万掛かったんだろ。更にってなれば、100万超えてくるんじゃないか?』
『お金の心配のよ、しなくていいのよ』
『普通するだろ』
『ボーナスで十分足りるのよ』
『ボーナス?』
『特別手当のことなのよ』
『そのくらいは知ってる。なんのボーナスだよ』
『1年分の賞与のよ、中央からふんだくった結界外のよ、危険手当なのよ』
なるほど……
それで100万とかになるのか。
会社で働いたことがないから、どのくらいもらえるのか分からないけど、このくらいが普通なのか。
それとも危険手当が高かったのかな。
とはいえ、アップグレードしても強くなるのはタイムで、俺じゃないんだよな。
……ん?
『待て待て。アップグレードするってことは、消費電力も増えるんだろ。大丈夫なのかよ』
『それなんだけどね。マスター、鈴ちゃんの手を左手で触ってみてほしいの』
『左手で?』
左手だと凄く窮屈なんだよな。
触れなくもないけど、起こさないように気をつけないとな。
「んー、パパぁ」
……寝言か。
危ない危ない。
『足とかじゃダメか?』
足ならすぐ横にあるから、簡単に触れるんだけど。
『マスターは鈴ちゃんのズボンに手を突っ込むつもりなの?』
『ごめんなさい。もう言いません』
だから手なのか。
うう、くそっ。
よし、窮屈だけど、なんとか触ることができた。
『これでいいか?』
『……やっぱりそうだ』
『なにがだ?』
『マスターは時子と触れ合わないと充電できないの』
『それはみんなが知っているって』
今更言うことかよ。
トレイシーさんはなんのことか分からないだろうけど。
『食事だけじゃ足りないくらいに依存度が高いんだよ』
『そうなのか?』
『そうなの。結界の外に行く前までなら、大した問題じゃなかったの。でも今は平穏な日常生活を送るのがやっとなの。だから本当ならエイルさんに付いてくなんて自殺行為なんだよ』
『本当なら?』
『うん。今鈴ちゃんと触れ合ってるよね』
『触れ合っているというか、かろうじて触っている程度だけどな』
寄り添って寝ているけれど、直接肌が触れ合っているのは指先だけだ。
『……まさか』
『違うよ。鈴ちゃんはマスターを充電できないよ』
なんだよ、思わせぶりな言い方しやがって。
『シャワー室で確認したから、それは間違いないよ。でも、充電はできないけど効率を上げることはできるみたい』
『ん? どういうことだ?』
『今時子の充電能力が落ちてるの。でも間に鈴ちゃんを挟むことで、それを補ってる感じかな』
『補っている?』
『だから鈴ちゃんを挟んで3人で手を繋げば、なんとかなりそうなの』
『つまり今後は3人で手を繋げと?』
『そういうことになるね』
『なら寝る場所交換する?』
それはつまり、今後も一緒に寝ることを承諾してくれたと取っていいのか?
間に鈴ちゃんを挟んでいるからイヤではないってことか。
それとも本当に……
考えても答えは出ない。
一緒に寝ることを嫌がっていなかった。
むしろ自分から言ってきたくらいだ。
素直に俺のことを考えてくれていることを喜ぼう。
『いや、鈴ちゃんを起こしそうだし。明日からはそうしよう』
『分かった』
アップグレードをする理由もきちんとありますが、作中でそれを説明するかは不明です
次回で漸く今日が終わります