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第112話 鶴の恩返し?

 鈴ちゃんはベッドに座り、タイムとお話ししている。

 なんか楽しそうだな。


『みんな、鈴ちゃんが寝たら今後のことで話がある。もう少し待っててくれ』

『分かったのよ』

『いつまでもお待ちしているのでございます』

『オバさんもいいのかしら』

『はい、是非聞いてください』

『分かりました』

『……』

『アニカ?』

『やっぱりボクとは寝てくれないんだね』

『ごめんな。鈴ちゃんが俺と寝たくないって言い出すまで、我慢してくれ』

『それって何年も先だよね』


 何年もってことは無いと思うけど。

 精神的に成長すれば、すぐだと思うぞ。

 なんて気休めは言えないか。


『かも知れないし、すぐかも知れない』


 としか言えないな。

 ん? 時子からの返事がないぞ。

 と思ったけど、今シャワーを浴びてて携帯(ケータイ)を持っていないから話せないんだっけ。

 俺と違って携帯(ケータイ)と融合したわけじゃない。

 それに防水携帯(ケータイ)でもないし。

 ま、時子なら……今の時子なら、聞かなくても大丈夫だよな。


 着替えを終え、鈴ちゃんの隣に座る。

 携帯(スマホ)を覗き込むと、タイムが絵本を読み聞かせているようだ。

 これは……ツルの恩返しかな。


「あ、マスター、与平さんの台詞を読んでー」


 与平?

 ああ、ツルを助けた若者のことか。

 ……こいつにすら名前があるんだな。


「しょうがないなー。で、どこまで読んだんだ?」

「ここだよ」


 ふむ、ツルを助けて家に帰ったところか。

 まだまだ序盤だな。


「さー鈴ちゃん、このお空から降ってる白くて丸いのはなにかなー?」

「えーと、んーと、綿埃?」


 綿埃が1面に降り積もっているとか、やな景色だな。


「これは、雪だよ」

「えー?! 雪は丸くないよー。六角形の結晶なんだよ」


 確かにそうだけど。

 さて、タイムはどう切り返すんだ?


「凄いねー。雪の形を知ってるんだ」

「えっへん!」

「それじゃ、描いてみようか」


 え、描かせるのかよ。

 タイムが画面隅に引っ込むと、真っ白なキャンバスが現れた。

 そっか。

 エイルと違って、携帯(スマホ)をいじれるのか。

 魔力も持っているし……いいな。


「え……えっと……んーと……」


 ありゃ、固まっちゃった。


「分かんない」

「じゃあ、六角形は描けるかな?」

「描けるー! グリグリグリ……できた!」


 どれどれ?

 おー、かなりいびつだけど、描けているじゃないか。


「上手だねー。じゃあ、それが雪の形なのかな?」

「んー、多分!」


 多分なのか。

 雪が六角形なのは知っていても、実際に結晶は見たことがないってことか。

 ま、俺も図鑑とかでしか見たことないけどね。


「ほら、これが雪の結晶だよ」

「ふおおおおお! 綺麗!」

「でしょ」

「でも六角形じゃないよ」


 まー正確にはもっと複雑な形しているけどね。

 大雑把には六角形だ。


「ほら、こうやって補助線を引くと、正六角形でしょ」


 補助線って、相手は中学生かなー?


「本当だ!」


 随分と幼い中学生だな。


「こうやって大雑把に見ることも大切なんだよ」

「わかったー!」

「だから、雪は丸くて白く描かれてるんだよ」

「おー! 凄い!」

「この屋根とか地面の白い塊も、降り積もった雪なんだよ」

「雪! 積もってる! 雪下ろしが大変! 屋根が潰れちゃうよ」


 そんなことも知っているのに、雪は分からなかったんだな。

 本当にいびつな知識だ。

 そうか。

 絵本を通じていろいろ教えているんだ。

 絵本なら挿絵が描いてある。

 言葉も易しい。

 なるほどなー。


「大丈夫だよ」

「どうして?」

「フィクションだからねー」


 おい!


「そっかー」


 納得するんかい!

 賢いのも考え物だな。


「こんな雪の中、この女の人は迷子になったのよ」

「どうして雪の中を歩いてたの?」

「そうしないと、お話しが進まないからねー」


 お前な!


「そっかー」


 納得しないで!

 お願いだから疑問を持ったままでいて!


「だからこの与平さんの家で、雪が無くなるまでお世話になることにしたのよ。〝ごめんください。旅の者です。雪の中道に迷ったので、一晩泊めてもらえませんか〟」


 タイムのヤツ、絵本に書いてあるナレーションや台詞を変えて話しているな。

 ほぼ絵だけ利用している感じだ。

 おっと、与平の台詞か。

 ん? AR(拡張現実)で台詞らしきものが浮いているぞ。

 これを言えと?


「〝これはこれは、難儀なことだな。ささ、早う入って火に当たれ〟」


 んー、これでいいのかな。


「〝ありがとうこざいます〟。そして2人は一晩(とこ)を共にしました」


 一緒に寝るのかよ。

 でも一人暮らしだから、寝床なんて1人分。

 寝床を共にするのは当たり前か。

 今の時代なら〝ソファーで寝る〟とか〝廊下で寝る〟とか言って、寝床を譲ったりするけど。


「……」

「どうした、タイム?」

「なんでもないよ。じゃ、続きを読むね」

「うん!」

「雪は次の日も、また次の日も降り続き、数日が過ぎました。その間、女は炊事、洗濯と、なんでもやりました。そして雪が溶け、春になっても女は出ていきませんでした」

「え、どうして?」

「お腹が大きくなったからだよ」

「ふぉぉぉ! 赤ちゃん!」


 あれ、そんな話だったっけ。

 てか、与平手が早いな。


「……」

「どうした、タイム?」

「なんでもないよ。女は元気な子を沢山産み、2人は幸せに暮らしましたとさ」

「ちょっと待てぃ!」

「マスター、急に大きな声を出さないでよ」

「これが出さずにいられるかっ。これって〝ツルの恩返し〟だよな」

「あー、そうだったかも」

「機織りは何処行ったんだよ」

「こんな山奥の一人暮らしの山小屋に、機織り機なんて無いよ」


 くっ、正論言いやがって。


「さっきフィクションだからとか、お話しが進まないとか言ってなかったか?」

「言ったかも?」


 記憶力ニワトリかよ。


「助けてもらったお礼に機を織るんじゃないのかよ」

「ツルが機織りなんてできるわけないじゃない」


 それを言ったら身も蓋もないぞ。


「だから訪ねてきた女が、ツルの変身した姿なんだろ」

「ツルが人に化けられるわけないじゃない。狐や狸じゃあるまいし」


 狐や狸も化けねぇよ。


「じゃあこの女は誰なんだよ」

「ツルを助けてた与平を端から見ていた迷子の旅人だよ」

「はあ?!」


 何処から出てきた!


「ツルを助けるほど優しくて裕福なら、嫁ぐのに都合がよかったんだよ」


 腹ん中真っ黒じゃないか!


「ツルを助けると優しいのは分かるが、どうして裕福なんだ?」

「折角の食料を逃がすんだよ。裕福なはずでしょ」


 そういう見方もあるのか。


「ていうか、嫁ぐ?」

「女の1人旅なんて、婿捜し以外にないでしょ」


 凄い偏見だな。

 それとも時代的にはそうなのか?

 昔話だし。


「だから床を共にした(既成事実を作った)んだよ」


 え………………そういう意味だったのかー。

 そんなこと鈴ちゃんに教えるなっ!


「タイトルは〝ツルの恩返し〟だよな。助けたツルは何処に行ったんだ?」

「渡り鳥だから……シベリアとか?」


 おい!


「恩返しは何処に行ったんだ?」

「え? あー………………迷子?」


 一番重要なところ行方不明かよ。


「もうツル関係なくない?」

「そんなことないよ。ツルを助けたから、お嫁さんができたんだから」


 ごもっとも。

 いや、そんな腹黒嫁は要らねぇー。

こんな鶴の恩返しはどうでしょうか

次回は正しい鶴の恩返しです

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