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第111話 時子の姉だから

 階段を上って玄関前に着いたので開けてもらおうとしたら、トレイシーさんに頼む前にスッと開いた。


「パパ!」


 どうやら鈴ちゃんが開けてくれたらしい。

 扉を開けて駆け寄り、抱き付いてきた。


「ただいま」

「お帰りなさい、パパ」


 そういえば、鈴ちゃんは裸足だったな。

 明日服を買いに行くんだっけ。

 靴も買ってあげなきゃ。


「あのねあのね、ママが御本読んでくれたの。それでね……」


 絵本は短いものが多いからな。

 いろいろ読んでもらったらしい。

 でも〝賢い〟というのは、本当かも知れない。

 記憶力がいい……の方が正しいかな。

 読んでもらった本の内容を全部覚えているっぽい。

 1回読んでもらっただけなのにな。


「今日はもう遅いから、寝ようか」


 時間的にはまだ早いけど、子供には十分遅い時間だ。

 寝かしつけた後、エイルと話さなきゃ。


「えー、まだお話聞きたい」

「また明日な」

「ぶー。じゃ、パパも一緒に寝よ!」


 やっぱりそうなるよな。


「分かった。一緒に寝ような」

「わーい!」


 こういうところは子供っぽいんだよ。

 甘えてくるところも可愛い。

 なのに地雷を踏むと途端にかたくなになる。

 甘えることができるんだから、こういうときも甘えてほしい。

 寝室に入ると、ベッドに時子が座って待っていた。


「お帰りなさい」

「ただいま」


 よかった、普通に話しかけてくれたぞ。

 中に入ると、いつもどおり扉を携帯(ケータイ)で閉めてくれた。

 ……さっきの話も聞いていたのかな。


「ママー」


 今度は時子に駆け寄って飛びついた。


「ママも一緒に寝よ!」


 あ、いや。

 さすがにそれは……


「いいわよ。寝ましょ」


 え、いいんだ。

 え、つまり3人で寝るってことだよな。

 え、本当にいいの?


「それじゃ、お着替えしましょうねー」

「お着替え?」

「そうよ。今着てるのは、部屋着なの。だから、寝るときに着る服に着替えるのよ」

「そうなんだ!」

「はい、お着替えできるかなー?」

「鈴、頑張る!」


 あれ?!

 着替えさせてあげるんじゃなくて、自分で着替えるのか。

 2人が部屋に入るのを見守った。

 着替え終わるのを廊下で待つことにしよう。


「ほら、パパもさっさと入って」

「パ、パパ?!」

「そうよ」


 え? え?! どういうことだ?

 さっきは〝モナカ〟で、今度は〝パパ〟かよ。

 どうしたっていうんだ。

 急すぎるだろ。

 あ、でもあれか。

 ママゴトみたいなものか。

 ということは、俺がパパ役で時子がママ役?

 つまりただのロールプレイ。

 深い意味は無い……んだよな。

 とにかく、中に入ろう。

 トレイシーさんが用意していたのだろう。

 鈴ちゃんの寝間着がある……のだけど。

 やはりエイルのお下がりなんだろうな。

 それにしては普通に女の子っぽい?

 そういえば、今の寝間着もわりかし女の子っぽかったな。

 ただ、部屋着のまま寝たり、時にはシャワー上がりのままの格好で(つまりは全裸なんだけど)寝てたなんてこともある。

 寝間着にはあまりこだわりが無いのかも知れない。

 そこに目を付けて、ここぞとばかりに女の子っぽい服を着せていたのかも。

 でもこの部屋、エイルの部屋と違ってウォークインクローゼットとか仕切りとか無いぞ。

 どうするつもりだ。


「それじゃ、ママはシャワー入ってくるからねー」

「はぁい!」


 あ、ああ、そういうことか。

 時子が部屋を出て行くと、鈴ちゃんは着替えを始めた。

 てっきり〝パパー〟とか言って甘えてくるかと思ったのに。

 ヤバい、少し寂しがっている自分が居るぞ。

 とにかく、俺も着替えておくか。

 いつものようにタイムに服を出してもらい――


「凄い! 今何処から出したの?」

「ん? ああ、これは……えーと」


 なんて説明すればいいんだ?

 今タイムは俺にしか見えないし。

 諸々説明するのも大変だ。


『マスター、携帯(スマホ)を鈴ちゃんに渡して』

携帯(スマホ)を?』


 胸ポケットから携帯(スマホ)を取り出して鈴に渡す。


「鈴、ほら」

「うにゅ? なにこれ」

「これは携帯(スマホ)だぞ」

携帯(スマホ)? 携帯(スマホ)! スマートフォン!」

「お、よく知っているな。えらいえらい」

「えへへー」

「鈴ちゃん、初めまして。タイムは、タイム・RATS(ラット)っていいます。よろしくね」


 携帯(スマホ)の画面にタイムが現れた。

 いつものスカートをつまみ上げるポーズで自己紹介をしている。

 声は携帯(スマホ)のスピーカーから出しているようだ。


「うわ! タイムちゃん? お父さんとお母さんと(おんな)じ?」


 〝お父さんとお母さん〟?

 〝(おんな)じ〟ってなんだ?

 〝パパとママ〟じゃなくて?


「ママ……じゃないの?」

「タイムはママのお姉さんだよ」

「お姉さん!」

『マスター、後はタイムに任せて』

『ああ、分かった』


 それじゃ着替えるか。


「ねーねータイム伯母さん!」

「ぶっ!」

「なに笑ってるんですかっ!」

「いや、だってお前……ぷふっ伯母……っははは!」

「仕方ないでしょ! 時子のお姉さんなんだから」

「そうだよな、タイム伯母さん」

「マスター!」


 っははははは!

 あれだ。

 ナームコと一緒だ。

 ナームコは俺の妹だからだし、タイムは時子の姉だからだ。

 ちゃんと関係性を理解しているんだ。

 賢いなー。


「鈴、変なこと言っちゃった?」

「いや、言ってないぞ。鈴は賢いなって話してたんだよ」

「鈴、賢い?」

「ああ、賢いぞー」

「えへへー」

「……親馬鹿」

「ん、なんか言ったか?」

「なんにも! ぶーっ」

「ねーねーねータイム伯母さん! 〝マスター〟ってなに?」

「〝マスター〟はね、マスターのことだよ」

「うー?」


 ま、そうなるよな。

 タイムが俺のことをマスター以外の呼び方で呼んだのを聞いたことがないからな。


「ああ、タイム伯母さんはな、パパのことをマスターとしか呼べない呪いに掛かっているんだ」

「呪い!」

「ちょ、変なこと教えないでよー」

「事実だろ」

「そうだけどー、そうじゃないよぉ」

「パパはマスターなの?」

「ああ、そうだぞ」

「もう、いいからマスターはさっさと着替えなさい!」

「っはは、はいはい」

「〝はい〟は1回!」

「はぁーい」

「もう……鈴ちゃん、いいですか。そもそもタイムは……」


 なにか語り出したぞ。

 まあいい、さっさと着替えるとするか。

はいはい、男のお着替えなんてカットカットー

次回は鶴の恩返しです

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