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第104話 順応能力

「ベッドに寝かせてきますね」


 起きないように、そーっと抱えて……

 食卓を出て寝室に向かう。

 いつも通り、時子は扉を開けたままにしていてくれている。

 中に入ると、これもいつも通り、部屋の隅で体育座りになり毛布を被っている。

 なのでベッドは使われていない。

 掛け布団をめくって鈴ちゃんを横たわらせる。

 寝顔は穏やかで、とても可愛らしい。


「パパ……」


 起きたか? と思ったが、寝言のようだ。

 俺のことをパパと呼ぶけれど、似ているとは思えないけどな。

 当然、時子とも似ているとも思えない。

 それでも俺をパパと呼ぶ。

 時子をママかも知れないと思っている。

 本当にそうだったらいいな。

 いやいや、なにを考えているんだ。

 もしそうだとしても、先輩がパパでなければおかしい。

 時子が大変な時に、何処でなにをしているんだ。

 早く現れてくれ。

 俺じゃ時子に笑顔を……いや、それこそなにを考えているんだ。

 掛け布団を掛け、部屋を出て行く。

 いつもなら入った時点で扉が閉まるんだけど、今日は開けっぱなしだった。

 もう寝てるのか?

 と思ったが、廊下に出る時チラッと見たら目が合った。

 直ぐに逸らされてしまったけど。

 もしかして、話だけは聞いていたのかな。

 いや、タイムが携帯(ケータイ)を通じて無理矢理聞かせていたのかも知れない。

 俺と時子は携帯が翻訳してくれるから、イヤホン(翻訳機)をしていないからな。


 食堂に戻り、残りのご飯を食べる。

 食べながら、鈴ちゃんが食べた時のリアクションを思い浮かべる。

 生まれて初めての食事。

 離乳食じゃなくてよかったのかな。

 今まで薬ばっかりだったんだ。

 これからは色々なものを食べてもらいたい。

 トレイシーさん頼りなのが心苦しいけど。


「兄様、お食事中申し訳ないのでございますが、宜しいでございますか?」

「ん、なんだ?」

「あの娘についてでございます」

「鈴ちゃんのことか?」

「あの娘は、勇者の(ほこら)に居たのでございます」


 そういえば5千年前の人間とか言ってたっけ。

 病院とか施設とかではなく、遺跡かよ。


「なんでそんなところに居たんだ?」

「それはでございますね……」


 なるほど、そういうことか。

 これで確実に俺の娘でないことが確定した。

 当然、時子も先輩も関係ない。

 単純に他人のそら似だ。


「つまり鈴ちゃんは天涯孤独ってことか」

「そういうことになるのでございます」

「エイルはエイルで情が移ってしまったと」

「否定はしないのよ」


 素直に認めろよ。

 とはいえ、俺も人のことは言えないか。

 今更鈴ちゃんを中央に預けるとかは、無理だ。

 でもデイビーさんの言うように、教育だって重要だ。

 俺たちで十分な教育ができるか、不明だ。


「なあエイル、あの乗り物はどうするんだ?」

「アレに乗ってのよ、父さんを迎えに行くのよ」

「でも動力は鈴ちゃんなんだろ。乗せるつもりはないって言っていたよな。それについては同意見だが、そうなると動かせないんじゃないのか?」

「ナームコが動かせるのよ」

「ナーム叔母さんが?!」

「この場でその呼び方は()めろっ」

「あ、悪い。つい」


 そういえば鈴ちゃんは居ないんだった。


「〝つい〟ではないのでございます。それとエイル様、わたくしには不可能なのでございます」

「嘘を言わないのよ。動かしてたのよ」

「それは否定致さないのでございます。でございますが、継続的に動かすことは不可能なのでございます」

「どういうことなのよ」

「エイル様、最初に勇者の(ほこら)から船が出てきた時のことを覚えてらっしゃるのでございますか?」

「……気絶してて覚えてないのよ」

「そうでございました。失礼致したのでございます。あのとき、わたくしは魔力の殆どを錬金して、結晶化したのでございます。それを水槽に投入し、動かしたのでございます」

「なら、またそうすればいいのよ」

「わたくしやエイル様の魔力が直接使えるのでございましたら、それも可能でございましょう。でございますが、前にも申し上げましたように、船の動力たり得る魔力と、私たちの魔力の質というものが違うのでございます。その違いを変換し、使えるようにした結晶で動かせたのは、ものの数分なのでございます」

「また作ればいいのよ」

「わたくしに死ねと仰られるのでございますか?」

「死ぬ気で頑張るのよ」

「エイル、落ち着け。いくらなんでも死なれたら死体の処理に困るだろ」

「兄様?!」

「でもその話はおかしくないか?」

「ううっ、なにがでございますか?」

「魔力の質が違うから動かせないっていうのなら、その逆も同じなんだろ」

「そうでございます」

「ならなんで鈴ちゃんはあんなに泡立てられたんだ?」


 あの泡は誰よりもきめが細かく、保持力も長かった。

 ナームコの言うことが本当なら、それはあり得ないはずだ。


「変換効率が違うのでございます」

「変換効率?」

「最初は泡立たなかったのを覚えていらっしゃられるのでございますか?」

「ああ、そういえばそうだったな」

「そして次第に泡立つようになっていったのでございます」

「……そうだな」

「あの娘の恐ろしいところは、環境への順応速度にあるのでございます」


 確かに。

 最初は息を荒げるほど大変だったのに、その後はごく普通だった。

 そんなこと、気にもしていなかった。


「ナームコはどうなんだ? この世界の魔力との親和性は?」

「うるっ」

「どうした!」


 いきなり泣き出したぞ。


「兄様に心配して頂けるなんて、ひっく、ナームコは果報者なのでございます」

「そんなことでいちいち喜ぶな」

「生活に支障がない程度には親和性が高いのでございます。前にも申しましたように、この世界とわたくしたちの世界は、近しいのでございます」


 そういえばそんなことを言っていたな。

 魔力の質にも関係があるのか。

シャワーで鈴ちゃんが上げていた声は、そういう理由です

決して嬌声ではありませんwww

次回も答え合わせ? つじつま合わせ? ネタばらし? が続きます

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