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続・おしゃべり銀行  作者: すずめのおやど
1/1

千代闘病編

東京都江東区住吉駅そばにある「トークバンク」という喫茶店。ここにはいつも悩めるお客さんが訪れママに話を聞いてもらっている。



  千代ままpart2

「今日は1時間早く病院にいくから、千代びっくりするだろうなぁ」

足音でわかると言われたので守衛さんのところから足音立てずに13階まで行ってみた。千代の部屋に行ってみるとあいにく千代はベッドにいない。椅子に座って待っていると点滴のカートを引きずる音がしたのでカーテンを開けてあげると千代が現れた。

「あー!おかあちゃん。今日はいつもより早いね。」

「千代が喜ぶ顔見れてよかったよ。でもね、面会時間は12時からだから本当はいけないのよ。今日は内緒で1時間早く来たの。浅井先生今日は来てくれた?」

「浅井先生はまだ来ないよ。内緒なんかにしなくても、何時でも面会いいって浅井先生言ってたよ。苦情がでたら先生の名前出して良いって…。」

「ただでさえ毎日12時から夜の8時までいるんだから我儘言えないでしょ。千代の声でかいんだから迷惑よ。」

「あ、そうそう!昨日浅井先生が、点滴を外して飲むお薬に変えてみましょう。それで一度おうちに帰ってみましょう…。って言ってたけどこれっておうちに外泊できるってことかな?」

「えー!やったね!!」


12月から熱が38度から下がらなくなったのだが、千代の会社も年末調整の時期で忙しく有休も取れずにカロナールという解熱剤を飲んで会社に行っていた。


 1月になり近所の医院で診てもらったら

「おかあさん、これはすぐに大きな病院で診てもらった方が良いです。紹介状書きますからすぐに行ってください」

と言われ、秋葉原にある、ホテルのような大きな病院に急いで千代をつれていくと、

「これは帰すわけにはいきません。すぐにクリーンルームで入院になります。急性骨髄性白血病です。」

と診断された。慌てて着替えなどの入院に必要なものを用意して千代はそのまま入院になった。

看護師さんが

「急な入院になったので夕食の用意ができないので、用意お願いします。」

と言って、どうしようか…とまごまごしていたら、隣のベッドの渡辺さんが

「よかったらこれどうぞ。浅草の有名なうなぎです。」

と持ってきてくれたのだが、病名の重さから抜けきれず誰もいただくことができなかった。後になって、千代が

「あん時のうなぎ食べときゃよかった。」

と何度も言っていた。

 結局この病院で1ヶ月程入院したら臍帯血移植するなら、虎ノ門にある病院が良いということになり、転院してきた次第である。


 臍帯血移植は千代とマッチした関西のA型の男の子のを使わせていただくことになった。これからは何かあったら、千代は血液型はA型で男の子ってことになる。

 移植は3月3日に行うことになった。

 千代は足の付け根からカテーテルを入れて、移植までに千代の骨髄は全部殺さなきゃならないので、放射線や抗がん剤などで千代にとっては地獄のような日々だった。

 放射線の時は浅井先生から

「千代さんが放射線受けると子供はできなくなりますが、今のいちに卵巣から採取して冷凍保存しますか?」

と言われたが、これ以上辛い処置させるのは可哀想だと断ることにした。千代さえいればそれでよかった。

「あらぁ千代ちゃん、こんがり日焼けしてナウぃ子になったね」

「笑えねぇし。」

具合悪い中でも千代はちゃんと答えてくれた。


 臍帯血移植当日。高寺先生と浅井先生の2人で解凍された臍帯血を持ってきて処置してもらった。千代がいうには、磯臭いのりの佃煮のような風味だという。この処置が終わったとて、千代の地獄は終わったわけではなかった。吐き気に下痢が加わりトイレにベッドを置きたい位だった。

吐き気止めの点滴もやってもらったのだが、ちっとも効かなかった。


 頭の良い千代は、毎日の血液検査の結果をもらうように看護師さんにたのんで、それをチェックしてファイルしていた。少しでも疑問があると浅井先生をつかまえて納得するまで質問していた。

 千代ままにはよくわからなかったが、毎日の白血球の数が増えるのは楽しみになった。トークバンクのママにも報告して一喜一憂していた。若い千代は髪も生えはじめ、日に日に元気になっていった。そして足のカテーテルも抜くことになった。


「ねぇ、おかあちゃん、私おうちに帰れるってことだよね?」

「そうよ。1泊だけだろうけどおうちに帰れるんよ。」

そこに、ちょうど浅井先生が来て

「おかあさん、千代さんの外泊許可しますので、外泊届の用紙もらって書いて出してください。千代さんよかったですね。」

浅井先生は良いニュースがある時は千代ままのいる時間にわざわざきてくれる。

嫌なニュースの時は高寺先生にまかせてしまうのが多い。

千代ままは受付に行って許可証の用紙をもらって、5月の最初の土曜日1泊と書いて提出した。看護師さんもやってきて、千代を受け入れるのに準備ができているか確認した。

・掃除はきちんとされているか。

・カーテンはきちんとクリーニングされているか。

ざっくりこんな感じだ。

他の家庭では業者に、部屋の掃除からエアコンから掃除してくれるパックをお願いする方が多いみたいだが、千代ままはカーテンだけ業者にたのんでクリーニングしてもらった。

部屋は千代ままが病院に行っている間に千代ぱぱが1人でたんすの裏まできれいに掃除した。いつ千代が帰ってきても大丈夫だ。


 5月の最初の土曜日。朝8時にむかえに行くと千代はもうパジャマから普段着に着替えて待っていた。

「遅いよ!!もう!!」

と千代はふくれて言った。タクシーをひろって家に帰ろうとしたら千代が

「トークバンクに行きたい。」

と言うので店の前でタクシーを降りた。

ママがすぐに出迎えてくれた。

「まぁ、千代ちゃんじゃない!わざわざ来てくれたの?さ、座って。」

「ママのロシアンティーが飲みたくて。いつもお気遣いありがとうございます。」

「何も出来なくてごめんなさいね。痩せちゃったけど元気そうじゃない。」

「はい。まだ吐き気が止まらなくて。

ところで、ママ、優ちゃんから結婚式の招待状もらった?」

「えぇ、招待いただきましたよ?」

「そっかぁ。私こんなだから、不安で保留にしてもらっているの。だけど、優ちゃんも修ちゃんと別れてあんな男と結婚するとはね。」

ロシアンティーを飲みながら千代がいじけたように言った。

「でも大きな会社の御曹司なんでしょ?」

「修ちゃんが可哀想で。」

「人生色々で修一さんもいいお勉強になったことでしょ。」

千代ままが

「千代ちゃん、そろそろ行かないと吐き気するといけないし。」

と言うと

「ママに会えて良かった。退院したらまたきます。」

千代が言った。

「早く元気になってね。食べたいものがあったら遠慮なく言ってね。」

千代ままはママに

「私は毎日きまーす。」

とそっと言った。

店を出ると千代が

「気分がいいからこのまま歩いて帰る。」

と言うので歩いて帰ることにした。

「ねぇ、おかあちゃん!肉のたじまでお肉買ったら焼いてくれる?」

「いいよ。焼いてあげるよ。でも、あんまりお高いお肉はお金が…。」

「お金は私が払うよ。」

たじまに着くと千代ままはコロッケとヒレカツをたのんだ。

千代は財布と相談しながら米沢牛のサーロインをたのんでいた。

「お高いお肉だったから厚くは買えなくて、1センチでいいです。って言ったら、焼肉用ですね?って言われた。全然ステーキ用なんですけど。」

などと話しながら家まで歩いた。家に着くと

「千代ちゃんのためにおとうさんが部屋ピカピカにしたのよ」

と言うと

「おとうちゃん大好き!」

と千代はぱぱに飛びついた。

 もうお昼近くになっていたので、たじまで買ったコロッケとヒレカツでご飯をたべた。千代の買った高いお肉は夕ごはんに焼いてあげることにした。

 夕ごはんでは千代の買った高いお肉をぱぱまま、一口ずつ食べさせてもらった。油ののったおいしいお肉だった。

次の日はごろごろすごし、早めに夕ごはんにした。業務スーパーで買った安いお肉を焼いてあげると

「おいしい!!」

と言って千代は喜んで食べた。

「私安いお肉の方が合ってるらしい。」

と、ぼそっと言った。夕ごはん食べ終わると千代はもう元気がなくなってきた。8時までに病院に帰らなけばならない。真面目な千代パパは7時になると病院に帰る用意を始めた。千代は

「9時頃帰ってくる人いっぱいいるもん。」

と半べそかいていたが7時半に家を出てタクシーをひろった。千代ままはタクシーの中でも口を一文字にしてる千代が可哀想でならなかった。

 病院に着くと千代のような白血病の子のおかあさん達が集まって話をしていた。千代を見つけると

「あら、千代ちゃん昨日お泊まりだったの?何食べてきたの?」

「おかあさんの作った漬け物と、お肉焼いてもらっておいしかったです。」

にっこりして答える千代はもう家への未練はなくなってるようだった。

「明日また来るからね。おやすみ。」

と言うと千代はばいばいと手を振った。

2人は虎ノ門駅から電車で家に向かった。


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