悪逆の片鱗
「バグも不具合も無く順調に稼働してるな」
「そりゃそうですよ。俺達異世界創造会が五年もかけて作ったんですよ?んなバグや不具合なんて早々──」
「【穢れ続ける死者の群れ】が受注されました!?」
「「は??????」」
「それじゃあ話すわね。お父様の国を滅ぼした仇敵メガスタム・グラムについて」
宿屋の一室。一拍置いてフローティアの口から過去が語られ始める
「あれは今から約三十年前の事よ。過去の英雄達の力によって封印されていたメガスタム・グラムが復活したのは。多分封印の力が弱まった隙を見て復活したのだと思うわ。そしてそのままお父様の国に、ヴァンス王国に攻めてきたの」
「お父様とお母様達は最期までメガスタム・グラムと能力によって操られた死者達に抗ったわ。だけど勝てなかった、けれど一矢報いる事はできたの。お父様の魔眼の能力によって最大限に強化された傀儡達によってメガスタム・グラムに致命傷を与えることができたの」
「その傷を癒すため後十年程はヴァンス王国跡に留まると思うわ。だからその間に強くなってあいつを殺すための力を得ようと修行の旅に出たの。その道中でギヌンヘイムの火山側から氷山側に行く途中で運悪くあの亀に追いかけられてバロイルに出会った、と言う訳よ」
過去を語り両親の死を語るその表情と声はとても作り物とは思えない。技術の進歩って凄いな
「なあフローティア、その復讐に俺達も協力していいか?」
「ええ勿論よ。あいつを殺るなら戦力は多い方が良いわ」
ソロモもリアも頷いてるしこれでソーガ達の協力も得られたと言う事か。……ソーガに強装備渡してソロ凸させたら倒してきそうな気はするがそれはクエストっつうかフローティアの意思と違うからなあ
「ソーガ達の協力も得られたし次は拠点確保とフローティアの強化だな。拠点の方は鍛冶師らしく武具でも売って金を貯めて確保しとく。ソーガ達はフローティアの特訓を頼む」
何時までも生産職ギルドの作業場を借り続けるってのもな。幸いにも俺には他の鍛冶師には無いアドバンテージがある。直ぐに金は稼げるだろ
問題はフローティアなんだよな。ソーガの特訓に着いていけるかね……まああいつの初撃を躱せるぐらいに強くなれば少なくともボス戦で死にはしないだろ
「私はお姉ちゃんに着いてくから特訓頑張ってねフローティアちゃん!……本当に頑張ってね、折れないでね」
「え、何その最後の不穏な呟きは!?ちょっと!?ねえ!ちょっと!??」
吸血鬼お嬢様の悲鳴らしき声はスルーして部屋を出る。銀級の適当な武具作って売りますかね。生産職ギルドがある区画は露店が許可されててプレイヤーや一部のNPC達が武具を売ってるしな
てな訳で市場で糸を買った後また作業場を借りてギヌンヘイム産の素材も使って作った装備がこちら
【銀級の片手剣
▷ATK25・STR12・AGI2・斬属性与ダメージ7%UP】×4 内一本はリア用。作って直ぐにリアに渡して先代はインゴットにした
【銀級の魔導杖
▷INT39・氷属性与ダメージ7%UP】×6 内一本はソロモ用
【銀級の大剣
▷ATK30・STR17・斬属性与ダメージ7%UP】
【銀級の弓
▷ATK10・STR10・DEX25・氷属性与ダメージ7%UP】自分用。これ作ったら鍛冶と魔力鍛冶のスキルLvが上がった
スレを見る限りプレイヤーメイドの銀級装備の相場は大体3万G。俺の武器は特殊効果あるし8万Gぐらいで良いだろ
「いやいやお姉ちゃん!それは安すぎだって!最低でも10万は取らないと!」
「そんなにか?つか心読まないでくれよ」
「ボソッと呟いてたよ。それよりも、お姉ちゃんはお姉ちゃんの特異性を全く理解してない!今現在、βでもこの斬属性ダメージUPとか属性ダメージUPとか見つかってないんだよ?つまりこれはとても!とーーーっても貴重な武器なんだよ?だから8万程度じゃ安すぎなの」
そんなもんなのかね。まあβプレイヤーのリアがそう言うなら少しお高めにして
「15万ぐらいで出品してみるか」
「最前線を走ってる人達からすれば安いだろうけど、まあ妥当な感じかな?」
リアのお墨付きも得たところで早速外に出て他の迷惑にならなさそうな場所で露店キットと言うアイテムを使用。簡素な台にイス一つのセットが出現した。後は出品物を選択して、っと。選択し終わるとさっき作った武器達が台の上に並べられる
「後はお客さんを待つだけだね」
イスに座ってリアを膝に乗せて一緒にスレを眺めること約数分で最初の客が来た
「な、なんだこれ!?斬属性与ダメージUP!?しかし15万か……買えないこともないが……値下げとかは?」
何故かにやけ顔で近付いてきた男は武器の性能を見ると表情を一変させて値引き交渉をしてきた。しかし俺からの答えは決まってる
「悪いが値下げは無い」
どうやらこの鎧を纏った男は最前線を走ってるみたいだし値下げする必要も無いだろ。サービス開始数時間で二桁万G稼げるみたいだしこの武器使って今まで以上に稼げ
「そうか。なら15万で買おう!それと君達、俺達のクランに来ないか?素材の優遇とかするから、どうだ?」
クラン?あー、確かプレイヤー同士が集まって作るチームみたいなやつだっけな。公式に情報が載ってたが大して興味無かったから流し読みした程度で詳しいことは覚えてないんだよな。後でリアに聞こう
「まいどあり。それと俺達はどこにも所属するつもりは無いぞ。ああいや、ソーガの奴がそのクランとやらを作るならそれに入っても良いとは思ってる」
クランを作るとしたら多分ソーガだろうしな。あいつ少し目立ちたがりだしソロモはあの性格だから基本前には出ないしな
「はあー、残念だ。だが気が変わったら何時でも連絡してくれ!俺達のクラン【未開領域踏破団】は何時でも君達を歓迎するぞ!──はぁ、あの噂の金天使ちゃんと銀天使ちゃんをスカウトできると思ったんだがな……おのれソーガめ」
おい待て、最後にボソッと呟いた内容を凄く聞きたいんだが!?ああ、もう行っちまってるから聞けないな……
「お姉ちゃんこれ……」
リアがそっと差し出した画面には『美少女掲載スレ』と書かれそこに俺達を盗撮したスクショが載っていた。これは運営に通報コースか?取り敢えず忠告だけしとくか
その後も残りの武器達も数十分も経たない内に売り切った。危惧してた自己中害悪客が来なくて良かった~。ただ武器が売れる度クランの勧誘を受けたからその都度最初と同じような理由で断ってそれでソーガにヘイトが溜まるのはさすがに笑ってしまった。ハーレム野郎は大変だなあ
「武器も完売したしもう昼になるし、一旦落ちるか」
「そうしよう。あ、私パスタ食べたい!」
「はいはい、了解」
露店を片付けて同じ宿屋に行ってその一室でステータス画面からログアウトボタンを押す。約二時間ぐらいしかプレイしてないのにすっごく久々に帰ってきた感じがするな~
少し背伸びをして体を解してから一階に降りて棚からパスタ麺入りの細長い袋と茹でたてパスタ麺にかけるだけの楽々パスタソース(ミートソース味)を二袋取り出す。後は鍋を取り出して水を適当に入れて沸騰したら茹でる
茹で上がったら出来る限り均等に皿に移してそれぞれの皿にパスタソースをドバー。はい完成
「そう言えばさ、クリオンに料理スキルって無いのか?」
パスタを啜りながら何となく気になったことを朱里に訪ねてみる
「あるよ~。と言っても作った料理にバフ効果とかがある訳でも無いし空腹値とかも実装されてないから完全に趣味スキルなんだけどね。それでもスキルLvを上げれば美味しい料理を作れるから女性プレイヤーから結構人気のスキルなんだよ」
「ほー、クリオンでも美味い料理が作れるなら俺も取得してみるかな」
その後もパスタを啜りながら朱里から詳しく聞いてみると取得条件は簡単で街中にいる料理人NPCか料理スキル持ちプレイヤーに教えてもらいながら一品作るだけらしい
「私が取得してそれからお姉ちゃんに教えるね!それならお姉ちゃんの武具を作る時間も売る時間もできるよね!」
「そりゃそうだが、いいのか?」
「いいよいいよ!クリオンでもお姉ちゃんの手料理食べたいし。さ、お皿片付けたらログインしよう!」
食べ終わった皿を手早く片付けて再び二階の寝室に上がってクリオンにログイン
「じゃあ料理スキルを取得してくるね!」
ログイン早々リアは張り切った様子で部屋から飛び出して行った。俺も武具を作るため宿屋を出た
──それが約五分前の話
「おい、聞いているのか!何故俺達のクランに入らないんだ!」
何回同じこと考えたか忘れたがもう一回言おう、何だこいつ……。宿屋出て生産職ギルドに向かってたらこの男、【ヒーリオ】にクランに誘われて断ってもしつこく誘ってきてクッッッソ怠い
どうやら俺が作った武器の特異性を聞き付けてやって来たようだがこうもしつこいと入る気失せるよな、元から入る気なんて無いが
「さっきから言ってるが俺は身内が作ったクラン以外に入るつもりは無い。だからさっさと消えてくれ……」
通行人の怪訝な目も突き刺さってるんだからとっとと帰ればいいのに。ああストレス溜まるなあ。リアをひたすら撫でて解消したいなあ……!
「その身内とやらがクランを作るか分からないだろ!だから俺達のクランに来い!」
「……チッ。いい加減にしろよテメェ。さっきから何回も断ってるだろうが。俺はお前のクランには絶対に入らない!これが答えだ。ほらとっとと消え失せろ」
呆然とした顔の男の横を通り過ぎ──ようとして何故か決闘申請が送られてきた
「勝負だ……俺と勝負して俺が勝ったらクランに入れ!!」
うっわ、激昂しちゃって面倒臭さが倍増してないか?まあこっちもストレス溜まってたんだ……お前で解消してやるよ
「ハッ、俺に負けた後の身の振り方でも考えてな」
YESボタンを押すと半透明なバリアがドーム状に張られカウントが始まる
5
これから行われるのは公開処刑だ
4
世界が違えどディザクロで鍛えたテクニックは衰えてないからな
3
「おい、武器を構えろ」
「お前程度に俺の武器を使う必要があるとでも?」
2
「舐めやがって!」
1
男が持つ大剣の切っ先が俺に向けられる
0
「ハァァァァァッ!!」
カウントが終了し開戦と同時に大剣が突っ込んでくる。狙いは心臓か。しかし──
「遅いなあ」
大剣が約二秒後に当たる距離まで来たら左に避けて何も無い空間を大剣が通り過ぎる。俺に一太刀浴びせたきゃ完璧な不意討ちかソーガ以上の速度と技術で攻撃してこい
そして通り過ぎた的の右肘を俺の左膝と左肘で挟んで叩く
「ぐあっ!?」
腕を切り落とされた訳でもないのに武器落としちゃって。甘いなあ。微笑ましいぐらいに甘いなあ!
「はい、盗った」
的が持ってた大剣が地面に落ちる前にキャッチ。こうして武器強奪をしつつ盗んだ大剣で的の右腕を断ち切る。ついでにもっと恐怖を与えるための準備として蹴り飛ばす
「くっ、この!返せよ俺の武器!」
「喚かなくても直ぐに返してやるよ。ほらっ」
投擲スキルを乗せた大剣が起き上がった的の顔面に、右眼に突き刺さる
「あああああぁぁぁぁああぁぁあ!!!???」
的が悶えてる間に刺さった大剣を引き抜いて回収と同時に的の両足をぶった切る。お、丁度良い感じに仰向けに倒れたな
「ひっ、や、やめ……!俺のま、ま──」
「誰がサレンダーして良いって言ったよ」
的がサレンダーする前に的の腹を踏みつけ呻き声を出させることでサレンダーキャンセル。直ぐ様大剣を顔に向けて垂直に突き刺す。それと同時に俺の勝利を告げる短いファンファーレが鳴り響いて勝利報酬を示す画面が表示される
「おーい、この武器返……あらま、行っちまった」
盗んだままの武器を返そうと復活した的に声をかけたら酷く怯えた様子で逃げ去っていった。じゃあこの大剣は迷惑料として貰っていくか。つっても性能はジェネラルソードより高いが武器種が大剣だから適当な場所で売るけど。今のところ大剣を使う予定は無いし……いや、一つだけあったな。なら売るのは止めて持っとくか
大剣をアイテムボックスに収納して俺を避けるように道を開けたギャラリー達の間を堂々と歩いて目的地に向かう
ディザスター・クロニクルをプレイする新規はまず以下の三つの心得を覚えろ。古参は復唱しろ
心得その一 腕を切り落とされても武器を離すな。離したら二度と戻らないと思え
心得その二 麻痺耐性を上げるか無効を獲得しろ。スタンは知らん
心得その三 ランカーとの戦闘は避けろ。特に『悪逆』との戦闘は絶対に避けろ。俺は忠告したからな!
『新規と古参が読むべきディザクロ心得』より抜粋