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待合室の怪異  作者: 夏日少年
3/3

ありがとうな

 そのあとの事は、よく憶えていない。


 家に着くと、風呂にも入らずベッドの方へ行き、そのまま倒れこんだ。

そして、気が付くと朝を迎えていた、閉め忘れて全開になっているカーテンの間から、眩しい光が差し込んでくる。

横目で時計を見ると、"10時07分"。少し寝すぎたかもしれない。

別に今日は、午前中に授業を取っていないから問題ないが、早起きが習慣となっている僕にとっては、時間を無駄にしたように思えて、気分が悪い。

急いで起き上がると、顔を洗って歯を磨き、軽くストレッチをする。

そして、遅い朝食の準備に取り掛かった。


「今日は簡単に済ませるか」


 僕は、シリアルを手に取り皿に移した。牛乳を入れて、テーブルに運ぶ。

ものの数分で食べ終わって、椅子の背もたれに寄りかかりながら、昨日のことを振り返ってみる。


(やっぱり、一応警察にでも相談しておいたほうがいいかな。……警察? 僕は何を言っているんだ)


 何か事件に巻き込まれたのならまだしも、こんな若造の怪談話に付き合っている暇はない。

でも、こういう時ってどうすればいいのだろう。寺や神社にでも行くか?

いや、フィクションと現実は違うんだ。怪異を退治できる特別な力なんて、彼らにありはしない。

凡人の僕には、きっぱりと忘れてしまうぐらいしか、対処法は思い浮かばない。

なんだか孤独だ。

インターネットで調べてみたら、何か引っ掛かるかもしれない。

いやその前に、サークルの皆に話してやろうか。きっと驚くに違いない。

何せ貴重な体験だからなあ。

一晩ぐっすりと休んだからか、僕はある程度落ち着きを取り戻して、そんな馬鹿げた事を考えていた。


 スマートフォンを取り出し、サークルのグループチャットを開く。


僕「みなさん、おはようございます。実は昨日、家に帰る途中で物凄い"心霊体験"ってやつを経験してしまいまして……」


S『マジ!? 幽霊とか見たの?』


Y『どこで見たん? 今年の初めだったか、駅前の道路で交通事故があったって聞いた事あるよ』


僕「駅の待合室に女の霊が出たんです。交通事故じゃなくて飛び込みじゃないですか?」


M『ああ、待合室ね』


O『あそこの駅、飛び込みとかよくあるから、だとしたら大量にいるな。見たのは一匹だけか?』


K『草。待合室、囲まれてなかった?』


僕「ないです(笑)」


S『詳しく聞きたいなー。今からまた集まって怪談トークしよーぜ』


Y「今日、午前中に授業取っちゃってるんですけど」


M「サボれ」


O「サボれ」


K「俺もサボって行きます!!」


 さすが心霊サークルのメンバー達だ。勢い良くすぐに食いついてきた。

僕もなんだか嬉しくなってきて、すぐに家を飛び出した。


「今日はいつもより涼しいし、軽く走って行くとするか」


 正直言って、まだ昨日の今日で駅には近づきたくなかったから、久しぶりにジョギングをしながら向かう事にした。

スポーツはあまり得意ではない、というか嫌いだが、普通に走るのだけは好きだ。距離も数キロぐらいしかないし、いい気分転換にもなるだろう。


 代表の家につくと、もう皆揃っていて、僕が最後らしい。

そんなに話を聞きたいのか。感心、感心。

僕は張り切って、昨日の事を鮮明に思い出しながら話した。


S『ほお、なるほど。しかし、バングルだのサンダルだの、よくそこまで憶えてたなー? 頭いいじゃん』


M『東京の名門校出身なんでしょ?さすがだね』


僕「ええ、まあ」


O『去年の冬ぐらいからかな? 大学で、似たような経験をしたっていう奴が何人も出てきてる。ちょっとした騒ぎになってるよ』


僕『えっ、そうなんですか?』


O『うん、お前ほど正確じゃないけど。結構、冷静に対処できた方じゃね?』


S『なんだっけ? 同じ学年の、ビビって逃げる時に階段から滑り落ちた奴。アホだよなあ』


O『Nだろ? 転げ落ちて気を失ったって話。でも、ホラーで気を失うのは生存フラグじゃん?』


僕「あらら。その人、大丈夫だったんですか?」


K『それより、おっぱいはデカかったか?』


Y『おい、そういうのはやめろよ』


僕「はははっ」


 みんなに話せたおかげで、気が晴れた。こうなってしまえば、もはやただの武勇伝だ。


S『じゃあ次は、俺がとっておきのを話そうかな?』


M『……』


O『おっ、ついにきましたー』


S『ちなみに、この話も実体験な』


Y『俺、ちょっとトイレ』


K『あっ、ビビっちゃった? 俺も連れてってくれ~』


 二人が席を外す。


僕「本当ですか? 楽しみですねー」


 僕は少々がっかりした。なんだ、僕以外にも心霊体験をした人がいたのか。

しかも、こんな身近に。先輩が淡々と語り始める。


S『まあ、これは去年うちのサークルであった話なんだけど』


僕「おお」


S『うちに新入生の女の子が入部してきて、A美ちゃんだったっけ。

あとYとKもね。可愛い子で、うちは今まで男だけだったから、嬉しかったなあ』


S『それで、何ヵ月が経った夏の日にね、昨日みたいに夜ここに集まって、みんなで怪談話をしたんだけど』


S『最初は普通に盛り上がってたんだけど、A美ちゃんが可愛いじゃん? 

みんなでちょっかい出すじゃん? 最初は流してくれてたんだけど、段々嫌な顔するようになってきて』


S『どんどんエスカレートして、止められなくて、口を塞いで、押さえ付けて、いろいろやろうとして』


S『うるさいから、殺した』


M『こんな風にね』


僕「……えっ」


 呆然としていた僕の首に、コードのような物が巻かれる。

そして、僕の首を思い切り締め上げた。


O『おっ、大丈夫か? 今回は簡単だったな』


M『じっとしててね。すぐ終わるからね』


SとOが二人掛かりで手足を押さえ付けてくる。僕は必死で足掻くが、ビクともしない。


S『そのあと、みんなで俺の車に乗せて、駅の近くに大きな湖があるじゃん? 

あそこに運んで捨てた。その日は雨が降っていたから、人もほとんどいなかったし、本当ラッキーだったよ』


M『地上で死んだ死体の肺には空気が入っていて、肺が浮き袋の代わりになって、浮いてくるらしい。だからナイフで胸部に穴を開けた』


O『お前さ、学部の奴らとか、他の友達とかにもさっきの事、話すだろ?』


M『死体が腐敗すると、体内にガスが発生して、膨れ上がって浮いてくるらしい。だから他の部位も、出来るだけ穴を開けた』


O『大学内に広まるかもしれない。外にも広まるかもしれない。小さな田舎町だしね。噂話って怖いんだよ? Nの話だって、みんな知ってるよ。』


M『全身穴だらけにしたあと、二つに折り畳んで、車に乗せてあった収納ボックスに石とかと一緒に詰めて、ダクトテープで何重にも巻いて、みんなで捨てた。あれだけやったんだ。そう簡単に浮かんでこれるはずがない』


O『警察もまだ捜してる。本腰を入れてはいないみたいだけど。行方不明者として。A美の友達も捜してるよ。ビラとか配っちゃってさ。面倒臭い事になったら嫌すぎるでしょ。そんな話、誰も信じないと思うけど。こういうのって、どこから足がつくかわからないだろ?』


S『重かったよな。みんなで頑張って詰め込んだんだ。

100kgは余裕で超えてるよ。絶対。俺、筋トレマニアだから分かる』


O『YとKは何やってんだ? おーい!! お前ら!!』


K『すいませーん。遅くなって』


O『何やってんの? 状況分かってる?』


K『いや、Yの奴が逃げようとしてたんすよ』


O『はあ? それで、捕まえたのか?』


K『置物でぶん殴ったら、動かなくなりました』


S『やるじゃん。死んだ?』


K『いえ、死んではいませんでした。どうしましょうか?』


S『まあ、まずこいつを殺してからだな!!』


K『それ、もう死んでますよ』


M『ああ、気が付かなかった。話、聞いてくれてありがとうな。


なんだか、気が晴れたよ』


O『俺も。こんな事したくなかったんだけどな。ありがとう』


S『俺、こいつ嫌いだったんだよね。気取っててさ。

でも、そうだな。……ありがとうな』

 最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。

これからもご愛読の程、よろしくお願い致します。

次回作もお楽しみに。


※誤字脱字や、文章や表現に不自然な点がございましたら、ご指摘くださいますよう、お願い申し上げます。また、感想もどしどしお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] えええええ! 1話と2話までと、3話でだいぶ話が変わってしまいましたね。 私を殺したのはあなた? ってめっちゃ怖いと思っていたら…… 3話を読み進めて、かなりびっくりしました!!! 本当に怖…
2020/07/09 07:29 退会済み
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