『Es(エス)』始動
「何だ、もう仲良くなったのか」
とぼけた台詞と共に現れた英により、十和はスタジオで改めて歩と向き合った。
「江藤歩。CMで顔は知っているだろう?」
「……ども」
「歩、彼が昨日、電話で話した江藤和斗だ」
「初めまして、よろしくね」
にこにこ、にこにこ。
会釈した自分に、歩が笑顔で挨拶してくる。けして女の子っぽい訳じゃないが『天使』という言葉が頭に浮かんだ。
(空気が……何か、キラキラしてる)
思わず見惚れていると、何故か歩もジッとこちらを見つめてきた。そして、瞬きした十和に言う。
「目、大きいね。落っこちちゃいそう」
「……えっ?」
「同じ苗字だと、本当の兄弟みたいだね。こんな可愛い弟が出来て、嬉しいな」
嬉しそうな歩を見て、十和は英が言っていたことを思い出した。なるほど、男だと思っている自分にこんなことを言える辺り、天然たらしだ。間違いない。
(知らないと誤解されるぞ?)
年上の相手だが、思わず心配になってしまう。と、そんな彼女の心を知ってか知らずか。
「弟? 歩、和斗はお前より一つだが年上だぞ?」
「……えっ」
「えぇっ!?」
背も高いし、父の万理より落ち着いて見えるので、英の言葉に驚いた。一つ下ということは、中学三年生か。何と言うか、本当に色々と出来過ぎている。
しかし、大きな声を上げで十和を見る歩にはもっと驚いた。
「ご、ごめんなさい! 年上の人に失礼なこと言って……あの、ただ、和斗さんが本当に可愛かったからっ」
「……お前の方が、可愛いと思うぞ?」
うろたえつつも、妙に力説する歩に思わず言ってしまう。そして我に返ったのか、赤くなった相手に十和は笑って言葉を続けた。
「敬語とか、使わなくていい。あと、さん付けも」
「でも……」
「ホントの兄弟なら使わないだろ? オレも、お前のこと『アユ』って呼ぶからさ」
「何だか、女の子みたいだけど……いいよ。じゃあ、ボクは『カズ』って呼ぶ」
年下だと解ったせいか、少し唇を尖らせて言うのがまた可愛く見える。すると、そんな十和達を見て、英がクスリと笑った。
「君らのユニット名を、まだ言ってなかったな……『Es』だ」
おもむろにそう言うと、英は十和達を見つめながら言葉を続けた。
「苗字から思いついたが、兄弟のように一緒に頑張っていって欲しい……ただし、無理に相手の真似をする必要はないぞ? それなら、最初から双子を選ぶ。君達の個性は大事にしろ、いいな?」
「「……はいっ!」」
英の言葉に背筋を伸ばし、返事をすると隣の歩の返事と綺麗にハモった。
驚いて見上げると、歩も同じようにこちらを見ていて――次いで笑った相手につられるように、十和もふわっと頬を緩めた。




