アルバイト決定
黙った彼らの前で立ち上がり、ファイティングポーズで言う。
「それって、つまりは引立て役ってことじゃないですか! 十和、こんな人を馬鹿にした話、これ以上は聞くことないわよっ」
「……落ち着け、梨香」
そう言うと、梨香もだが英と兵部も驚いたように目を見張り、十和を見た。そんな面々を真っ直に見返して、十和は続けた。
「私は素人なんだから、言われて当然だ……むしろ、こんなのを使う気になるなんてチャレンジャーだよな?」
前半は梨香、後半は英と兵部に。
そう言うと十和は一同にニッ、と笑って見せた。
「だけど、お金を貰う以上は素人だって甘えないで頑張る。女らしくしろって言われるよりは、ずっとマシだ。学校を最優先にしてくれるなら、バイトするつもりだったし私は構わない……いいだろ、梨香?」
「……十和が、そう言うんなら」
「ありがたいが……何故、このお嬢さんに許可を取るんだ? 親戚なのか?」
似ていないし、さっき梨香が同級生と言ったので英の疑問はもっともである。だから、十和は種明かしをした。
「梨香は、うちの学校の理事長の孫娘なんだ。本当はバイト禁止だけどオヤジも海外に行ってるし、家庭の事情ってことで特別に許可して貰うことになってる」
「まさか、芸能界みたいなただれたところに入るとは思わなかったけどね」
「最初、保護者だと思ったが……俺は、幸運の女神様を引き当てたんだな」
身も蓋も無い梨香の言葉に苦笑しながらも、兵部は満足そうだった。確かに、学校サイドの人間を味方に出来たのはラッキーだろう。
と、英が一度自分の机に戻り、一枚の書類を手にやって来る。
「契約書だ。内容を確認し、名前を書いてくれ」
言われて、内容に目を通していく。コンビニなどとは違うので、勤務場所や労働時間などの明確な記載がないのは解るが――一通り目を通し、十和は疑問を口にした。
「えっと、時給っていくら?」
「……プッ」
「時間より、スポンサーや仕事内容によるんだ。ギャラの高額な現場にも出られるように、明日からレッスンを受けて貰う」
兵部に笑われ、英に温かい眼差しで見られたのに頬を膨らませる。
そして、恥ずかしいのをごまかすように名前を書いていると――。
「……それが、君の本名なのか?」
「そうだけど?」
不意に英に尋ねられ、十和は顔を上げた。今の今までただの一般人なのだから、芸名や源氏名な訳がない。
「こんな偶然、あるんだな……彼も『江藤』なんだよ」
「えっ?」
「江藤歩。本名だ……面白いから、苗字は変えない方がいいな」
そう言うと英はメモを手に取り、サラサラとペンを走らせた。
「今の名前も良いが、そのままではバレるかもしれん。だからひっくり返し、字を少し変えて……」
そして書き終えると、英は十和達にメモを見せた。
「『江藤 和斗』。これが君の、男としての名前だ」




