連れて来られて会ったのは
タクシーが到着したのは、怪しいビル――ではなく、住宅街の中に建つ一軒家だった。
『益田』
『株式会社MAST』
二つの表札に、十和は首を傾げた。そんな彼女と梨香を連れて、男が家の中へと入っていく。
「英! 見ろ、どうだ、こいつっ」
黒い髪と切れ長の瞳。一見、顔が整い過ぎて近寄り難い大学生だが、それにしてはスーツが様になっている。
「騒がしいぞ、兵部」
そう言って、立ち上がった青年――英は、特に指示語がなかったのに何故か十和へと近づいてきた。そしてヒョイ、と顔を覗き込んでくる。
そんな相手を、十和は黙って睨み返した。現状は相変わらず不明だが、だからこそ尚更、怯えず見極めたかったからだ。
「……いい目を、しているな」
そんな彼女の視線の先で、英がフッと頬を緩める。
「顔も小さいし、肌もいい。目が茶色だから、髪の色を変えてもいいな……イメージカラーは黄色。小柄だがバランスは取れているから、いっそショーパンもイケるか……」
「……は?」
「おーい。英ー、戻ってこーい」
いきなり目の前で淡々と、しかし熱く語られるのに思わず固まる。
そんな十和の肩に手を置き、兵部がたしなめると英は我に帰り、コホン、と一つ咳払いをした。そして懐から一枚の名刺を取り出し、十和へと差し出してくる。
「私は、益田英……芸能プロ、株式会社MASTの社長だ」
「……はあ……」
社長ということは大学生ではないのか。
童顔だなとか、こうして笑えばもう少し親しみやすくなるのに、などと十和が思っていると英は思いがけないことを言ってきた。
「君、アイドルになってみないか?」
「……えっ?」
話の流れ的に、自分に言われている――と、頭では解る。しかし、理解出来ることと了解出来ることとは別だ。
だから、自分を指差して首を傾げると不意に横から抱きつかれた。
「いきなり、そんな怪しい話に「はい、そうですか」って頷ける訳ないじゃないですか!?」
「梨香……」
「……お嬢さん、君は?」
「鳴谷梨香! もうじき聖マルレーン学園高等部の一年になる、この子の同級生です!」
さっきの英の自己紹介に、対抗したのだろう。
そう言って、キッと睨みつけた梨香に、英が軽く目を見張った。
「同級生? そんな訳はないだろう。聖マルレーン学園は、女子校だ」
「…………」
「…………」
相手の言葉を聞いて、十和は今の自分が男に見えることを思い出した。一方、梨香も同じ考えに至ったらしく、おずおずと言う。
「あの、十和は女の子なんですけど」
「……何だとっ!?」
「えっ、そうだったのか!?」
二人して驚き、声を上げたところを見ると、完全に男に間違われていたらしい。




